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このような事が起きた以上、リネーリアがまた悪魔に乗っ取られる可能性を考えなければならない。
フェルディナントは視線だけオスカーに向けた。
「王家では再度リネーリアの状況確認について急いでいる」
「ジュリアがリネーリアから出たことが理由の一つとも考えられるだろう。
なら向こうとしてはむしろ好都合か」
「偽聖女が悪魔と見抜いて倒したジュリア嬢がいないのは好機と考えるのが普通だが、反面、能力が高い彼女を放っておくのかは疑問なんだよね」
考え込むオスカーはフェルディナントの言葉に不快だという顔つきになった。
ドアを叩く音に二人が気づく。
「殿下、こちらにおいででしょうか」
「いるよ。入って」
ドアの外から固い声がしてフェルディナントの許可で入ってきたのは、フェルディナントの部下だった。
文官は剣を帯刀してしないし服も違うが、立場の高いものだとすぐにわかる服を着ている。
「陛下宛の書状が届いており、陛下から殿下が処理するようにとの言づてを受けお届けにまいりました」
「陛下は読まれたのか?」
「視察先に届けられたのですが、中は読まずに殿下に一任するとのことでした」
文官が頭を下げ両手で差し出したのは箱。
手に余る長方形の箱には黒字に金の細工が施されている。
上に大きく描かれているのはリネーリアの紋章。
フェルディナントは受け取ると部下を下がらせ箱を開けると中には封のされた手紙。
封蝋にはリネーリアの紋章があって、フェルディナントは気にすることなく封を開けると中を読んで眉を寄せた。
「読んでみなよ」
オスカーは手紙を渡され、なんとなく嫌な予感がしながら受け取り目を通した。
内容は、悪魔から皇子と国王を守ったことによる称号をジュリアに授けたいというもの。
ついては祝典を行うので迎えに行く、という一方的な内容だった。
「何が称号だ。
祝典を開くことを勝手に決め、断ることは無いとばかりにこちらに来るなどおかしすぎるだろう」
オスカーは知らずと手紙を持つ手に力が入り紙の端が歪む。
「おかしいのはオーラフ様の話とつじつまが合わない点もだね。
やっと邪魔な聖女がいなくなったのにわざわざ自国に呼び寄せるかな。
となるとさっきの疑問が出てくる」
「あぁ、そうだ。
いなくなったのはリネーリアでの話。ここに、彼女はいる」
二人とも黙り込む。
どう考えてもジュリアを自国に連れ戻すのが目的だろう、真の目的はわからなくても。
「悪魔がいなければ、リネーリア王家が保身のためにジュリアを呼んで大々的にやりたいと思うだろうがそうではないはずだ。
その上、絶対にジュリアが自国に来るように仕向けている」
「もしかしてジュリア嬢の弟君が迎え役で随行すること?」
「あぁ。ジュリアは弟君を大切に思っている。
王家がそれをわかった上でブラックウッド家唯一の後継者を使うのは、人質に取ったも同然だろう。これではジュリアが断ることは出来ない」
ジュリアの両親では無く、何も知らない弟が巻き込まれているのなら余計にジュリアは行くと言うだろう。
オスカーは額に手を当てた。
「俺の婚約者という立場だけではリネーリアでジュリアを守るのには不十分だ。
陛下に結婚のお許しを頂く前に呼び戻そうとしているのは意図的とすら思う」
「むしろ意図的だろ。
父上が長期で視察に出られたタイミングでその間に祝典をやるって言うんだから。
王家が民の信頼を取り戻す端的な方法は、わかるよね」
「あの馬鹿皇子がジュリアを呼んで、婚約破棄しておいて無かったことにするって訳だな」
「本当の聖女が未来の王妃になるほうが、王家としては都合が良いだろうさ」
「ジュリアは俺の妻だというに」
何としても彼女を奪われるわけにはいかない。
かといって行かなければ、彼女の愛する弟がどうなるかわからない。
「では、向こうが称号を与えたいというなら、こちらも称号で対抗しようか」
楽しげにフェルディナントの口元が上がる。
内容を聞いたオスカーは難しい顔になったが、大きなため息をついた。
「受け入れるかどうかはジュリアに委ねたい」
「良いよ。でも返事は明日朝に。
君も随行する人間を選んでおいて。
なんせ迎えが来るのは四日後だからね」