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お写真待機

 鈴木は坂田が好きだ。

 恋のキッカケは落とし物を拾ってもらうなんてベタなもので、鈴木は自動販売機の前で落としてしまった五百円玉を一緒に探してくれた坂田を見て、初めて彼をクラスメートとして認識し、

「ほら、あったよ、鈴木さん。お昼、食べ損ねずに済んでよかったね」

 と、優しく笑う彼の表情に心底惚れこんだ。

 学校ではもちろんのこと、家でのんびりと過ごしていても、何をしていても、常に頭の片隅に和やかで愛らしい笑顔を浮かべる坂田が居座っていて、鈴木は酷く調子が狂った。

 もっとクルクル動く表情を見て、声を聞いて、坂田を眺めていたくて堪らなかった。

 坂田を見つめている時だけ心臓から全身へ押し出される血液の量と勢いが増して、甘く砂糖漬けされたような脳が酷く動きを鈍らせた。

『今思えば、一目惚れしたんだろうな』

 初めの頃は、

「なんだか気になるから」

 とか、

「坂田を見ると自分の感覚が変になるわけを知りたいから」

 といった理由で坂田を観察し続け、彼が好きだとハッキリ分かった今でも、

「可愛い彼を可能な限り見ていたいから」

 という理由と、

「彼と話すキッカケが欲しいから」

 という理由で見つめ続けている。

 坂田が恥ずかしがり屋な性格をしているように、鈴木の性格もシャイで引っ込み思案だ。

 無口、無表情、冷静がトレードマークな鈴木は周囲から冷たい印象を持たれがちだが、実際には緊張しいで内気なだけであるし、おまけに坂田は鈴木の前では寝てばかりいたから、彼女は余計に彼に話しかけるタイミングを逃してしまっていたのだ。

 今日こそは話しかけたい、いや、やっぱり明日こそは話しかけて仲良くなりたい。

 鈴木はそんなことばかり考えて坂田を眺め、話しかけることに失敗してはこっそり溜息を吐いていた。

 だからこそ、鈴木は放課後に坂田に話しかけてもらえたことが嬉しくて堪らず、

『今日まで、授業中や休み時間にスヤスヤ眠る野生動物みたいな坂田君とか、一生懸命に弁当を頬張る坂田君とか、熱心に本を読んで、途中から飽きたのかスマホゲームに興味を移し替える坂田君とか、色んなかわいい坂田君を見てきたけど、真正面から見る坂田君が一番かわいくて輝いてた! 男性にしてはちょっと高くて落ち着いた声もかわいかったし、のんびりとした話し方も最高だったし、ニコニコした表情とか、曖昧な笑顔とか、そういうの、言葉に言い表せないくらい素晴らしかったし!!』

 と、数時間前の出来事を反芻して、のぼせあがるほどはしゃいでいた。

 鈴木は体内でグワリと上がる熱に堪えきれず、ニヤニヤとした口元をふかふかの枕に押しつけると、足をジタバタと動かして悶えた。

『何がどうしてこうなったのか分からないけど、突如、手に入った連絡先が嬉しすぎる! お写真を頂けるという話も!!』

 坂田と鈴木の間ではいくつかすれ違いが生じているが、その最たるものが坂田の発した「協力」という言葉の内容だ。

 坂田は鈴木と上田の恋を協力するつもりでいるが、鈴木は、坂田の写真集を作りたいという半分冗談、半分本気な願望を成就させるのに協力してもらえるものと思っている。

 発想等は若干捻くれているが、これまでの経験から坂田が鈴木の恋の相手を誤解してしまうのは無理もない話である。

 だが、鈴木が何故、このような頓珍漢な勘違いをしたのかと言えば、彼女が放課後の教室で延々と話していた話題が、まさしく坂田の写真を撮りまくって家でも学校でも彼を眺めていたいというものだったからだ。

 鈴木にとって上田は縁あって手に入った協力者であり、学校で唯一、自分の恋の相手を知っている人間だ。

 これまで女子たちの間で坂田が居続けたポジションこそが、鈴木の中の上田の位置であり、彼女はたまに恋愛相談と称して、坂田への願望やアレコレを上田にぶちまける時があった。

 今日の放課後も、坂田とお喋りしたいとか、手を繋ぎたいとか、そんなちょっぴりかわいらしい乙女の恋心に、

「私生活を謳歌してる坂田君が見たい!! 部屋着でダラダラしてる姿とか、お風呂上がりのパンイチでくつろいでいる姿とか、私服でお出かけしている姿とか色々!! ねえ、上田君! 上田君、坂田君のお写真持ってない? 腹チラとか水着姿の綺麗でエッチな腰が映りこんだベストショットとか持ってたら、私、万札出せるんだけど!?」

