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 凍りついたレールから立ち上る冷気のおかげで、奴らはもう出てくるつもりは無いようだ。その間を歩くユリ【大人型】は、スライムが甲冑の下に着ていたアンダーウェアをだぼっと着せられている。

 肌に直接触れる甲冑の冷たさに、ヤヲの姿を借りた彼が大きなくしゃみを放った。

「い……っきしょいいい!」

「スラスラ、服。」

「いいから着とけ。目の毒なんだよ。」

「毒……」

「違う! 決して悪い意味じゃないんだぞ! ムラムラって言うか、どきどきって言うか、いろいろと盛り上がっちまう……」

 もじっと洋服のすそをひねり、ぽ、と頬を染めるユリを見たスライムは、ばばばっと耳までを真っ赤に染める。

「……ンな訳があるかっ! いいからお前は、師匠と絵草子まんがの話でもして来いよ!」

 ぶーと唇を小さく尖らせ、それでもグレムリンが担ぎ上げたフラスコに並んだユリは、こぽんこぽんと楽しそうに揺れるピンクの液体を見下ろした。

「あんたたちって面白いわ。実に興味深い。」

 ガラスの向こうで、くるりと液体が揺らめいた。

「ねえ、私がなぜ絵草子作家なんかやっているのか、わかる?」

「解る、無い。」

「フラスコ小人って言うのは知識の塊よ。生まれながらにしてこの世の全ての知識を持つ生き物なの。解る?」

 ユリがこくりと頷く。

「でも、知識で量れないものが在る。それがヒトの『心』よ。だから私は、心にすごく興味があるの。」

「心?」

「私がこの先であなたたちに見せるのは、動かしようの無い『過去』。そこからあなたたちが何を学び、何を選ぶのかは全て『現在いま』にある、心のなせる業よ。」

「難しい。」

「『未来』は誰にも解らない。だから、自分の心が感じる『現在』を大事にしなさい、ってことね。」

「心、感じる……」

 ユリはもぞもぞと裾をひねり回す。

「先生、スラスラ、好き?」

「……それがあなたの選ぶ『現在』?」

 力強く首肯するその姿に、フラスコの中からため息が漏れた。

「そうね、正直な話、私が好きなのは『ツンニークのスライム』だわ。」

「ツンニーク、スライム?」

「ご存知のとおり、スライムは非常に不安定な生き物よ。多種族と交われば、生まれてくる子は決してスライムにはならない。」

 確かに、雑種の魔族は魔力の強い親の形質を受け継ぐ。魔力を持たないスライムは、スライム同士の婚姻でしか生まれないものだ。

「だから、私はあの子にスライムの嫁をもらって欲しいと願っているの。だって、サクテはさっさと嫁に行っちゃったし、コワは結婚する気配すらない。他の兄弟だって……」

「スライム、生まれる、無い?」

「解りきったことを……あんたなんか特に、魔力の塊みたいなもんじゃない。生まれてくる子供は間違いなく……」

「ひゃくぱーせんと?」

 ぐっとフラスコの口を掴む真剣な口調に、インジは少したじろぐ。

「百……ではないけど……すっごく稀に、先祖がえりで生まれることがあるけど……」

「スライム、子供。」

「聞いてる! 稀によ? 何千人に一人ってやつよ!」

 聞いてなどいない。ユリは両手で何かを抱きしめるようなしぐさをして、へらりと口の端を小さくあげた。

「……可愛い。」

「あんたって、変わってるわね。」

 こぽ、とグレムリンたちに合図して、インジが立ち止まる。

 そこには崩れかけたコンクリートを切り抜いて作られた巨大な扉の前だった。闇の中で扉がぽわっと青白く光って見えるのは、かすかな魔力を帯びている証拠だ。

「ま、浮かれた話はここまで。ちゃんと見て、そして選びなさい。『未来』につなげるための『現在』を。」

 グレムリンたちの手によって、その扉は開かれた。


たいへんだ ! インジ先生が大暴走!

ムーンに(光明喰らう闇)という作品を書いちゃったよ。

R-18、しかもBL。そういうの、平気って方は覗いてみて♪

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