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一話『嘘には罰が下る』

アタシは嘘つきだ。

嘘つきだが、それはアタシを守るためのものだった。

日頃の虐待。それが絶えない毎日…

それが嫌で逃げ出したのに、あいつらは、どうしてもアタシを苦しめなきゃ気がすまないらしい。

それも全て、アタシが悪い子だから…。

だから、神様はアタシを見捨てたんだろう…。

そう思わなきゃ、やって行けない。

アタシはアタシを良い奴とは言わないし、アタシだけがこんなに苦しいんだとも言わない。

ただ、アタシも普通の生活がしてみたかった。

それだけは、ずっと思っている。

ーーー

「……最後くらい、俺を楽しませろ。ミハルぅ…」

そう言うと、父はアタシの服を引っ張った。

「…イヤ!」パシィ!!

咄嗟に父を叩いたアタシを、父は少しの沈黙の後、容赦なく殴ってきた。

倒れたアタシを、父は髪を掴みベッドへ投げた。

ギシッという音とともに、父はアタシの上に覆いかぶさってくる。

必死に抵抗をするが、父の力には勝てず、両手封じられる。

「…お前はずっと俺たちを苦しめてきた。…それなのに、最後まで俺たちを苦しめるのか…!!?」

大きな声を出した父の唾が、顔中にかかる。

臭くて息がしづらくなる。

「か、母さん!助けてぇ…!」

その声は、母は聞いていないように、スマホをずっと見ている。

何度も、何度も、私は叫んだが、それが気に入らなかったのか、母はスマホを置くと、こちらに近づいてきて、

「ッ!!!」ドゴッ!

「…カハッ」

母は黙ったまま、アタシの腹を踏みつける。

そして、吸っていたタバコを、アタシのお腹に押し当ててきた。

痛くて叫びたくなったが、それを父がもう一方の手で口を押さえることで防がれた。

涙がどれだけ出ても、両親だった二人はアタシを痛めつけた。


ーーー小学生の時

「こんな事も出来ないの?」

「まるでダメだな。」

アタシのテストの点を見て、二人は呆れたように言う。

「…で、でも、98点だよ?…前よりも、10点上がって…」

ダァンッ!と、母はテストを机に叩きつけると、アタシめがけて灰皿を投げてきた。

お腹に当たったアタシは、その場でうずくまる。

「100点じゃないと意味がないのよ!!!」

そう言いながら、母はうずくまるアタシのお腹を蹴り上げた。

軽かったアタシは、簡単に飛んで、本棚に激突した。

「…ごめ、んなさい…!ごめんなさい…!」

いくら泣いても、母は私を蹴るのをやめなかった。


そんな毎日が続いたアタシは、いつしか学校で優位に立つことでストレスを発散していた。

「貴方、本当に嘘をつけないのね」

その時、アタシが目をつけたのが彼だった。

「そうだけど…。嘘は嫌いなんだよ。」

黒和優咲くろわゆうさく。嘘が嫌いな少年。

冗談でも、彼は本気にしてしまうような、どうしょうもない少年。

「嘘をつかないって、素晴らしいことよ。」

そんな彼が、アタシは嫌いで…

でも、なぜだかそんな彼ともっと関わりたいと思ってしまって。

嘘とも本当とも捉えることができる、そんな言葉。

彼なら本当の意味で捉えてくれるとわかっていて、言った。

「…そんな事言われたの、初めて、かも」

そんな事を彼は言った。おそらく、初めてその性格を褒められたのだと思う。

目には光を取り戻し、アタシをまるで救世主かのように見つめてくる。

そんな彼に、今思えば惹かれていたのかもしれない。

その会話を交わして以降、アタシ達はよく話すようになっていた。もちろん、学校でのみだが。

家に帰れば、暴力が待っているような毎日に、黒和という光が現れたことにより、アタシはどんな仕打ちでも耐えれる気がした。

彼と話している間だけは、アタシはアタシのままでいられた。

嘘も何も無いそんな綺麗なアタシ。

そんな毎日が、アタシは続いてくれるだけでよかった。

しかしそうはいかなかった。


「ミハルさ。最近よく黒和と居るけど、もしかして好きなの?」

突然呼び出されたと思えば、そんな事を言ってくる女子にアタシは「はぁ?」と返した。

彼女はアタシに次いで、男子に人気だった三日月みかづきアヤネ。

彼女は何かとアタシに嫌味を言ってきたり、突っかかってくるような嫌な奴だった。

そんな彼女が今回目をつけたのは、アタシと黒和くんの関係だった。

「とぼけなくてもいいのよ。ミハルは黒和の事が好きなんでしょ?」

嫌なニヤつきに、腹が立ったアタシは、彼女に対して威圧的に少し脅してやろうと、アタシはプライドのために嘘をついた。

「何言ってんの?アタシが黒和の事が好きって?

