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10

 一気に開放された力が、夜空に月色の柱を描く。

膨大な魔力の中心に置かれたユリは小さな体をのけぞった。

「ユリっ!」

 ギガントに押さえつけられながらも、スラスラは悲痛に叫ぶ。

 その声に振り向いた眦から、ぽろりと一粒、雫が落ちた。

 体中から吹き出る魔力が銀色の髪を天に向けて巻き上げ、めくれ上がったローブの下から硬く幼い体の線が顕になる。

 息を呑むほど白い身体に月明かりが射す様は、哀れなほどに美しかった。

「見るな! 見たやつは、目玉を抉りだすっ!」

 スライムの必死の叫びも虚しく、全ての男達が妖しい光景に立ち尽くす。

 ぐいと、ユリの背の丈が月に向かって伸び上がる。子供の短い手足がすらりと長くなり、すとんとしていたシルエットラインが丸く、美しく肉付いて……

 魔力の風が天に吹き抜け、静寂が辺りを支配した。

「ユ……リ?」

 静寂の中心に目を向けたスライムが見たものは、銀髪に、銀の瞳、それに相変わらずの無表情……だがそれは、幼く愛くるしい『姫』ではなく、すらりと細身の『女性』の姿だった。

 はだけたローブを掻き合わせて隠すが、なだらかにまろい女体は、すでに鮮烈な影となってスライムの心に焼きついている。

「これは……」

「知らなかったのかい。彼女は、人間的な年頃で言うと十八歳。適齢期だよ。」

 柔らかいムルノーの眼差しが、ユリのカラダを嘗め犯す。

「まあ、胸はもうちょっとあっても良かったかな?」

 ぴくり、と拒絶にカラダを震わす彼女に、ウェアウルフは冷たい言葉を突きつけた。

「おっと! 魔力は使うなよ。あんたの王子サマを助けたいならな。」

 押さえつけられ、刃を突きつけられたままのヤヲとスラスラは、全く同じ顔で同じように歯軋りする。

「この二人は、まだ殺さない。だが、お前が我が主を拒めば……」

「拒まない。離す。」

「離してやるわけにもいかねえな。あんたの『啼き方』が悪かったりしたら、代わりに泣いてもらわなくちゃならないんでな。」

 物騒なやり取りを見守りながらも、決して柔らかな笑顔を崩さないムルノーは、むしろ醜悪とも言えた。

(あの顔に一発ぶち込んでやりたかったんだがなぁ。ま、しょうがない。)

 それがありがちな作戦だということは十分に承知していた。おそらく、自分の結末ってやつも……

 スラスラはムルノーの醜悪さをまねて、張り付いたような柔らかい笑顔を隣の『同じ顔』に向ける。

「なあ、俺、もう帰っても良くね?」 

 ヤヲの美しい顔が怒りに歪んだ。

「だってさあ、騙されたんだぞ、俺。小さくて、カワイイ女の子が困っているからって、手を貸したのにさぁ」

 ヤヲがぎりぎりと歯の根を軋ませるのを見ながら、そのスライムは一人ほくそえむ。

(もっと憎め、もっと怒れ。その綺麗な顔が歪むほどに、俺はやつらに近づける。)

「頼りなくて、はかなくて、あとは……ぺったんこなのが良かったのに。」

「くくくっ、本物のロリコンかよ。」

「そんな女、くれてやるよ。あんた、俺を放すように言ってくれよ。」

 ふと見上げたユリの表情は硬く閉じられ、怒りも、悲しみも……スラスラにさえ、その心は見抜けない。

(せめて一目……その姿で微笑むのを見たかったな。)

 自分の気持ちを張り付いた笑顔に隠して、スライムは彼女から視線を引き剥がした。


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