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「何をしているんですか!」
突然の大声がシーンの進行を妨げる。風のように飛び込んできたもう一人の金髪の男が振りかざされた剣をもぎ取った。
「ヤヲっ! どうしてここへ……」
自分と同じ姿をしたスライムを壁際まで突き飛ばしてミョネに駆け寄ったヤヲは、その拘束を引きちぎる。
「ミョネ、無事ですか?」
カランと空しい音を立てて落ちた剣をケウィが拾い上げた。
「ふ~ん、なるほど」
刃先を弄べばしゃこっと軽く柄に沈み、代わりにぴゅっと血糊が飛び出す。
「たいした演技力だね、ツンニーク。さすがの僕も本物だと思っていた」
「くっそ! あと少しだったのに……ヤヲっ!」
「え? えええっ?」
「ミョネ、作戦変更だ。石版の確保を最優先にしろ!」
「解ったよ!」
両側から飛び掛る二人を鼻先でかわして、ケウィが足元にあるはずの石版に手を伸ばした。
「残念。石版はこの通り……」
その手に、ぐにっとした感触が絡みつく。
「いやああああん、もう、内臓がぐちゃっていっちゃうぐらい掴んでええええ!」
「!」
石版があったはずのところに居たのは、あのドMタコ。
「福音は!」
吸い付く吸盤に苦闘しながらケウィが見回すと、胸にしっかりと石版を抱いたニェケが後退るのが目にはいった。
「ああ、君が持っていてくれたのか。いい子だからそれをこっちへ」
ニェケは強く頭を振る。さっきまでどろんと淀んでいた瞳は少年らしい輝きを取り戻し、しっかりとした意思を持ってケウィが差し出した手を拒む。
「僕の言うことが聞こえないのかい。いい子だから……」
ぎちっと脚で巻きつきながら、ニサが叫んだ。
「無駄よ! この子にそういう魔法は効かないんだから」
「効かない? 僕の呪が?」
「ミャーケの男の子はね~、ウソが効かない特異体質なのよ。呪文も例外ではないの。じゃなきゃ、魔族相手に外交官なんて務まらないでしょ」
「くそっ! どいつもこいつも僕を騙して……」
ケウィの唇が魔力を集めて輝き始める。
「聞いちゃだめだ! 耳を塞いで!」
ニェケの悲鳴に、ミョネとヤヲは耳を強く塞いだ。ニサはケウィの体を手放し、知覚器官である脚を強く丸め込む。しかしスライムは僅かに遅れた。
「構わない。僕の狙いは君だよ、ツンニーク!」
銀の唇が形を変えながら丁寧に古代語を紡ぐ。
「イジ=サコアス=ソタツ=ノ=スヂェントラ(わが声を聞け、そして帰順せよ)」
「スライムさんっ!」
石壁に全ての音が吸い込まれてしまったかのように、部屋の中に静寂が広がる。ほんの一瞬……だが、長い沈黙が……
一同が恐る恐る耳を解く。
「スライムさん?」
少年の声に、彼はゆっくりと振り向き、そして……




