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 そのころ、ヤヲ隊の仮宿となっているビルでは、一騒動が起こっていた。

 何者かがその建物内に侵入したのだ。何人かの隊員が切りつけられて怪我をした。後ろから殴られて意識を飛ばしたものも居る。だが……侵入者の姿すら見つけることは出来ない。

 拘束されているミョネは、閉じ込められた部屋の中でその騒ぎを遠く聞いていた。

(まさか、ケウィの手の者……)

 入り口を見張っている半馬人ケンタウロスに視線を向ける。いかにも人のよさそうな彼は、おろおろと行ったり来たりを繰り返すばかりだ。

(役に立ちそうも無いね。)

 ミョネは自分の足首と手首、ちょうど拘束の鎖が当たっている辺りに魔力を集める。鋭い刃に変わった体が、ちゃりんとかすかな音を立てて鉄の縛めを断ち切った。

(ヤヲ、楽しかったよ。)

 涙をこらえてケンタウロスに飛びつき、頚動脈をぐっと締める。

「ミョネ! お前、やっぱり……」

「そうさ、ボクはどこまで行っても、裏切り者なのさ。」

 意識を失って倒れるその男から飛びのいたミョネは、部屋の真ん中に黒々と落ちる自分の影を怒鳴りつけた。

「そこに居るんだろ! 気配がダダ漏れなんだよ。」

 影の中からもう一つの影が立ち上がる。

影男シャドーマンの能力ってやつかい。お見事だね。」

 ぐぐっと大きく伸び上がった影が、ふうっと浮かび上がるように銀髪の若い娘に変わった。

「やだぁ、女の子なんだから、シャドーウーマンって呼んで♪」

「良かったよ。そろそろ退屈していたんだ。」

 彼女は、もちろん『婚姻外の子』だ。魔王直下のお庭番である影男シャドーマンと、人間の王族の間に生まれた娘、リユ=フシセヲ=ノクスウェ。

 影にまぎれる能力を持つ彼女は、潜入と暗殺のエキスパートだ。本気を出されたら、この程度の隊などひとたまりも無い。

「ボクを迎えに来てくれたんだろ?」

「私的にはぁ、あんたなんかもういらないじゃんって言ったんだけどぉ、ケウィ様がどぉ~してもって言うから?」

「ふん、だろうね。」

「ね~え、どうやってケウィ様に取り入ったのぉ? やっぱり胸? その胸なのぉ?」

「そんなんじゃない。ボクはあいつのコレクションだからね。その中でもレア中のレア物、手放すには惜しい『道具』って訳さ。」

「ふ~ん? 解かんなぁい。」

「とりあえず、その甘ったるいしゃべりはやめなっ!」

 ミョネが両腕を剣化する。

「さて、退路だけど……いちいち雑魚どもの相手をするのもかったるいだろ?」

 スパン!と派手な風斬り音が響き、壁がさっくりと切り落とされた。

「ここから飛び降りて、派手に退場ってのは、どう?」

「姐さん、相変わらずキレてるぅ♪ でも、そういうの好きよ。」

リユにはふふんと不敵に笑って見せながらも、後ろ髪を引く名残に耐え切れずにミョネは振り向く。そこにはもちろん、あの金髪の男の姿など無いことはわかっているのに……

(ヤヲ、きっともう、許しては……)

「何してんのぉ、早く行こうよぉ!」

「ん? あ、ああ。」

 ミョネはくっと唇をかみしめ、壁の裂け目から表へと飛び出した。


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