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御食事中のは読まないほうがいいかも?
「出たわね! 行くのよ、グレムリン軍団!」
ピンクの液体がフラスコの中で叫ぶ。
だが、彼女を担いだグレムリンたちは(>_< )Ξ( >_<)な表情で後ずさった。
「ちっ! 使えねぇ。ヤヲ、構えろ!」
ユリを後ろ手に守る彼の声に、ヤヲは履いていた靴を脱いで構える。
「ばか! そんなモンでどうやって戦うつもりだよ!」
「嫌ですねえ、そんな虫ごときに……」
振り向いたヤヲは、それが思いのほか長いことに驚いた。
するすると這い出す糸のような触角は指ほどの長さが腕ほどの長さに……そしてついに背丈ほどの長さになって初めて見えた黒々とした頭のでかさに、彼は初めて臆した。自分が対峙しているのは危険極まりない巨大生物だ。足音だって、カサカサなんてかわいらしいものではない。ガサガサと乾いた音が辺りに響く。
がさりと全身を現したその生き物は、ざっと見積もって二メートル……もちろん、触角はカウントせずに、だ。油を塗ったような羽がたいまつの明かりを照りかえして黒い。
「たかが虫一匹! 巨人斬なら……」
しゃりっと小気味良く剣を抜くヤヲに、スライムが顎で背後を指した。
「お前が言ったんだろ。一匹を見たら……」
「……百匹?」
振り向いた金の瞳が嫌悪感に見開かれる。
壁に張り付いた闇がもぞもぞと蠢動している。もちろん、そう見えるだけだ。一面を覆うほどに張り付いた巨大生物たちが押し合い、へし合い、押し出された数匹がどさりと落ちる。
フラスコを担いでいたグレムリンの中から、<(lll゜Д゜)>{と飛び出した一匹に、翅をばっと広げた『奴』が飛びついた。あっという間に引き倒された小さな体に、擦り寄るように奴らが走り出す。
わさっとたかった黒い翅の下から、グレムリンの断末魔が小さく響いた。
「くっそ! ユリ、師匠、俺とヤヲから離れンなよっ!」
スライムは自らも腰のバスターソードを抜いて身構える。
新鮮な獲物のにおいにひくつく幾千もの触角が、こそこそとこすれあって音を立てた。
「ヤヲ、メスには気をつけろ! 適当にぶった切ると……」
言葉よりも早く、ごうっと風巻く剣鳴が飛びついてきた奴を切り裂く。真っ二つになった胴からは白い脂肪質の身と一緒に手のひらほどもある仔虫が無数に零れ落ち、ヤヲの体中に這い登った。
「! !! !!!!」
「腹を切るな! 首を狙うんだっ!」
大きく羽音を鳴らして向かってきた一匹を、スライムの剣が横切りにする。ごろんと首がもげ落ち、それでもなお足掻く体に奴らがわさっとたかり、食らいついた。
「ぐううっ! 夢に見そうです。」
ざざん!と音立てる巨人斬が、ぬらりと光る体を数匹まとめて斬り飛ばす。
ざん!ざん!と、スライムが一匹ずつを慎重に切り伏せる。
「くっそう! キリが無さ過ぎる。」
「こうなったら、ユリ様の力を解放します!」
ヤヲは隠しから鍵を取り出し、手早くユリのチョーカーを外す。
しゅおおおおと魔力が辺りに立ち込めた。




