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嘘は真実へ〜life of lies〜  作者: 文記佐輝
嘘をつくたび
8/23

八話『嘘を付くよりも本当を…』

親が逮捕されて、二年が経った。

アタシはなんとか高校へ入学することができ、朝芽峯高校あさがみねこうこうの生徒となった。

そこを選んだ理由としては、恋歌れんかが同じだったからだ。

「どうだ、高校には慣れた?」

クラスは残念ならが、別々となってしまったが、こうして昼の時に一緒に食べてくれる。

「そこそこね。…みんな優しくて、困っちゃうくらいかな。」

「いいね。そのまま困ってな。」

いたずらっ子のように笑う彼女に、アタシは弁当の卵焼きを口に突っ込んでやった。

「そう言う恋歌はどうなの?」

その問いに、彼女は卵を食べ答えた。

「悪いやつは居ないな。ただ、女子生徒が少しうるさいかなぁ…」

ハハハ、と乾いた笑いをする彼女に、理由を尋ねた。

「…みんな私に付きまとってくるんだよ。

『キャーイケメン!』、とか言われてさ、困るぜ。」

と言いながら、彼女は髪かき上げる。

「そういう行為のせいだろ。」

とツッコミを入れ、二人で笑い合いながらご飯を食べるのだった。

それから、アタシは教室に戻ると、五限目の準備を始めた。

「やぁやぁミハルくん。この前の回答を聞きに来たよ。」

準備を終えたアタシに、なぜか白衣を着た女子生徒が話けてきた。

「…いやぁ…、アタシはだいじょ…」

「もし入ってくれれば、ボクが勉強を教えてあげるよ。」

アタシの言葉を遮り、話を続ける。

そんな彼女の名は、那須川幸弥なすかわさちやという、自称天才科学者だ。

いったい何に誘われているのかと言うと、『科学研究部』という部活だった。

「アタシはそう言う科学とかって、よくわからないんです。

だから…」

「もちろんタダでとは言わない。

誘ったからには、最後までボクが面倒を見てあげるよ。」

押しの強い幸弥に、アタシは断ろうにも断りきれない状況に置かれてしまう。

アタシはしばし考えた結果、仕方なく入ることにした。

「うむ!君ならば入ってくれると思っていたよ!」

嬉しそうにアタシの手を取り、ブンブンと振った。

「では、今日の放課後、科学室で待っているよミハルくん!」

「ではまた!」と言い、彼女は素早く教室を出ていった。

(まるで嵐のような人だったな。)

