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「あんたがクレイジーなのはよく解ったよ。科学ってのを滅ぼしたのもあんたなのか?」

 きんと臆せずに響くスライムの声に、その老人は形ばかりの笑顔を作って見せた。

「そ~んな恐ろしいことをするわけが無いだろう。科学は、エネルギーを使い果たして滅びようとしていた。むしろわしは、そんな人類に新たなエネルギーとして『魔力』を教えたネ。そこのフラスコ小人を送り込んで、ね。」

 過去の過ちへの贖罪か、インジがこぽりと揺れる。

「しかし、人間というのはだめな生き物だね。偉大なる錬金術をも科学の枠で解析し、分類しようとした。魔力を単純な電気エネルギーに変えようとして……くっくっく、科学で出来たものに異質な魔力を流して、勝手に自滅したのは科学者たちの落ち度さネ。」

「師匠! あんた、何てことしてるんだよ!」

 咎めに荒げられた弟子の声を聞いて、フラスコがごとりと後退さった。

「だって、私は……」

「まあまあ、そんなにいきり立つなよ、スライム君。ソレはわしがそのために作り出した生き物なんだしネ、生まれたばかりのソレには、わしに逆らうなんて心はなかったのだから。」

「じいさん、あんた一体、何がしたいんだよ。」

「……新たなる人類の創造……」

 しわの奥で光るエメラルドの瞳が、銀色の瞳をまっすぐに覗き込む。

「だってさあ、より強く、美しい生き物が生き残っていくのが自然淘汰の道理だよね。見てよ、わしが作り出したこの美しい生き物を! 魔力を自ら生み出し、無限に溜め込む完成された『人類』を! これこそが神が作り出した生物をも凌駕する、錬金術の集大成だね。」

「ファンキーだな。神様に喧嘩を売るっていうのか。」

「わしは幾たびか魔族を世に送り出した。だが、いかんせん数が少なすぎたね。せっかく生まれた新人類たちも、魔力を持たぬ生き物と幾世代にもわたって交配を繰り返せば血は薄れ、その形質は失われる。それを避けるためには一度に大量の魔族を放ち、旧人類とのバランスをとることが必至だった。だからワシは、科学に干渉した……」

 フラスコがカタカタと鳴っている。

「崩壊した科学文明から流れ出した魔力は辺りを『潤し』、耐え切れぬものは死に絶え、生き物を魔物に変え、魔族を生み出した。」

「辺りを『汚し』の間違いでしょ!」

 こらえきれずにインジが叫ぶ。

「お前はまた、そういうことを言う……わしのたった一つの誤算は、お前に下らない『心』など与えてしまったことだね。わしを裏切ったのは『良心の呵責』という奴か?」

「そんなご大層なものじゃないわ。私は自分が居る『現在』を守りたいだけよ。」

「ふん、随分とちっぽけなものを守ろうとしてるね。ま、お前じゃあそれがせいぜいか……」

 パラケルススはゆっくりと視線を上げ、ヤヲと、そしてユリを見た。

「君たち新人類なら、わしの理想を解ってくれるね? あの銀髪の男のように……」

「銀髪! ケウィか? ケウィがここに……」


当時まだ国立大学の学生であったケウィの専攻は考古学ロストテクノロジー、王族である権力と財力のままに古代文明の遺物を買いあさるコレクター癖も合わせて考えれば、彼がここに来たのは必然だったのかもしれない。

レポートのためにこの廃都市を訪れた若い学生を、インジは見くびっていた。学生の調査ごときでこの町の真実が暴けるはずなど無いと。

だから、気が付いたときには地下鉄メトロの奥に通じる通路は掘り起こされ、封じられたこの扉はすでに開かれた後だった。


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