鈴木の事情
「もちろんそうだけど、なんで、今、その質問になるの?」
酷く驚いたような、不可思議そうな表情をした鈴木がコテンと首を傾げる。
裏表のない素直な態度に坂田は内心でホッとしながら、「だって」と口を尖らせた。
「菜緒ちゃん、上田のことばっかり優先するから。今日もお昼休みに来る時間、二十分くらい遅れたでしょ。お昼休みって、菜緒ちゃんが思ってるほど長くないんだよ。それなのに……上田と喋ってたせいで丸々潰れた休み時間もあったし、今日の放課後も、用事って上田のことだったんでしょ。この浮気者!」
話している間に日々、溜めていた鬱憤を抑えきれなくなったのだろう。
坂田は鈴木を厳しく非難すると、ギッと睨みつけた。
すると、いわれのない中傷に腹を立てた鈴木が目つきを鋭くする。
「浮気してない」
はっきり告げると、坂田が素早く鈴木の上に覆いかぶさって彼女の唇を塞いだ。
彼女の艶やかな唇を無理やり開かせて、奥の方へ舌を突っ込む。
鈴木が驚いて硬直したのをいいことに、坂田は何度も彼女の舌を貪って酸素と平常心を奪った。
「やま……くん、なに?」
酸素不足と激しめの愛撫による羞恥心で真っ赤になった鈴木が、痺れる舌をモゴモゴと動かす。
荒い呼吸をする彼女の頭は真っ白で、坂田を潤む瞳で見上げながら曖昧な問いを発することしかできなくなっていた。
自分自身に対して酷く甘えた態度をとっているようにも見える鈴木を、坂田がギロリと睨みつける。
「嘘ついたら、何回でもするから。浮気はしたでしょ」
「してない」
鈴木は再度、キッパリと告げて首を横に振った。
「じゃあ、なんであんなに上田と会ってたの? 俺のこと好きだって、今も、さっきも、前も言ってたくせに、どうして上田の方ばっかり優先したの? 菜緒ちゃん、元々たいして上田と仲良くなかったよね。それなのに、俺と仲良くなったくらいのタイミングから急に上田と関わるようになったのは、なんで?」
激しい怒りのはらんだ声で問いかけてくる坂田に、鈴木がバツの悪そうな表情で口籠る。
嘘をついても、あるいは何かを誤魔化しても、坂田は鈴木にキスをしようと考えていた。
そうして鈴木を激しく貪った時、彼女がソレを受け入れてくれたのなら、坂田は彼女を心から信じることができたし、万が一、拒絶されて心を裏切られたとしても、貪っておけば彼女の心に一定以上の傷を与えられたということで多少、溜飲が下がる。
坂田にとってソレは一種の試し行動であり、復讐だった。
少し待ってみても、なかなか口を開かない鈴木にしびれを切らした坂田がキスをしようと彼女へ顔面を近づける。
ビクッと肩を跳ね上げさせた鈴木が反射的に坂田の顔面を両手で柔く押し返した。
坂田の心臓がズキリと痛む。
「なんで今、拒絶したの? 俺のこと、やっぱり好きじゃないの?」
抵抗する鈴木の両手首をギュッと押さえ込み、這うような声で問う。
鈴木は一瞬だけ目を丸くした後、真直ぐに坂田を見つめ返した。
「好きだけど、話をする隙くらい与えてほしい」
「時間ならあげた。でも、菜緒ちゃん、喋ってくれなかったじゃん」
「だって、他人のプライベートな話になるから、簡単に話していいのか分からなくて」
「彼氏を不安にするのよりも優先すべき他人の、上田のプライベートって何?」
「それは……待って、待って、待って! 違う、今、確かにそうだなって思ったの! 話す! 話すから!!」
命乞いでもするかのように言葉を重ねたが、鈴木はアッサリ坂田に舌を甘噛みされる激しいキスをされて腰を抜かした。
弱った肢体を横たわらせていると、坂田が無言でブラウスの中に手を突っ込む。
そしてスベスベの腹を撫で、手のひらを上から下までつるりと滑らせ、際どい所をなぞった。
「次、言わなかったら愛撫も追加するから。酷いことだって、するからね?」
目の笑っていない坂田に鈴木が一度、顔を真っ赤にしてから頬を青く染め上げる。
表情と感情が忙しい彼女は大慌てでコクコクと頷くと、それからポツリポツリと上田との事情を話し始めた。
鈴木が話したのは、上田との間に結んでいた恋愛協力の話だ。
既に分かっているように鈴木は坂田を愛しているが、上田もまた鈴木の友人に対して恋心を抱いていた。
そのため、鈴木が坂田との距離を縮めるのに上田に協力を要請したところ、反対に彼の方からも自身の恋愛を手伝うよう頼まれたのだ。
持ちつ持たれつということで二人は互いの恋愛に協力することを決め、鈴木は上田から坂田の情報をもらっていた。
そして、そのお礼として鈴木は上田に対し、友人への取次ぎなどを行ってデートまでのお膳立てをしていた。
「秋子ちゃんは引っ込み思案で、恥ずかしがり屋で、心配性だから、上田君との恋愛、乗り気だったけど、なかなか連絡を取るところまで話が進まなかった。だから、そこへの取次ぎで、最近、忙しかった。上田君とも、たくさん喋った。でも、本当に浮気はしてない。今日、放課後に話してたのは、上田君からデートの結果報告を受けていただけだから」
鈴木がアワアワと口を動かして、何とか坂田に纏わりついた誤解を引っぺがそうと苦心する。
「俺のこと、チョロいとか遊びとか言ってたのは?」
「上田君が、『坂田は惚れっぽくてチョロいから、もう鈴木と付き合ってると思ってた』みたいなことは言ってたかも。あと、私、坂田君とよく遊びに行くようになったって上田君に報告した。その辺の話かも」
鈴木が放課後を思い出しながら少しずつ言葉を出す。
やはり、鈴木の表情や声、態度に嘘や誤魔化しは見つけられない。
坂田はそんな彼女の様子を確認しながら「ふーん」と返事をした。
「もう、お互いに結構恋愛が上手くいってるから、協力し合うのも今日までにしようって、話してた。だから、明日からはずっと、大和君と一緒にいられる。何よりも大和君を優先するって誓う。だから、信じてほしい」
逃げがちになる坂田の瞳を追いかけてジッと見つめ、願う。
やがて、坂田はコクリと頷いた。
「分かった、信じるよ。でも、上田への恋愛協力か。菜緒ちゃん、意外とお節介なんだね」
坂田がクスクスと笑う。
それと同時に張り詰めていた空気が緩んで、鈴木は知らず知らずの内にホッと安どのため息を吐いた。
「うん。私も上田君に大和君の話を聞かせてもらったし、それに、恋愛のこと手伝うって約束しちゃってたから、そうした以上はある程度、面倒見なくちゃいけないかと思って、みてた」
鈴木の場合、坂田の勘違いと暴走、そして己の積極性が恋を実らせたため、実際にどこまで上田の助けが恋愛成就に影響していたのかは不明である。
だが、それでも鈴木は上田に助けてもらったと思っている部分が少なからずあるし、何よりも誰かを欲しいと願う気持ちが痛いほどわかっていたから、柄にもなく彼に協力していた。
そんなことを鈴木が口下手なりに坂田に告げると、彼は「優しいね」と柔らかく笑った。
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