そんなことを思いながら、アタシは少し楽しみに、放課後を待つのだった。


ーーー放課後

アタシは幸弥の言っていた科学室へと来ていた。

入ることに躊躇っていると、一人の男子生徒がやって来た。

「あのぅ、もしかして科学研究部の部員ですか?」

と、恐る恐る聞いてきた。

「え、あ、アタシは誘われて…」

そう返すと、彼は安心したように、胸を撫で下ろした。

「良かったぁ、俺以外にも誘われてたんだ!」

嬉しそうにそう言うと、彼は右手を差し出した。

「俺、1年B組の安堂和康あんどうかずやす。よろしく!」

元気よくそう名乗った彼は、眩しい笑顔を見せてくれた。

アタシは少しだけ悩んだ末、同じように名乗った。

彼の手を握り返すと、軽く振った。

そして、二人でその扉を開け、中へと入ると、幸弥が怪しい薬を飲んでいた。

「ちょ!?」

アタシたちは慌ててそれを止めようとして、彼女に近づいた。

その瞬間、彼女は片手でアタシたちを制止した。

全て飲み終えた彼女は、アタシたちを見ると、両手を広げた。

「…ようこそ。科学研究部へ。」

手に持っていたフラスコを、机の上に置くと、白衣のポケットからエナジードリンクを取り出した。

「今のは、このドリンクを注いだだけだよ。」

と言い、ケタケタと笑った。

騙されたアタシたちは、怒りを抑え、とりあえず注意だけした。

「科学というのは偉大なのだよ。

…科学さえあれば、例え世界中の人々が石化したとしても、いずれ復活する科学人間によって、再び世界をもとに戻せる可能性が一気に跳ね上がるのだよ。」

天を仰ぎながら、そんな事を言い始めた。

「そんな世界、漫画やアニメだけですよ。」

和康はそう冷たく言い放つと、その瞬間には彼の目の前まで幸弥が近づいていた。

驚いた彼は、その場で尻もちをつく。

「…もちろん、今の技術ではそんな事は起きないだろうね。」

そう言うと、彼女は様々な薬品を手に取ると、何かを作り始めた。

「しかし、人間が淘汰されるのも時間の問題さ。

…我々人類は、好き勝手にしすぎたからね。そんな時、もし生き残ることができたのであれば、ボクは再び、人間が世界の頂点に立てるようにしておきたいんだ。」

不覚にも、アタシは彼女の事をカッコいいと感じてしまった。

どうやらそれは、和康も同じだったようで、目を輝かせていた。

こうして、科学研究部へ入部することになった。


ーーー下校中

アタシは和康と一緒に、下校することになった。

「いやぁ、なんかすごい思想の人だったな!」

楽しそうに笑う彼は、アタシの歩く速度に合わせながらゆっくり歩いていた。

アタシはそんな彼に、愛想笑いをしつつスマホで恋歌に、連絡を取っていた。

『今日は遅くなりそうだから、先にご飯食ってて。』

『了解、部活頑張ってね。』

今日も一人で食事をすると思うと、とても憂鬱になった。

「…はぁ」

アタシは何も考えずに、小さくため息をしてしまった。

隣を見てみると、和康が口を開けて放心状態になっていた。

一瞬、アタシはなぜそんな顔をしているのかが分からなかったが、先ほどのため息のことを思い出し、すぐに誤解を解いた。

「良かったぁ…、うるさいから嫌われたのかと思っちまった。」

和康は誤解だと分かって、とても安心したようだった。

「てか、ミハルは佐賀美さんと一緒に住んでんだ。」

意外そうにそう言うと、ボケっと口を開けたまま空を見上げた。

「…なんか面白い関係だなぁ。」

何を考えているのかは知らないが、とりあえず放置した。

それからしばらくして、アタシと和康は帰路が変わり、そこで別れることになった。

和康は笑顔で手を振ってくれていたが、アタシは上手く笑顔が作れなかったように思う。


彼の背中を最後まで見送り、そして、アタシが自宅へ向け歩き出したその時だった。

「……あれ…」

たまたまカフェのメニューに気を取られ、そちらに目を向けたのが悪かった。

カフェの中には、複数人の客が食事を楽しんでいる。

その中に居た。

「…凛月、千夏?」

そう、凛月千夏りつきちなつが、アイツがカフェに居たのだ。

それも、知らないおじさんと一緒に、食事をしている。

あの時、アタシに黒和くんへ近づかないように言ったあの女が、黒和くんを放ったらかして、知らないおじさんと食事を楽しんでいるのだ。

アタシはこの時、何かが崩れる音が聞こえた気がした。

現実ではない、アタシの心の中でだ…。

「……信じてたのに…。」

小さくそう呟いて、アタシは確信した。


ーそうか、アタシは、彼女なら黒和くんを幸せにできると、勝手に期待していたんだ。


それを認識した。だが、人間とはどうしてだろう?

