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 暗いトンネルの中に、青白く光る少女のシルエットが影絵のように浮かび上がる。

 突然の光に照らし出された虫たちは闇を求めて触角を振り回し、壁を走り回った。

 シルエットはすらりと手足が、そして胴が伸び、急速に光を失う。

 再び闇に包まれた中で揺れる触角が、落ち着きを取り戻した。

「あの中に雄虫もいると思うと、なんだかむかつくな。」

 スライムが心底憎憎しげにうなった。ぱつんぱつんになった着衣からは太ももが大胆にこぼれている。それを隠そうともしない無防備さはヒトには十分に扇情的だが、もちろん、虫には関係ない。

 捕食のためのまなざしが降り注がれる。

「イジ=イコフ(わが前に)……」

 陣なし詠唱を始めるユリに、スライムが飛びついた。

「待て待て待て! 何をする気だ?」

「焼き尽くす。」

「勘弁してくれ。こんなトンネルでお前の火力じゃ、俺たちまで消し炭になる。」

 かさっと一斉に鳴る足音にヤヲが叫ぶ。

「スラスラ!」

「解ってるよ! いいか、奴らはどれだけデカかろうと所詮は虫、低温には弱い。氷属性の詠唱は出来るか?」

 銀の髪がふわりと首肯する。

「奴らを直接狙う必要は無い、壁を凍らせろ。俺たちまで凍っちまわねぇ程度にな。」

「やる。」

 ユリの詠唱の声はいつもより静かに、だが凛と力強くトンネルに響いた。

「ニークヅ=ヒ=ムナアイヤ=ウェヌ=シウィニーソアイ=ニ=ツフニクス=ラム=コラサカヲ(大事な人を守る力だけを私に。大気よ、冷えよ、凍れ)」

 辺りに冷気が立ち込め、ユリの足元に霜が張る。音を立てて凍りつく空気を感じた触角は、ぴたりと動きを止めた。

 はあっと白い息を吐きながらユリが続ける。

「シ=モーア=ミツウ(壁を走り)……」

 短くなった衣服は冷気をさえぎってはくれない。白い肌が寒さに赤く染まり、ユリがぶるっと胴ぶるう。

「寒いか?」

 ずるりと甲冑を脱ぎ捨てた定温生物スライムが、凍える細い体をたぷんと掬い上げた。

「スラスラ、適温。」

「このままでも詠唱、出来るな?」

 ふんわりと彼に笑いかけた女は、朗とした声で冷気を喚ぶ。

「シ=モーア=ミツウ=イヲ=ウィジイ=コフユヌ=ア=ツヨト(壁を走り我らが前に道を示せ)」

 ピシッと張り詰めた音が響き、壁の表面に真っ白な霜がびっしりと張る。急速に冷やされたレールがごーんと低い重低音を重ねた。

 壁に張り付いていた虫たちは、足元を砕くような寒さに動きを失って、ぼたぼたと落ちる。

 ユリとスライムの真上から落ちる飛び切り大きな一匹に、ヤヲが巨人斬を振るった。ごうっと鳴る剣閃が巨体を弾き飛ばし、目にも留まらぬ瞬迅がそれを細かな肉片に変える。

 しかし、スライムは絶対の信頼を持って微動だにしない。巻き起こる剣風は仲間の髪の一筋すら傷つけず、そよとしたその風が彼の頬液を撫で通った。

 切り刻まれた黒い羽はいやな音を立てて壁に叩きつけられる。

 グレムリンとともに逃げ惑っていたインジはフラスコを止め、積み重なって倒れた巨大昆虫の中にすっくと立つ三人を見上げた。

「なかなかいいチームじゃない。ちょっと萌えたね。」

 グレムリンたちが\(^▽^\)(/^▽^)/と大はしゃぎする。ぐげ、ぐげ、と賞賛の声が惜しみなくスライムたちに注がれた。


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