今日もガン見の鈴木さん
毎週、水曜日に短編小説を、木曜日に長編小説の追加エピソードを投稿しています!
それぞれシリーズにまとめてありますので、よろしければ読んでみてください!
短編小説は仲良しカップルの日常系ラブコメが主ですが、たまに獣人とかも出てきます。
作品における既存のエピソードが更新されることがありますが、理由は誤字脱字及び細かな表現等の修正です。
作品の内容が大きく変わることは原則ございませんので、ご安心ください。
坂田大和は、よくいると称するには自己主張が大人しめで物静かな、だいぶ捻くれた男子高校生だ。
時折、気心の知れた友人と雑談をしたり、遊びに出かけたりはしているものの、基本的には単独行動をとることが多く、一人きりの時間を楽しんでいる。
多少の寂しさを感じることはあっても、ぼっち生活に大きな不満を感じることはなく、坂田は日々をのんびりと過ごしていた。
だが、そんな彼には最近、悩みがあった。
『鈴木さん、今日も俺のこと見てる』
坂田はチラリと後方を確認して鈴木菜緒にガン見されている事実を確認すると小さくため息を吐いた。
坂田は他者から注目を浴びることが苦手だ。
他人の視線にさらされていると緊張して体の動きがぎこちなくなってしまうし、何をしていてもミスを連発するようになってしまう。
おまけに心臓もバクバクと鳴って、背中や手のひらから変な背が滲みだすようになる。
坂田は見られている羞恥で赤くなってしまった耳を誤魔化し、視線を浴びる面積を最小限にするために机の上に突っ伏すと寝たふりを始めた。
『毎日毎日、何が目的なんだよ』
ここ数か月の間、坂田はことあるごとに鈴木にガン見されている。
授業中や休み時間は勿論、ふと廊下ですれ違った時や図書館で鉢合わせた時など、見られるタイミングは多岐に渡る。
付きまとわれ、常に監視されているわけではないが、鈴木と同じ空間にいると坂田は高確率で彼女に見られていた。
初めの頃は自分の方面にある何かを見ているのではないかと期待していた坂田だったが、以前、意を決して鈴木の方を振り返った時にガッツリと彼女と目が合ってしまったことから希望は捨てることにしていた。
そして、その代わりに、毎日毎日、隙あらば自分を見つめてくる鈴木の意図を探る日々を送っていた。
『別にずっと見てくるって訳でもないんだよな。ただ、一日に数回、明確に視線を感じる。で、見てくるわりに話しかけてくるわけでも、ちょっかいを出してくるわけでもない。何が目的なんだ? 粗探しか? 冴えない男子の欠点を肴に友達と飯でも食うつもりなのか? でも、そんなカスみたいな趣味、絶対にやめておいた方がいいと思う』
鈴木に見られている時の対処法は一つで、それこそが死んだふりならぬ、寝たふりをすることだ。
そのため、基本的に坂田は鈴木の前で眠り続けている。
知らない間に鈴木を含む女子たちの間で、寝不足冬眠マンとか陰キャスタイルといった、しょうもないあだ名をつけられていては堪らないと思った。
また、他にも自分を監視する遊びを友達としているのではないかとか、視線を指摘した瞬間にキレ散らかして自分を怯えさせる悪趣味な遊びをしているんじゃないかとか、嫌な予想は尽きない。
坂田はどちらかというと暗い性格の人間だ。
だからこそ、初めの頃は特に嫌な妄想に囚われて鈴木を強く警戒していた。
だが、最近は希望的というか、「こうだったらいいな」と思う予測が出てきたようで、それが、
『もしかして、鈴木さんって俺が好きなのかな?』
というものだった。
『だ、だって、鈴木さんが俺を見出してから結構時間が立っているのに、別に俺の悪い噂とかは増えてないし、大体、誰かをガン見するなんて、それこそ好きな人間が相手でもないとしないっていうか、ただの嫌がらせに数か月もかけるわけがないというか、そうしたら必然的に俺に気がある可能性が高くなるというか』
別に誰かに意見を開示しているわけではないのだから堂々としていればいいのに、脳内で言葉を散らかす坂田は酷く慌てている。
坂田は、なんというか、長年ひとりぼっちで過ごしており、女性にはモテないどころか利用されることが多かったため、異性や恋愛に対してこじらせていた。
そのため、自分を強く愛して大切にしてくれるのならば、多少ストーカー気質でも狂愛気質でも、あるいは束縛的でも構わないと考えている。
むしろ愛は重ければ重いほど自分を裏切らなさそうでいいなとまで思っている、なんとも夢見がちで少し危なっかしい思考を持つ男性だ。
『も、もしも、もしも俺のことが好きだって言うなら悪い気はしないし、ちょっとなら横顔とか見せてあげてもいいけど』
ソワソワ、モジモジとそんなことを考えながら、起きたふりをして寝起き風のアンニュイな横顔や、腕まくりした袖口から見える真っ白い手首をたっぷり見せてやろうか迷う。
『とりあえず、鈴木さんの様子を見てみようかな。も、もしも俺と目が合って、顔を赤くしたり、恥ずかしそうに目を逸らしたり、ニコッと笑い返してくれたりしたら、多分脈ありでしょ、多分!!』
恥ずかしがり屋な鈴木なので多少は緊張していたが、それでも、ここ最近、坂田を府民ぎみにしている妄想に終止符を打ちたくて、彼は勢いのままに斜め後ろにある鈴木の席を振り返った。
『……いない』
弁当箱の空が置いてあるだけの机にはもちろん、教室のどこにも鈴木がいない。
坂田は拍子抜けしたような感覚を覚えると、ガックリと項垂れてそのまま自分の机に突っ伏した。
『なんだよ。せっかく、今日こそは勇気を出そうと思って振り返ったのに。もしも鈴木さんが二個って笑ってくれたら、俺だって笑い返そうと思って心の準備をしてたのにさ』
すっかり拗ねてむくれてしまった坂田がジクジクと心臓を淡い愚痴で汚す。
それから坂田は突っ伏した腕の中で大きくため息を吐いた。
『いつの間にか弁当食べてたみたいだし、あの人のこと、行動も感情もなに一つ読めないんだよな。やっぱり、俺、おちょくられてるのかな』
内気で恥ずかしがり屋な坂田は、万が一、いや、億が一にでも鈴木が実は自分のことを見ているわけではなかったという可能性を考えると、彼女に直接、
「なんで俺のこと見てるの?」
と、問いかけることができない。
そのため、坂田は嫌な予想から少し嬉しい予想まで、いくつか可能性を考えて悶々としていることしかできなかった。
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