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ソワソワ学校生活

 鈴木と恋人になって以降、坂田はソワソワとした学生生活を送っていた。

 彼女が自宅での宣言を破って、相も変わらず上田と仲良くしたり、釣った魚に餌はやらないとばかりに坂田に冷たい態度をとったりしているからではない。

 むしろその反対で、鈴木は隙あらば坂田の隣に陣取って彼に甘えていた。

 今も鈴木は昼休みという長い時間を利用して坂田の背中に張り付き、ぬくぬくと至福の笑みを浮かべている。

 彼女の方から聞こえてくる鼻歌は、何とも呑気で幸せそうな響きを含んでいた。

『一緒に登下校して手を繋ぐのも、デートした時にご飯を食べさせ合うのも、人目を忍んでキスをするのも、どれも嫌いじゃないよ。俺だって菜緒ちゃんとくっつくのは好きだし、できるだけ時間を共有したいとも思う。でも、流石に学校でガッツリ引っ付かれると恥ずかしいというか、同級生たちの視線が気になるというか』

 学校という非常に狭いコミュニティの中、更に教室という極小の共同体を生きる生徒たちは基本的に噂好きだ。

 代り映えのない学生生活を彩ってくれるゴシップを探し回り、積極的に友人や先輩、後輩、はたまた教師にまで共有したがる人間が、各教室に必ず一人か二人は存在する。

 恋愛系のゴシップなど飢えた彼らには格好の餌食で、噂は瞬く間に学校中へと広がってしまう。

 鈴木と坂田が交際関係にあるという話も、付き合った翌々日には教室中に知れ渡っていた。

『俺と菜緒ちゃんがつき合ってるってバレたのは、まあ、俺が放課後、上田の前で菜緒ちゃんにベタベタしたのが原因だから仕方がないと思うけど、でも、菜緒ちゃんだって噂が過熱するような行動をとらなくてもいいのに』

 噂好きな坂田の同級生たちだが、別に性根は大して腐っていないようで二人に対して陰口を叩くようなことはない。

 だが、坂田からしてみれば教室中の奇異の視線が自分たちの方へ集まるのも、一挙手一投足、見張られるのも気分が悪くて、嫌な心地にさせられていた。

『そもそも、菜緒ちゃんは気にならないのかな。俺たちのこと、裏でコソコソ言われるの』

 後ろから自分にもたれかかってくる鈴木の顔をチラリと横目で盗み見る。

 鈴木は相変わらず幸せそうにニマニマと口角を上げていた。

『なんか、何も気にしてなさそうな顔してる』

 憎たらしくてプニプニと頬をつつくと、鈴木は「ん~?」と甘えた声を出した。

「ん~? じゃなくて、ねえ、菜緒ちゃん、菜緒ちゃんは皆の目、気にならないの?」

「皆の目?」

 不思議そうに首を傾げた鈴木がグルリと辺りを見回す。

 すると、教室の大半の生徒は皆、示し合わせたかのように一斉に二人から目を背けて視線をそらした。

「私たち、あんなに見られてたんだ」

 驚いた様子で言葉を出す鈴木に坂田がギョッと目を丸くする。

「気がついてなかったの!? 俺たち、あんなに毎日見られてたのに!?」

「知らない人、どうでもいいもん。私の視界には大和君だけ入ってればいい。あと、先生が近くにいる時だけ、先生の目に気がつければいい。先生、大和君にちょっとくっついただけで文句言ってくるから、嫌」

 ムゥッと口を尖らせる鈴木は可愛らしいが、肝心の彼女がこの調子では困ってしまう。

 可能な限り同級生たちの視線の数を減らし、平穏無事な生活を送るためには鈴木の協力が何よりも重要になってくるのだから。

「先生も、問題が無いように生徒のことは見てなくちゃいけないんだよ。それより菜緒ちゃん、そういうわけだから、離れて」

 コソリと耳打ちをすると、鈴木が嫌そうに眉根を寄せる。

「そういうわけって、どういうわけ?」

「菜緒ちゃんが俺にくっついてると、皆が俺たちのことを見て、俺、すごく恥ずかしくて嫌な気分になるから、離れてってこと」

「私、恥ずかしくない」

「俺は恥ずかしいの」

 不服そうに口を尖らせ、駄々をこねる鈴木をピシリと叱ってやれば彼女がしょぼんと目線を落とす。

「皆に、私たちのこと見るなって言ってくる」

「駄目。そんなこと言っても皆、俺たちのことは見ると思うし、噂だって今より加熱するでしょ。尾ヒレに胸ヒレまでついて、あること無いこと言われちゃうよ」

「私はどうでもいい。でも、大和君にはどうでも良くない」

「そうだよ、だから離れて」

 再度坂田に頼まれ、鈴木は渋々といった様子で彼から距離をとった。

 そして、自分の椅子を坂田の机まで持って来て彼と対面になる場所に設置する。

 それから鈴木は机の上で前のめりにベシャッと倒れ込んだ。

「恋人にベタベタし過ぎると、自分は相手のこと大好きでも、相手は嫌になって別れる羽目になるって聞いたことある。大和君、あんまりくっつくの嫌? 嫌なら、もう少し離れるようにする。別れたくないし」

「いや、俺は別にくっつくのが嫌なわけじゃなくて、教室から視線が集まるのが嫌ってだけだから。だから、菜緒ちゃんとお喋りしたり一緒にいるのが嫌なわけじゃないよ。俺も菜緒ちゃんと一緒の時間を過ごすのは好きだし」

「それなら、登下校は一緒で、手も繋いでほしい。あと、家に帰ったら電話する」

「いいよ。それなら帰りは寄り道してさ、家ではたくさん喋ろう」

 坂田の言葉に、元気のない鈴木が少しだけ嬉しそうな様子で「うん」と返事をする。

 それから鈴木はモシャモシャと弁当を食べ始める坂田の腕を指でつついた。

「どうしたの? 菜緒ちゃん」

「寂しい」

「ええ……そんなに俺に引っ付いていないと寂しくなるの? 放課後まで我慢できない?」

「できる。でも、寂しいものは寂しい」

「そっか。まあ、頑張れ」

「うん」

 坂田が弁当を半分食べ終わる頃、鈴木もようやく自身の弁当に手をつけ始めた。

 モソモソと中身を食べ進め、チラリと坂田を見る。

「ねえ、大和君」

「どうしたの? 菜緒ちゃん」

「学校卒業したら、私、大和君と一緒に住む。それで、平日は半日、休日は一日、大和君に甘える」

「いいね。俺も菜緒ちゃんとずっと一緒が良いな」

「うん」

 コクリと頷き返す鈴木は放課後まで少ししおれていたが、坂田と手を繋げる下校時間には元気を取り戻して、無表情なりにニマニマと微笑んでいた。

 約一か月後、坂田と鈴木の恋愛ゴシップに飽きた生徒たちが二人に特別な視線を向けることも無くなり、鈴木が元気に坂田に甘えるようになるのは、また別の話である。

来週はおまけ話と後日談です。

その翌週は……未定ですけど何か書きます。


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