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嘘は真実へ〜life of lies〜  作者: 文記佐輝
嘘をつくたび
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五話『嘘は自分を騙すために』

午前11時。黒和くんの母と妹がやって来た。

二人とも、黒和くんに似ている。

いや、黒和くんと妹が母に似ているというべきか。

黒和母は、気さくで優しい人で、黒和妹は、活発で元気な子だった。

「優咲、お父さんは元気?」

「元気だよ。こっちでも相変わらずって言えば分かるかな…」

「お父さんは今日居ないの?」

「父さんは今日、仕事なんだよ。」

家族の何気ない会話。

アタシはそんな彼らに気を遣って、あまり会話に入らないようにしていた。

歩いている最中、妹がアタシの手をずっと握っていた。

黒和くんは母と、近況報告をしやっていた。

「お姉さんはお兄さんの彼女なの?」

「…っ?!」

突然の質問に、アタシは慌てふためいた。

黒和くんは母と楽しそうに離している。

「…あ、私は、黒和くんの同級生で、…それで、今日はたまたま会ったから、誘ってくれたんだ」

「彼女じゃないんだ。じゃあやっぱり、千夏お姉さんと付き合ってるのかなぁ?」

「ち、千夏?」

その名前を聞いて、無性に腹が立った。

「妹さんは…」

「私は七湖だよ?」

「な、七湖ちゃん。…千夏さんとは、お知り合いなの?」

「うん!」と嬉しそうに頷く。

七湖が凛月について、いろいろと話してくれたが、ほとんど覚えていない。

ただ、凛月千夏りつきちなつに対しての、ライバル心、いや嫉妬心が増幅したことだけは分かった。

気づけば映画館へ着いており、黒和母と七湖はポップコーンを買いに行っていた。

アタシは椅子を深く腰を下ろすと、隣に黒和くんが座った。

「七湖は、俺と八歳違うらしい。」

「そうなんだ…」

「そして、俺とも一度会っていたらしい。」

「…そう、なんだ」

黒和くんは頭をかきながら、大きくため息をついた。

「七湖は悪い子、ではないとは思うんだが…。

まぁ、まだ人の気持ちを理解しきれていないところがある。

だから…」

そこまで言うと、彼はアタシに頭を下げた。

「…七湖が迷惑をかけてしまった。本当にすまない。」

「え、、いやぁ、大丈夫だよ?」

黒和くんは心配そうにこちらを見てくる。

アタシは平然を装いながら、別の話題をふった。

彼は何かを言おうとするが、諦めたようで、それ以降は話に相槌を返したりするだけになった。

少しすると、二人が戻ってきた。

アタシ達は全員揃っていることを確認すると、チケットを持って上映されるスクリーンへ向かった。

アタシは黒和くんの隣に座らされ、彼を挟むように七湖が座り、彼女の隣に黒和母が座った。

アタシは高揚する気持ちを抑えつつ、貰ったジュースをちまちまと飲んだ。

そして上映中、アタシは映画に魅了され、すっかり彼が隣にいることを忘れてしまった。

主演を務めた、澤長さわながまみさの渾身の演技を見たことにより、アタシの中で、女優、俳優への憧れがさらに強まった。

「…かっこいい…」

小さく呟き、アタシは手に力が入る。

ギュッと握った感触で、人の手だと分かったアタシは、隣に目をやった。

黒和くんは、七湖に肩を貸して寝かせていた。

彼は映画に夢中なのか、アタシが見ていることに気づいていない。

一緒の物に夢中になっていると感じたアタシは、嬉しくなったのと同時に、彼をそんな風に夢中にさせたスクリーン上の女優に嫉妬したのだった。

ーーー

映画を見終えたアタシ達は、ファミレスへ来ていた。

注文を頼み終えたアタシ達は、先ほどの映画の感想などを言い合っていた。

「…その、アタシも一緒でよかったんですか?」

今更ながら、アタシは彼女らに聞いた。

