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 タキシードの上着を取り上げ、きっちりと留めていたシャツのボタンをいくつか外す。長めの栗毛色をオールバックに撫で付けてやれば……

「これこそ不良みたいじゃないですか。」

 ニェケの不満の声に、スライムは不敵な笑みを外皮に浮かべた。

「チョイ悪ってのはモテの基本だ。」

 もともと高貴な顔立ちの彼が正装を着崩した姿は、芝居で二枚目が演じる悪の黒幕のような色気がある。それをぎゅっと小さくした可愛らしさは、ユリと並べば人目を引くことだろう。

「これは、敵に塩を送るってやつですか?」

「そんなんじゃねぇよ。あんまりダサい男と歩いていると、ユリが笑われる。」

「……好きなんですね。」

「ああ、好きじゃ悪いか。」

 隠すつもりなど無かった。例え年端も行かぬ子供とはいえ、相手は恋敵だ。半人前扱いしてやるつもりなど微塵も無い。

「……あなたはただの従者でしょう。」

「ンなことは百も承知だ。だから、ユリがお前と出かけるといえば、俺に止める権利は何一つありはしない。」

「そんな話を僕にしてどうするんですか。」

「お互い、フェアに行こうって言う牽制だ。」

「フェア? アンフェアじゃないですか。あなたはユリさんを餌にして、情報を釣ろうとしているんでしょう。」

「それはお互い様だ。お前は情報を餌にしてユリを釣ろうとしている。」

「それだけじゃない。僕は人間で、あなたは魔族だ。たとえユリさんが僕を選んでくれても、一緒に居られるのは高々数十年。なのにあなたは、数百年も彼女のそばに居られる。」

「生きてる時間が短い分、人間の愛情ってのは濃厚だって聞いたことがあるぞ。」

「ねえ、どうせ長生きするんだ。ユリさんの数十年だけを僕にくださいよ。残りの数百年は、あなたの好きにすればいい。もちろん、あなたの知りたがっている情報と引き換えで。」

「さすがは外務大臣サマ。ずるいやり方を知ってやがる。」

「交渉上手といってくださいよ。」

 だん!と鈍い音がして、少年は壁に背中を叩きつけられた。

 ぶよっと揺れる生き物が胸倉を掴みあげている。

「交渉は俺相手にしろよ。ユリが傷つくようなことがあれば、俺はお前を許さねぇ。」

 表情すらないくせに、その声は妙に真剣な熱を帯びていた。

「『俺の女に手を出すな宣言』ですか。」

「残念ながらユリは俺の女じゃねぇよ。だけど全てを懸けて守ってやりたい、大事な女だ。だから俺は、あいつの『寝台』になることを選んだ。」

 スライムはニェケを床におろし、腕液の力を緩める。

「ユリはなんだかノリノリで女スパイ気取りだけどな、それを利用するつもりならこっちも容赦しねぇ。『大人のやり方』でお前をつぶす。」

「こんな大人気ない真似をしておきながら、何が『大人のやり方』ですか。」

「お前は本当に口の減らねぇガキだな。いいからもう行け。男が女を待たせるんじゃねぇよ。」

 小さな背中をとん、と押し出して見送ったスライムはずる、ずるりと床に広がる。

「俺はユリの『寝台』だ。だから、絶対に……」

 形無く崩れたその身の内に身勝手な欲熱を隠して、彼は静かに、美しい主だけを想っていた……


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