クロノセカイ
「はぁ…!はぁっ…!」
捕まったら殺される。
ある男は今、仮面をつけた2人の刺客に追われている。
大森林の中にある15m以上の大きな木の枝と枝を飛び乗り、かき分け、大雨の中を必死に逃げる。
(くそ…!この眼だけは…!)
仮面をつけた刺客の1人が水魔法で精製した矢を放ち、男の左脚をかすめる。
「ぐっ…!」
男は木の枝から落ちてしまう。
しかし、それが功をなしたのか仮面の刺客は男を見失ってしまった。
男は落ちた衝撃と負傷した左脚のせいで立って逃げることができなかった。
しかし、運良く落ちた先には人が隠れることのできる大きさの木の穴があった。
男は幸運だと思い、激しい痛みで動かない体に鞭を打ち這いつくばりながら移動した。
木の穴に辿り着くと、そこには雨宿りをしていた小さい1人の少年がいた。
7、8歳ぐらいの小さな少年は驚き、声を震わせながら口を開く。
「あの…大丈夫…?おじさん…。」
それはそうだろう。脚から流血しながら這いつくばって穴に入ってきた男なんて。誰だって怖いだろう。
男は激痛に耐えながら、少年の不安を消そうと体を起こし、明るく、穏やかに話し始めた。
「いや〜すまないね!おじさんはちょっと追いかけっこしてただけなんだ〜!さっき怪我しちゃって落ちちゃってね〜!心配はご無用だ!しばらく、追っかけてくる人達が来るまでここにいさせてくれないかな!」
そう言うと、少年は顔を明るくし
「そうなの!?おじさんこんな雨で追っかけっこしてたの!すごい!追っかけの人がこっちに来るまでいていいよ!」
男は安堵しながら、包帯を取り出して止血をする。
しばらく少年と他愛もない会話をし、時々外を確認しながら時が経つのを待つ。
話を聞くと、この少年は『タクシス・ガイン』という名前で近くの村からこの森に山菜をとりにきたそうだ。
その途中で雨が降ってきてしまい、今は雨宿りをしている。という訳だ。
そして、この少年は左の片目が見えない病気のようで生まれつきの物らしい。
不憫である。神はこの様な純粋無垢な少年にも試練を与えるのか。と、男は心の底から思っていた。
1時間ほどした頃だろうか。男の体はかなり回復し、立って動けるほどになっていた。
そろそろ追手もいなくなっただろうと思い、外を確認する。
追手はもういないようだ…
そう思い、少年に別れの挨拶を告げる。
「ありがとう。タクシス。だいぶ身体も回復した。おじさんはそろそろ出るよ。本当にありがとう。」
タクシスは少し不思議そうな顔をして
「おじさん、まだ雨だよ?雨が止んでから出た方がいいんじゃない?」
「ああ、大丈夫さ。おじさんは雨の中の追いかけっこが好きだからね。」
周囲を確認し、ゆっくりと外を出た瞬間に頭上から水魔法の矢が降り注ぐ。
大雨のせいで降り注ぐ水の矢に反応が遅れたが、男は素早く木の穴に戻り、穴を防御魔法で覆いタクシスに向かって叫んだ。
「タクシス!!奥に隠れろ!!!」
「え?なんで??」
「いいから早く!!!!!!!」
追手はまだいたようだ。
この木の穴の中にいては、いずれタクシスもろとも殺されてしまうだろう。
男は自分の怪我の状態がよくないということを知っていた。
このまま穴の外に逃げてもいずれ捕まり殺されるだろう。
男はこの状況の中、自分に出来ることはあるか。と、必死に考えた。
男は苦渋の決断をする。
自分が逃げてもすぐに殺され、目的を達する事はできない。
ならば、この少年に託してしまおう。
よからぬ考えだということは、男が一番理解していた。しかし
「すまない……!!!」
そう呟きながら、男は自分の鞄からある物を取り出し、それを見つめた。それは、禍々しい魔力を帯びた一つの眼球であった。
男は、タクシスの方を見ながら
「タクシス…。すまないな…。いきなり奥に行けなんてな…。言い忘れたことがあってね。おじさん実はお医者さんなんだ…。少し痛いと思うけど、君の片目を見えるようにできるんだ。この痛みを我慢すれば目が見える様になる!」
突然の提案にタクシスは戸惑いながら少しの間を空け、口を開く。
「えっと…本当に目が見える様になるの…?おじさんは僕の目を見える様にできるの…?」
