席替えで高嶺の花の涼宮さんの隣の席になった
──僕にとって彼女は手の届くはずのない存在だった。高等部に上がる際の席替えでその彼女、涼宮香織と隣同士になるまでは。
英明中学高等学校、全国トップクラスの進学実績を誇るこのエリート校には中等部から高等部に至るまで例外なく優秀で文武両道な生徒が集まっている、と傍からは言われていたり学校のレビューサイトにもそんな書き込みは多い。
だけど、冷静に考えれば例外なくそんな完璧な生徒ばかりの学び舎などあるはずもないのだ。
なにを隠そう僕、水野明人がまさにその例外である。
入試成績は最低点ギリギリ、定期テストでは赤点スレスレ、運動全般が苦手で体力も人並み以下、見た目も男子にしては幼く、会話も得意ではない等々。
「はいはい、上げれば切りがないんだろそれ」
僕がそんな話をこうして友人の宮野公正にするのはこれで何回目になるだろうか、正直多すぎて記憶が曖昧だ。
「だから、英明生は完璧なんてジンクス僕にとってはいい迷惑なわけなんだよ公正」
「まあ明人は人並み以上に努力はしてるもんなー正直この学校の基準が高すぎるというか」
それこそと言って公正は最前列の廊下側の席に背筋を伸ばして座っている女子生徒を見る。
「涼宮さんがこの学校の基準みたいになっているところはあるよなぁ……」
涼宮香織──長く艶やかなロングヘアーに包容力のある体つきをしながらも細く長い手足は繊細で誰もが想像する清楚系美少女を具現化したような美貌を持ち、学校随一の文武両道でもある。
彼女が頭角を現したのは僕が中等部二年の時だ。彗星のごとく学年トップに踊り出してからというもの現在までずっと一位を取り続けている。
「でも、涼宮さんはあまり人付き合いは得意そうには見えないよ。まあ僕が言えたことじゃないけど」
「それは、仕方ないんだよ高嶺の花の涼宮さんなんだから」
高嶺の花の涼宮さん、いつの間にか彼女はそんな呼ばれ方をされて尊敬の対象にはなってもお近づきになろうとする生徒は居なくなった。
彼女の放っている雰囲気も少し関係しているのだろうけど。
「寂しいことだよな、なんか」
僕が彼女を見てそんなことを呟くと、公正はにやりと笑って言った。
「そう思うなら話しかけてみたらどうだ? 嫌味とかじゃなく意外とお似合いだと思うぞ」
「まさか、僕なんか軽くあしらわれて帰ってくるだけだよ」
公正は「そうかな? まあ、無理強いはしないけど」と言ってさらに続ける。
「せっかく高等部に上がったんだから新しい関係を築くのも一興だぞ」
そんなの築こうと思って築けたら中等部から現在に至るまで友達が一人しかいないなんてことになってないんだよ、と僕は心の中で呟いた。
高等部に上がってからの初日は席替えから始まる。クラス替えをするよりも席替えの方が生徒の負担を少なくし新たな交流も促せるという狙いらしい。
そしてその最終結果は僕の予想を良い意味でも悪い意味でも裏切ってきた。
「また明人の前の席かよもうなにかの運命なんじゃないかこれ」
前の席になった公正はこちらを向いて苦笑していた。しかし、そんな中クラスメイトの視線が一斉にこちらに向けられている。
理由はもう単純なことだ──。
「──よろしくね明人くん」
初めて聞いたはずなのに涼宮さんの穏やかで凛とした声はどこかで聞いたことがあるような感じがする。
「あ、ああよろしく涼宮さん」
「これから仲良くしてね」
涼宮さんはそう言ってほんの少しだけ微笑んだ、ような気がする。
クラスの視線が集まるのも仕方ないことだ、なぜなら僕の隣にはあの高嶺の花の涼宮さんが居て、さらには僕に自ら話しかけているのだから──。




