ウジウジ
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
毎週、水曜日に短編小説を、木曜日に長編小説の追加エピソードを投稿しています!
それぞれシリーズにまとめてありますので、よろしければ読んでみてください!
短編小説は仲良しカップルの日常系ラブコメが主ですが、たまに獣人とかも出てきます。
作品における既存のエピソードが更新されることがありますが、理由は誤字脱字及び細かな表現等の修正です。
作品の内容が大きく変わることは原則ございませんので、ご安心ください。
鈴木と正式に友人になってから約一ヶ月が過ぎ去ろうとしていたが、表面的な二人の関係性は今までと大きく変わらない。
学校では休み時間や放課後にお喋りを楽しんで、帰宅後もちょくちょく通話をしたりメッセージを送り合ったりしている。
休日には二人で出かけることも増えたし、坂田も鈴木に写真を撮られるのには随分と慣れた。
鈴木は相変わらず坂田が大好きなようで、純粋に彼と同じ時間を過ごすのを楽しんでいる。
これに対し、内面に大きく変化が訪れたのは坂田の方だ。
とある昼休み。
坂田は教室に備え付けられている時計を眺めては唇を尖らせていた。
『遅い。昼休みが始まってから、もう十五分も経ってるのに、ぜんぜん菜緒ちゃんが来ない。どうせ上田と喋ってるんだろ。俺のこと好きだとか言ってたくせに、嘘つき、尻軽、浮気者、面食い、おバカ』
チラリと斜め後ろの席を振り返って鈴木が居ないことを確認し、更に廊下の方を眺めて上田と会話をしている彼女を見つけるとイライラと二人を睨みつけた。
日を追うごとに、坂田は確実に鈴木を好きになっていっている。
坂田は鈴木の素直なところや一途に自分を思ってくれるところが好きで、彼もまた、彼女との時間を幸せでかけがえのないものに感じていた。
だが、厄介なことに坂田は鈴木への感情を明確に理解していなかった。
そして、そうであるのに気分だけはすっかり彼女と付き合っているつもりになっていたから、鈴木が自分を優先してくれないのも、コソコソと上田と内緒話をしているのも気に食わなくて酷く不機嫌になっていた。
坂田は少し、我儘だ。
『浮気者』
鈴木たちを遠く眺め、再度、胸中で呟く。
坂田は無言で学ランの内側に来ていたパーカーのフードを被ると、それから寝たふりを始めた。
『お腹空いたけど、今日は俺、お昼ご飯食べないから。全部菜緒ちゃんのせいです。あ~あ!』
自暴自棄と八つ当たりの中間をひた走って微妙に自分を痛めつけた坂田が、顔を隠した両腕の中でプクッと頬を膨らませる。
そして。キュルルと鳴き始める腹を無視して、ひたすらに寝たふりを始めた。
「大和君、大和君、寝てる?」
普段は坂田が眠っていると遠慮をして話しかけてこない鈴木が、そっと坂田の肩を叩いて問いかけてきた。
軽く背中を揺さぶられ、坂田がムクリと身を起こす。
そして、たった今まで眠っていた振りをした。
「おはよう、大和君」
「……おはよう」
「大和君、機嫌悪い?」
「いや、寝起きだから。最近、夜更かしして眠れてないんだ」
寝不足もまるっきりの嘘でもないが、午前零時から一時の間には就寝しているため、そこまで深刻な睡眠不足には陥っていない。
今は眠ってすらいなかったし、大した眠気も感じていなかったが、坂田はシレッと嘘を吐いた。
「大和君、まだ眠い?」
「いや、今寝たから大丈夫だよ」
「そっか。それなら、お昼を食べよう」
鈴木が手に持っていた弁当箱を軽く揺らすのを見て、坂田もコクリと頷く。
「ねえ、菜緒ちゃん」
「何? 大和君」
「菜緒ちゃんは……菜緒ちゃんは、俺と昼を食べる前は誰と食べてたの?」
言い淀んでから少し考え事をして、それから質問の内容を変更する。
それから坂田は鈴木に問いかけた。
「友達だよ。大和君は?」
「俺は基本一人で、たまに友達と食べてた。菜緒ちゃんは、俺とお昼食べてて平気なの? 友達に怒られたりしない?」
「しないよ。元々、お昼食べるって約束して食べてたわけじゃないから。それぞれ、都合が悪くなったりしてお昼を食べるメンバーが変わるのはよくある事なんだ、私たちのグループはね」
「そっか、それは良かった」
ニコッと笑って頷いて、それから坂田は、
『友達よりも俺のことを優先できるのに、上田と俺だったら上田の方を優先するんだ』
と、心の中で不貞腐れた。
坂田にはずっと聞きたいことがあったから、「あのさ」とためらいがちに言葉を出した。
しかし、「何?」と首を傾げる鈴木を見て、先ほどと同様に言葉を喉から押し出せなくなった。
「……次の授業、なんだっけ?」
苦し紛れに、全く別の問いを発する。
「数学だよ」
「嫌だな。数学ってだけで嫌なのに、お昼を食べた後じゃ眠くて仕方がないよ」
「私も、居眠りしてる大和君を撮りたいのに、授業中じゃスマホ使えないから歯がゆい」
「菜緒ちゃん、授業中は大人しくしておきなよ」
「だって、授業中にばっかりレアな大和君が見られるんだもん。寒いからって着込んでたくせにストーブで熱くなって、ワイシャツの前をはだけさせながらパタパタ襟を動かしてた大和君を、もう一回見たい」
「そんな変なところ見ないでよ」
「大きい欠伸も、クシャミも、睡魔に対抗する微妙な表情も、全部、授業中にばっかりするんだもん」
「変なところばっか見ないでってば」
顔を真っ赤にして照れる坂田を、鈴木がスマートフォンのカメラ機能でパシャリと撮る。
そんな風に堂々と盗撮をしてばかりな鈴木のスマートフォンのロック画面は、坂田の健やかな寝顔だ。
鈴木曰く、スヤスヤと眠っている坂田がこの世で一番尊いらしい。
『また、本当にまだ俺のことが好きなの? って聞けなかったな。放課後も、休み時間も、コソコソと上田と会って話しこんでること、どういうことなんだって問い詰めてやりたかったのに』
すっかり鈴木と付き合っているような気分にはなっている坂田だが、同時に実際には彼女と付き合っていないことを理解している彼だ。
質問内容がウジウジと湿っぽい雰囲気を持っていることも相まって、坂田はなかなか鈴木に自分への感情についてとか、上田との関係性について聞くことができていなかった。
昼休み終了、五分前を知らせる予鈴が鳴って、鈴木が自分の席に戻る支度を始める。
彼女を見送る坂田はひっそり落ち込んでいた。
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