幸い、外は大雨の影響で水魔法の矢の音と混じり攻撃されていることには気づいてない様子である。
男は明るくも少し焦りが見える様な表情で答える。
「ああ…!もちろんさ…!必ず見える様になるよ…!」
タクシスは顔を明るくし即座に答えた。
「ほんとうに!見える様になるんだね!おじさん僕の目を見える様にして!!」
男は安堵の表情を浮かべながら防御魔法を展開させながらタクシスの元へ行く。
「じゃあ、始めるよ…。」
そう言い放った瞬間、タクシスを手刀で気絶させる。
男は悲しそうな表情をしながら
(すまない…。少年…。君に業を背負わせてしまうなんて…。俺は愚かな人間だ…。どうか…許してくれ…。)
男はタクシスの見えない方の片目を摘出し、禍々しい魔力を帯びた眼球をタクシスに埋め込んだ。
「直に馴染んでいく…。そしたら君の目は見える様になっているはず…。すまない…少年…。いや…タクシス…。君の人生に良き幸せを…。」
男は気絶しているタクシスにそう言うと、防御魔法を解き穴から素早く出て行った。
男は逃げながら、注意を引くように
「お前ら!!目的のものはこっちだ!!!死ぬ気で追いかけてこいよ!!!!!」
男は森の中に仮面の刺客2人と共に姿を消して行った。
大雨も止んで夕暮れ時になった頃、タクシスは目を覚ました。
見えない方の目が痛む。そして夕暮れ時になっている事に気が付き、焦って穴の外に出て陽を確認する。
そこで初めて気がつく。今まで平面で見えてたものが立体に見えている。光も今までよりも強く感じる。もっと色鮮やかにものが見える。
少年は感動と不思議な感覚に陥りながら、見えていた方の片目を手で覆い隠し、見えていないはずの目で世界を確認する。
見えている。今まで見えなかった左目が。全てが見える。
タクシスはあまりの出来事に感動し、涙を流した。
そうだ。おじさんにお礼を言わなきゃ。
しかし、探しても周りには誰もいない。
タクシスは追いかけっこに行ったのかと思い、涙を流しながら虹のかかった夕暮れ時の空に言い放つ。
「おじさん…!ありがとう…!」
もう少しで日が暮れる。タクシスは急いで山菜の入った籠を背負い、急いで村の方に帰る。
村の入り口付近に近づいたところ、入り口に母と弟の姿があった。
「ただいまーー!!!」
と言いながら、母と弟の元に駆け寄った。
母は険しい表情をしながら
「タクシス!あんた帰ってこないから心配したよ!朝から山菜取りに行って日が暮れるとか何してたんだい!」
と一喝した。タクシスは反省の様子を見せることはなく明るい表情で
「お母さん!!僕ね!!!目が見えるになったの!!!!」
母は戸惑った表情で
「は?え?どういうことだい?」
「だから!!目が見えるの!!!」
母は不思議そうな表情をしながら、見えていた方の目を隠しテストを行った。
「これは何本に見えるんだい?」
「3本!」
「じゃあこれは?」
「2本!」
「じゃあこれは…?」
「5本!!」
「じゃあ……これ……は…?」
母は段々と泣きそうな表情になりながらテストをしていく。タクシスもそれを見て、涙ぐみながら
「1…本…!!」
そう答えた瞬間、母は涙を流しながらタクシスを抱きしめる。
弟もそういう雰囲気を感じたのか、少しこっちに寄ってタクシスを抱きしめようとする。
「よかった…!本当によかった……!目が見えるようになって…!ありがとう…!ありがとう…!」
弟のジグルは不思議そうな表情で
「お母さん誰にありがとうってしてるのー?」
母は涙を流しながら答える。
「よくわからないけどね…。ありがとうって気持ちなんだよ…。どんな魔法よりも平和な魔法の言葉だからね…。言いたい気分なんだ…。」
その日のうちに村のみんなにも情報が回り、タクシスの目が見えるようになったことの祝いの会を村のみんなで開いてくれた。
この日を境に、『タクシス・ガイン』の運命は大きく変わることも知らずに…。
はじめまして!
まずは短編として一つ執筆してみました!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
連載してゆる〜くやっていく予定ですので、色々な意見やコメントお待ちしております!