勝手に期待していたアタシが悪いのに、アタシはアイツに対しての憤りと、失望が湧き上がってしまった。

気づけばアタシは、スマホで彼女を撮っていた。

その上、アタシは彼女が店から出るのを待ち、出てきた彼女を追った。

彼女の口から、確実な証拠が欲しかったのだ。

だから、アタシは彼女をつけたのに…

「……私は、優咲を一人にはできません。」

そんな事を言い出した瞬間、アタシは嫌な予感を感じ、スマホをの電源を切って、その場を離れようとしたが間に合わなかった。

「…今の彼は、私の最初で最後の彼氏ですから。」

………聞いてしまった。

聞きたくなかった事実。

黒和くんを取られたという事実。

そして、黒和くんがありながら、彼女がおじさんと食事をしていたという事実。

彼女らが姿を消した公園で、アタシはベンチに座り込んでいた。

頭を押さえながら、先ほど撮影した写真を見た。

「……」

アタシから癒しを奪った女が、彼と付き合っている。

嫉妬でどうにかなりそうな気持ちを、必死に抑える。

耐えれば耐えるほど、涙が出始める。

誰も居ない公園。

また一人、アタシから大事なモノを奪っていくこの世界に、どうにもならない感情が渦巻き、声にならない嗚咽が出る。

黒和くんが、アイツに奪われてしまった。

黒和くん、黒和くん、彼の笑顔が、優しい顔が、優しい声が、小学生の時から忘れられずに居た。

そこに、凛月千夏の、怒った時の頼りになる顔が浮かび、それを今日の彼女が上書きされてしまう。

そんな彼女の言葉が、再び頭を駆け巡った。

『…今の彼は、私の最初で最後の彼氏ですから。』

「……何が最初で最後だ…」

この瞬間、アタシの中に存在していた黒い部分が溢れ出てきて、そして行動することにした。


ーーー次の日。

アタシは、彼女の帰り道の道中にある公園に居た。

時刻は午後四時を過ぎていた。

髪を握りしめながら、彼女が見えるまで待った。

そして、彼女が姿を現したとき、アタシは公園から出て彼女の前に立った。

「…アンタ、アイツと付き合ってんだって?」

「…川中、さん…」

動揺を隠せずにいる彼女に、アタシは嫌味を言う。

「良いねぇ…好きな奴と付き合えてさぁ?」

アタシはそう言いながら、スマホの画面を彼女に向けた。

それを見て、彼女は目を見張っていた。

その様子を見て、アタシはカマをかけることにした。

「…これ、アンタだよね?

…まさかこんな事してるとは思わなかったけど…アンタなんだ」

彼女はその言葉に、目がこちらを睨むように向いた。

アタシはニヤニヤと彼女を見ながら、笑った。

何も言い返してこないことに、アタシは変な気分になった。

「この写真…アイツに見せたら、どうなんだろうね?」

「……それは、少し困ります」

彼女は至って冷静にそう返した。

その返しに、アタシは腹を立てた。

思わず彼女の髪の毛を掴んでしまい、感情が溢れ出てしまった。

「アンタさ、昔から気に入らないわ…

あの時からもっと嫌いになった…正義ヅラしてるみたいでさ?!」

アタシは彼女のお腹を殴りつけ、その場でうずくまる彼女の頭を踏みつけた。

そこまでして、少し後悔した。

(これだと、あの人たちと同じじゃない…)

少しだけ冷静になり、当初の目的を果たすことにした。

「…そうだ。

この写真アイツにバラされたくなかったら、アタシの下僕になってよ。そしたら許したげるからさ〜」

アタシは彼女の頭を掴み、彼女の顔を覗き込んだ。

「…もしこの事他のやつに言ったら、この写真、ネットにでも流すからね〜」

大声で笑いながら、アタシは彼女から離れた。

お腹を押さえながら、立ち上がる彼女は、ベンチに座るアタシを睨みつけた。

その目には、見覚えがあった。

あの時も、今と同じような目をしていた。

「…何その反抗的な目?