バッカじゃないの。あんな嘘も付けないような正直者、こっちから願い下げなんだけど。」

「じゃ、じゃあなんであんなのと…」

「決まってるじゃない。

…アタシの好感度を上げるためよ。」

胸がずきりと痛くなった。まるで、刃物で身体を傷付けたようなそんな痛み。

アタシはその心の痛みを耐えながら、言葉を続けた。

「…アイツの取り柄はあの正直な所。

それを利用して、アイツにアタシの良いところを周りに流してもらうのよ。

そしたら、アタシがわざわざ何かをしなくても、勝手に大人からアタシへの好意は増していくの。」

我ながらよくそんな言葉が出てくるものだなと、自身に感動しながらも、どこか両親にも通づる物を感じたアタシは、同時に吐き気を感じていた。

そんなことなど知らないアヤネは、ゲスな笑いをするアタシにドン引きしていた。

「…アンタ狂ってるんじゃない。…行こみんな。」

彼女達は、おかしなアタシをその場に残し、去っていった。

「………はは…」

彼女達の背中を見ながら、アタシはそんな乾いた笑いが出た。

顔を手で覆い、プライドのためとは言え、黒和くんの事を酷く言ったことへの後悔が押し寄せてきた。

それが涙となって、溢れ出てきた。

「……ホント、…アタシって最低だ…」

その場でうずくまり、静かに泣く。

もしかしたら、誰かに見られるかもしれないから、できるだけ声を抑えて、ただひたすらに泣いた。


ーーー次の日、水曜日。

アタシは黒和くんに近づく勇気が出なかった。

昨日、心に思ってもないことを、プライドの為に言いまくってしまって。勝手に話しかけるのが怖くなってしまった。

気づけば、教室から皆がいなくなっており、移動教室だったことを思い出した。

慌てて準備をし、アタシは廊下を駆け出した。

階段を走って上がっている時、最後の一歩を踏み外してしまった。

「…あっ」

思はず手すりをつかもうとしたのがダメだった。

体勢を大きく崩したアタシは、後頭部から階段にぶつかりそうになる。

「ミハル!!」

目を閉じていたアタシは、痛みがないことを不思議に思い、恐る恐る目を開く。

最初に映ったのは、大好きな人の顔だった。

「ミハル!大丈夫!?」 

黒和くんはアタシを抱きかかえる形で、階段に座り込んでいた。

「く、黒和くん…!」

胸がドキドキと鳴り響く。

黒和くんの腕が、アタシのお腹をギュッと支えていて。

思はず心地よく感じてしまった。

「ご、ごめん…、こんな体勢で、嫌だよな!」

黒和くんはアタシをそのまま持ち上げ、立たせてくれた。

「…あ、…っ」

感謝を伝えようと、口を開いたが、何故かその言葉が出てこない。

喉でつっかえてしまい、まるで息ができないような状態になる。

黒和くんは照れくさそうにして、そっぽを向いていたから、この時の表情は見られていないと思う。

そんなアタシに、黒和くんは目を合わせずに手を差し出してきた。

「は、早く行こーぜ!遅刻しちまうよ。」

その優しい気遣いに、アタシは気持ちが落ち着いた。

彼の手を握り、走って教室へ向かった。

その時の彼の後ろ姿は、アタシにとって心を揺さぶるものだった。


ーーー同日、放課後

「ミハルさん、もう優咲に近づかないで!」

突然そんな事を言われた。

「えっと…アンタ誰?」

見知らぬ女子生徒に、突然そんな事を言われたアタシは、アヤネの取り巻きかなんかだと思い、聞いた。

「……私は優咲の幼馴染の、凛月りつきです。」

彼女はアタシを睨みながら、名乗った。

「ふーん」と興味なさそうに振る舞ったが、正直焦っていた。

黒和くんが言っていた幼馴染が、まさか目の前の彼女だなんて、全くもって知らなかった。

焦っていたアタシは、少し冷静になり、どうしてそんな事を言い出したのか聞き出そうと考えた。

「なんでアンタなんかに、私の交流関係を左右されないといけないの?」

アタシはそう言うと、できるだけ学校でのイメージを崩さず、鼻で笑った。

「…私、聞きました。…貴女が、友達と話してるの。」

そこまで言われ、ようやく理解したアタシは彼女を睨みつけた。

その睨みに、彼女は少し後退りしてしまう。

アタシは絶望した。

彼女は、アタシとアヤネの会話を、どこかで聞いていたのだ。

(…終わった)

そう確信したアタシは、彼女にさらに近づき。

『悪役』を演じることにした。

「…なーんだ、聞いたんだ。

じゃ、別に貴女にはあのこと話してもいいよね。」

アタシは嫌なニヤけ面で、本音とは真逆のことを口にし始める。

このあたりの記憶は、あまり覚えていない。

と言うよりも、アタシは意図的にその時の記憶を封印した。

そして気づけば、アタシと彼女は激しく殴り合っていた。

ーーー全て、この時に終わっていれば良かったのに…

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