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取り急ぎ駆けつけたヤヲとミョネは、天井に開いた大穴を唖然と見上げた。ユリ【大人型】はこれ以上ないほどにしっかりとスライムに抱きついている。
そして件のタコは、おかしなテンションで床をのた打ち回っていた。
「死んじゃううううう、死んじゃうの? 私、死んじゃうの? ああああ、ドキドキ~。」
「これはどういう状況なんですか?」
あきれ返ったその声に、ユリが答える。
「タコ、スラスラ、触った。」
「そりゃぁ、触らなきゃ取り押さえられねぇだろ?」
スライムの言葉に、銀の瞳がぎりっと鋭さを宿す。
「違う。タコ、触った。スラスラ、に。」
「ああ? もしかして……」
スライムは夢の中でやたらと『気持ちよかった』ことを思い出して外皮を真っ赤に染める。
「タコ、スラスラ、ちん……」
「待てっ! それ以上は言うなあっ!」
ユリの口をあわてて塞いで、スライムはわざとらしく咳払いする。
「こいつは、ただのタコじゃねぇ。」
「それは、見れば解りますよ。」
おかしな嬌声を上げてのた打ち回る生物を見ては、さすがのヤヲも冷静に首をすくめた。
「俺の予想じゃ、こいつには夢魔の血が入っている。俺を夢で翻弄したのも、やたらと魔力を隠すのが上手いのもそのせいだ。」
「せいか~い。その優秀さもたまんな~い。」
「そしておそらく、ニェケが探していた人物ってのも、こいつだ。」
「も、超優秀~。その感じで『黙れクズ』とか言って~。」
「黙れ、タコ!」
「それもいい~。」
スライムは呆れきって、冷たい蔑みの眼球液でタコを見下す。
「もう、いい。一人で悶えてろ。」
「放置プレイ? 放置なのねっ!」
そんなタコに背中液を向けて、スライムはこぽりと脳液を揺らす。
「わざわざ国の重鎮が探しに出るほどだ。こんなんでも大人物なんだろう。もしかして、王に繋がる手がかりを持っているかも知れねぇ。」
身悶えていたタコが突然、身を起こした。
「え、パパンがどうかした?」
「!」
一同の驚愕の視線を浴びて、タコがぬるりと吸盤を振る。
「ぁあっ、曝されてる! 曝されてるわっ!」
よほどイラついたのか、スライムがびたんと足底液を踏み鳴らした。
「いい加減にしろよ、この……」
「待ちな、スライム。それじゃ逆効果だよ。」
しゅるっと片腕を剣化したミョネが、その刃先をぶよりとしたタコの頭に押し付ける。
「ごほうびが欲しかったら、ボクの言うことを聞くんだよ、このタコが!」
「おっ、オネエサマ?」
タコが満足げに吸盤をわななかせる。
なんだか軽い頭痛を覚えて、スライムはこめかみ液を強く押さえた。