…うざいほんとに昔から変わらないわ…アンタ…」

きっと彼女自身は、何も変わっていない。

変わったのはアタシの方だ。

それを感じながら、アタシは演技を続ける。

アタシは懐から紙を取り出すと、紙に書くふりを始めた。

それを彼女へと投げつけた。

彼女はその紙を拾い上げ、内容を確認する。

「……これをしろって、ことですか?」

それを読み終えた彼女は、鋭い眼光でアタシを見た。

「理解が早くて、そこだけは好きだよ。」

アタシは笑いながら、公園を出た。

そして、少し離れた位置で、彼女を見た。

彼女は紙を握りしめると、しばらくそこにとどまっていた。

やがて、気持ちを落ち着かせたのか、彼女は公園を出て家へと向かっていった。

彼女の後ろ姿を見送りながら、アタシは自身の顔に拳をぶつけた。

「………しっかりしろ!

…アタシは、黒和くんのためにやってんだから!」

そう言い、アタシは自分に喝を入れる。

こうして、約一カ月間ほどそれを続けた。

(全て、黒和くんのため…)

そう言い聞かせながら、アタシは続ける。

恋歌にはこの事を隠していた。

その時が来るまで、アタシはずっと隠し続けた。

そして…


ーーー

私は突然、ミハルに頼み事をされた。

メモを持ち、公園である人物を待った。

時計を見ながら、ミハルの事を考えていた。

最近よく、頬を腫らして帰ってくるのだ。

その原因は、これなのだろうか、と思っていると、見知った顔が公園へやって来た。

「話が違うじゃん…彼女がここへ来る話だったんだけど?」

そう言うと、凛月千夏はこちらに近づいてきた。

私は話しかけようとも思ったが、それはできなかった。

彼女の目つきは、まるで目の敵を見るような目だったからだ。

「…知るかよ、あいつはまだお前に何かさせたいんだろうよ…」

私は話を合わせるように、それっぽいことを言う。

そして、ミハルに渡それた紙を思い出した私は、懐から紙を取り出すと、彼女に手渡した。

「……あいつ…何がしたいの?」

「知らねぇって…」

それを確認した彼女は、怪訝そうに言った。

私はミハルに頼まれた伝言を思い返しながら、彼女に話した。

「…とにかく、16日までに済ませて、ここに来いってよ。」

それだけ伝えると、私は急いで公園を後にした。

「……何してんだよミハル!!」

私は、彼女が何を考えているのか分からず、それを問い詰めるために走った。

家へ着くと、玄関でしゃがみ込んでいるミハルを発見した。

「ミハル!!」

私は彼女に近づくと、胸ぐらを掴んだ。

「いったい千夏に何をしているんだ!?答えろ!!」

「……」

彼女は口を開こうとしない。

そんな彼女に嫌気が差し、手を振りかざす。

「…ッ!!!」

しかしそれは出来なかった。

なぜならば、彼女が涙を流していたからだ。

「なんで、…なんでそんな被害者ヅラできんだよ…!」

「……ごめ、んなさい…」

小さく謝罪する彼女の目には、光がなかった。

私は振りかざした腕を、ゆっくりと下ろすと、彼女の胸から手を離して、その場で座り込んだ。

「………ミハル、なんでこんな事をしたんだ?」

冷静に彼女の言葉を待った。

やがて、彼女はゆっくりと言った。

「……アタシは、凛月千夏が嫌いだから、いじめようと思った。」

虚空見つめる彼女は、手を伸ばして何かを掴もうとする。

「…アタシは、酷い女だから、それを貫かなきゃいけないから…」

弱々しく虚空を握りしめると、力無く倒れた。

私はすぐに彼女の身体を支えると、彼女を抱えあげた。

「全部、あの人のため、だから…だが、ら…」

そう言うと、彼女は目を瞑って眠りについた。

「……無理をして、私を心配させんじゃねぇよ。」

眠る彼女を、ソファまで運ぶ。

優しく寝かせると、ブランケットを彼女に掛ける。

「それが、本当のお前なのか…?…ミハル。」

私は、彼女が酷い女だとは思えなかった。

だから、私は問い続ける、彼女は本当に、酷い女なのかと。

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