表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/194

14

 宿までユリをきちんと送り届けたニェケは、ロビーの椅子にずるりと座って待ち構えていたスライムに、明らかな憎しみを向けた。

「そんなに僕が信用できませんか。」

「や、そういうわけじゃ……ねぇよ。」

「それに尾行も、もう少しまともな人は居なかったんですか」

 ドアの影からこちらを窺っていたヤヲが、びくりと震える。

「気になってエロい気になれなかったろ?」

「あなたみたいに汚い大人と一緒にしないでください。僕のは純愛、そういう気持ちなんかこれっぽっちもありませんよ。」

「ウソ吐け。俺がお前ぐらいの年のころには、興味はあったぞ。」

「ふん、育ちが違うんです。」

 姫君の手の甲に恭しい口付けを捧げて、ニェケは一歩下がった。

「本日は僕などのために貴重なお時間を割いていただき……」

「変。」

「え、何か失礼な言い回しがありましたか?」

 ユリの隣に這いよったスライムが、小さな肩をずるりと抱き寄せた。

「もっと普通に話せってことだよ。」

「それは正式な挨拶としては……」

「挨拶なんかじゃねえよ。お前は楽しかったのか?」

「……楽しかったよ! ユリさんは、楽しんでくれましたか?」

 ユリの頬がかすかに上がる。

「えび、おいしかった。かに、おいしかった。感謝。」

「お、随分良いモン食わせてもらったんだな。」

「えび、ソース、オレンジ」

「オレンジソースで食うえびか。上品な組み立てだな。」

 よどみの無いその会話に、少年の内に再び嫉妬の火の手が上がった。

「ずるい。」

「は?」

「何でも無い! それより、今日のデートのお礼代わりにヒントぐらいは教えてあげるよ。石版は王宮の宝物庫に保管されている。僕にはよく解らないけど、ウチの王様はその守護者だって言ってたからね、そう簡単にはいかないと思うよ。」

「そもそも王宮ってのが見つかんねぇんだよ。」

「王宮は、間違いなくこの町にある。あとは自分で探してよ。」

「なんか……すまねぇな。」

「本当だよ! あ~あ、女スパイなんていうから、どんなすごいコトされるのかドッキドキだったのに、全然だしさぁ!」

 スライムが外皮の上でにやりと笑う。

「お前、本当は可愛いやつだな。」

「は? 子供っぽいってことですか!」

「違ぇよ。取り澄まして、取り繕った物言いよりもそっちの方が好感が持てるってことだよ。」

 ユリも小さく首をかしげる。

「イケメン値、4,000。」

「はぁ? ちょっと待て、それはおごってくれたポイントを加算してだよな。昼飯分をさっぴいたらどうだ?」

「3,800。」

「ぐああああ、こんなガキが三千越えなんてっ! お前、ちょっとトレースさせろっ!」

 小さな体に飛びつこうとしたスライムを、飛び出してきたヤヲが取り押さえる。

「スラスラ! 犯罪スレスレですっ!」

「離せえええ! ショタと罵られようが、非道と言われようが構わねぇ。俺はイケメンになるんだああああ!」

 もみ合う大人たちに、二人の子供は小さく肩をすくめた。

「また誘いに来ても?」

「……」

 暴れるスライムにキョロっと視線を走らせる様に、彼はさらに大きく肩をすくめる。

「今度は、スライムさんも込みで良いですよ。」

「陳謝。」

「別に解ってたし。彼の話をするとき自分がどんな顔をしているか、気づいていないんでしょう?」

「無表情。」

「あれは無表情とはいわないよ。動きは乏しいけど、何でも顔に出まくりだモン。」

「よく、言う。スラスラ。」

「へえ、スライムさんにも同じことを言われる?」

「ニェケ、イケメン値、6,000。」

「たったそれだけで二千アップとか……どんだけだよ、あのスライムは。」

「スラスラ、イケメン値……」

 ユリがニェケに、こそっと耳打ちをする。

「それは、僕じゃ勝てないや。」

 少年は破願する。だが、そこに混じる微かな寂しさに、ユリはぺこりと頭を下げた。

「陳謝。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