黒和母は、「気にしないで」と優しく笑った。

「ミハルお姉さん面白いから好き!」

七湖にそんな事を言われ、思わず恥ずかしくなってしまった。

「俺も、ミハルと出かけることができて、本当によかった。」

笑顔でそう言ってくれる黒和くんに、感謝を述べ、ちょうど届いた食事を食べた。

久しぶりに、和気あいあいと食べる食事は、今のアタシにとってとても新鮮であり、そんな幸福感に満たされていた。

食事を終えた二人は、このまま駅へ向かうというので、アタシと黒和くんは、二人とファミレスで別れ、二人で帰っていた。

「今日は誘ってくれてありがと…。楽しかった〜…」

「それはよかったよ。最近、元気がないようだったから。」

「…すごいなぁ黒和くんは。」

「俺は何もすごくないし、そっちのほうがすごいよ。」

彼はアタシの手を取ると、近くの公園へ寄った。

ベンチに座ったアタシ達は、ゆっくりと時間が過ぎるのを待った。

「……今日見た主演、すごかったなぁ」

彼は本当に感心したような声だそう言うと、アタシを見た。

「…何ぃ?」

「いや?…ただちょっと、見てみたくなったなぁって…」

「……え?」

アタシの反応に笑った彼は、笑顔のままアタシの手を取った。

「…お前が、あの主演のように活躍している姿、俺は本当に見たいよ。」

そして、彼は鞄からメモ帳を取り出すと、アタシに差し出した。

「サインくれよ。お前のファン一号は、俺がなりたいからさ。」

笑ってみせた彼は、アタシを後押しするのには十分な存在だった。

「…仕方ないなぁ」

メモ帳にサイン?を書き、この日ようやくアタシの人生は動き出すのだと思った。



ーーー

「…生意気に外で遊んでいたのか?」

家へ帰ったアタシは、親に殴られた。

「うぁ…」

髪を掴まれ、ソファへ突き飛ばされる。

「そんな悪い子にはお仕置きをしないとな…」

父はベルトを外しながら近づいてくる。

アタシは恐怖を感じ、二階へ逃げようとした。

しかしそれを、母が止める。

「アンタは少しでも親孝行をしなよ!」

そう言われ、ビンタをされる。

地面に倒れ込んだアタシに、父が乗ってきた。

「さぁ、たまには俺達に良いことをしてくれ。お前にはそれぐらいしか価値がないんだからな。」

父はアタシの腕を掴むと、抵抗するアタシを無視して、父は自身のモノに近づける。

アタシが諦めかけたその時、家のチャイムが鳴った。

父は舌打ちすると、母に出るように言った。

母は玄関へ行く。

残った父は、続きを始めようとした。

「キャーー!!」

玄関から聞こえた悲鳴に、父は玄関側へ振り向く。

それを見たアタシは、テーブルに置かれていた灰皿を取り、父を殴りつける。

「ぐがっ!?」

父は頭を押さえながら、その場に倒れ込んだ。

アタシは、乱れた服を直し玄関へ駆け出した。

玄関への扉を開いたとき、母と出くわした。

ガっとアタシの首を絞めるように掴む母には、血が付着していた。

「…どこへ行く気なの?」

徐々に力が強まっていき、アタシは息ができずに意識が途絶えそうになった。

倒れた父を見た母が、そちらに気が行ったとき、アタシは母の腕を思いっきりしたから殴りあげた。

腕からゴキッと聞こえ、母は悶絶する。

アタシは咳き込みながら、玄関へ走った。

玄関には、血まみれで倒れる男の姿が見えたが、確認する暇なんてなく、家を出ようとした。

少し油断したアタシの髪を、母が掴みかかった。

「逃さないわよ!」

母の顔は狂気に染まったようになっており、アタシの髪から手を離そうとしない。

アタシは力負けし、男の隣に倒れる。

母は引きずるように引っ張る。

どうにかしたかったアタシは、男の手元にナイフがあるのが見えた。

アタシはそれを取り、そして…

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