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――またあの夢だ……
大きな鉤に捕らえられ、高く吊り上げられている二体のスライムは従兄弟たちだ。
群集の前に掲げ晒された彼らの体液は外皮に食い込んだ鈍色の金属を伝っては滴る。いっそ一思いに刺し貫かれる方がどれほどに慈悲深いことか……
少しづつ弱ってゆくスライムたちは、震えながら見上げている幼い末従兄弟に向かって呟いた。
……忘れろ。こんな残酷な思い出は生き残るお前には必要ない。
……俺たちは戦争で死んだんだ。そういうことにしておけ。
「頼む、恨んでくれ! 罵ってくれ!」
いっそ生きる気力も失うほどに。そうすれば俺もみんなの後を追って……
誰かに揺り起こされて悪夢から救われたスライムは、自分がじっとりと涙液を滲ませていることに気づいた。
「もしかして、泣いてンのかい?」
見上げればベールですっぽりと顔を隠した女が目元だけで心配を伝えている。だぼっとした服で褐色の肌さえも隠したミョネだ。
「随分とうなされてたよ」
「ああ、心配いらねぇ。ただの夢だ」
ミョネにはポツリと弱々しく答えるその言葉が自分にではなく、彼が自分自身に言い聞かせているかのように聞こえた。
だがそれも一瞬のこと。二言めはすっかりいつもどおりの少し生意気そうな声音。
「もう交代の時間なのか?」
「いや、まだだけどさ非常事態だ」
「解った。すぐ行く」
スライムはぶよっとヤヲの姿に変わり、手早く甲冑の支度を整える。
剣を掴んで表へ飛び出せばテントの前には既に半馬人と変哲無い顔立ちの人間の隊士が控えていた。
「状況は?」
「いつもどおりだ。俺たちを見張らせるために飛ばしたガーゴイルだろうよ。」
「ただ、今夜は随分と低くを飛んでいるんだ」
ミョネがテントから首だけを出す。
「手っ取り早くボクが切り捨ててやろうか?」
「馬鹿、何のためにそんな格好させていると思ってるんだ!」
「解ってるよ、ケウィにばれないようにだろ。でも……」
「デモもハンストもねぇ! お前は中に居ろ」
隊員Aとケンタウロスが言葉を継ぐ。
「あんたに怪我でもされたら、俺らが隊長に怒られるんだよ」
「あんたは切り札だからな。万が一のときはもちろん、戦ってもらうさ」
「だって……でも……」
ヤヲの顔でスライムがにやりと笑う。
「俺は腰抜けだぜ。少しでもやばいと思ったらすぐ呼ぶよ」
ぐしゃっとミョネの頭を撫でるようにしてテントの中に押し込んだスライムは、眉根をりりしく寄せて振り向いた。
「さて……と」
森の中に僅かにひらけた草地には所狭しとテントが立ち並んでいる。月光の薄明かりに沈む白い帆布の群れは静まり返って物音一つしない。
その上を大きな飛鼠羽をはためかせたガーゴイルがゆっくりと旋回していた。