 という、だいぶアレな願望を混ぜ込んで鼻息荒くしていた。

 鈴木は、坂田に「恋する女の子ってかわいいな」と称された愛らしい態度で延々と、

「日常生活を送る坂田の姿がエッチでかわいすぎて辛い! もっと見たい! もっとください! 写真集がほしいです!」

 と、騒いでいたのだ。

 その会話を聞かれた、もしくは何らかの理由で坂田が鈴木の願望を知るに至り、何故か協力を申し出てくれた。

 そんなことを本気で信じている鈴木は、下校している間から坂田からの写真が待ち遠しくて堪らず、はち切れそうなほどに心臓と期待を膨らませて彼からのメッセージを全力待機していた。

『エチエチ坂田君、かわいい坂田君、堪らない坂田君のお写真~。早く来ないかな~』

 訳の分からない鼻歌を歌いながらベッドの中でスマートフォンを抱き締め、揺れていると、温かい布の中で通知音の鈍い音が響いた。

『来た!』

 素早くロック画面を解除し、早速、坂田から送られてきたメッセージを確認する。

 だが、それは鈴木の期待した坂田の写真でもなければ彼からの癒しの言葉でもなく、上田の連絡先だった。

『いらない』

 上田の連絡先は既に持っているし、そもそも彼に興味がないから鈴木には上田の連作先は必要ない。

 期待を斜め上の方向性で裏切られたこともあって、つい反射的に鈴木は顔を歪めた。

「坂田君、これは?」

 メッセージを送れば、すぐに既読が付いた。

「なにって、上田の連絡先だよ。ほしかったんでしょ?」

「もう持ってるし、いらないよ。それより、写真がほしい」

「写真? そんなのあったかな。探してみるから、ちょっと待っててね」

 今、適当に取った自撮りでもいいのにな、と鈴木が頬を膨らませて食い入るようにトーク画面を眺めること約十分。

 ようやく届いたのは少し画質の荒い画像で、サッカーのユニフォームに着替えた複数人の男性が映りこんでいるものだった。

「中学の部活の写真しかなかった。ごめん、あんまりちゃんと写ってないかも」

 画像に並んで、坂田の申し訳なさそうなメッセージも飛んでくる。

『ちゃんと写ってると思うけどな』

 奥の方で写っているためにピンぼけている上田の姿など、鈴木の眼中には無い。

 それよりも手前の方でハッキリ、大きく映っている坂田の一生懸命にスポーツドリンクを準備している姿の方が鈴木にとっては重要だった。

 そのため、鈴木は画質が粗いからか? と、坂田の「ちゃんと写っていない」発言に首を傾げつつ、「大丈夫、十分だよ」と返事をした。

『それにしても、中学時代の坂田君、まだちょっぴり幼い感じがして可愛いな。こんな可愛い子が部活帰りに汗だくになりながら道を歩いてたら、私、アイスとか買ってあげたくなっちゃうよ』

 いかに鈴木といえど、中学生くらいの子供の写真に欲情はしない。

 代わりに、好きな子の幼い頃を見ることで鈴木はほんわかと心を温め、非常に優しい気分になっていた。

『でも、やっぱり物足りない。期待させられた分だけ、もう少し刺激的なお写真が欲しい』

 欲を言えば、裸体に近い物で、かつ扇情的な雰囲気を醸し出している物が良い。

 だが、飢えている獣には肉の一切れですらご馳走に感じるように、坂田に飢えている鈴木には、もはや彼がメインで写ってさえいれば、どんな物でも良かった。

 なんでもいいから、今の彼がシッカリ撮られているものが良かったのだ。

「自撮り写真がほしい」

「自撮り!? 上田に自撮りをする趣味はないから、難しいかも」

「私がほしいのは坂田君の写真だよ」

「俺!? なんで!? 将を射んと欲すれば、まず馬を射よってこと!? 直球で狙いなよ」

「直球はよく分からないけど、坂田君の自撮りが欲しい。駄目?」

 駄目かと問われてしまうと、坂田は頷きにくい。

「いいけど、俺も普段から自撮りなんてしないからさ、ちょっと待っててね」

 他の男子生徒はどうか知らないが、少なくとも坂田のスマートフォンに写真加工アプリなど入っていない。

 あるのはゲームアプリとpi○ivアプリくらいだ。

 また、今回写真を撮るためだけに写真加工アプリを入れるという発想も無い。

 そのため、坂田はスマートフォンに備え付けられた、画質が良いのか悪いのか曖昧なカメラ機能で自撮り写真を撮ると、そのまま鈴木に送り付けた。

『ああっ! イイ!! この、自宅でちょっと髪がモサモサし出した感じが堪らない。坂田君、家だと黒スウェットなのね! ダルダルになった胸元から白い鎖骨が覗いちゃって、もう! スケベなんだから!!!!』

 少なくとも坂田よりはずっとスケベな鈴木が鼻息を荒くして興奮し、そのままスマートフォンを抱き締めてモタモタと暴れる。

「ありがとう、坂田君。坂田君、かわいいね」

 真っ赤に興奮した勢いのままに感想を送りつけると、画面の向こうで坂田まで「かわいい!?」と真っ赤になった。

お腹すきました

朝ごはん食べます


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