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オスカーは王城の真っ白な廊下を歩いていた。

朝の日差しが開け放たれた窓から入ってきて、同時に早朝訓練をしている兵士達の声が聞こえてくる。

衛兵がオスカーに礼をしてそれに返しながら、上までしめられているシャツの襟元を緩めた。

国王謁見への取り次ぎを頼むだけではあったが、立場上いつも着ているものよりは正装に近い服装だ。

仕事部屋に入るとそこには会いたくない人物が、オスカーの執務机に浅く腰掛け笑顔を浮かべた。


「父上への謁見はしばらく後になるのかな」

「こんな朝早くからどのようなご用件でしょうか、フェルディナント殿下」

「嫌だなぁ、そんなに昔のような冷たい対応をしたいでおくれ。惚れてしまうじゃ無いか」


塩対応のオスカーにフェルディナントはいつも通り軽口を叩く。

無視して仕事をしようと椅子に腰掛ければ、机に腰掛けたままフェルディナントは上半身をオスカーの方へ向けた。


「結婚がすぐに出来なくて不満なのはわかるよ。

だが私に報告しなければならないことがあると思うのだけどね、黒騎士隊隊長殿?」


オスカーは顔を上げること無く無言で書類を手に取り目を通す。


「君の部下は口が堅いだろうが他の者もその場にいたんだ。

何故生きて帰って来られたか、思わず話したくなるのも仕方が無い。

あれだけのことを彼女が本物の聖女だからこそ為しえたのだろうか」


既に知られている、それもある程度の内容まで。

むしろ興奮したあの場の兵士達が大事に話して、より話が膨らみフェルディナントの耳に入った可能性もある。

それなら訂正という形で誤魔化した方がいいのかもしれないとオスカーは考えた。


「伝聞の伝聞など信用出来ないとわかっているだろう?

あの大きさと強さのアンキーロは初めてだ。

他でも通常ではありえない個体の魔物が出現していると報告が入っている。

そちらの調査を優先すべきだろう」

「私達が知らない魔物が出てきたのはつい最近だからね、既に調査しているよ。

そんなものから兵達を守ってくれたジュリア嬢には感謝しかない。

そういえば重傷を負った兵士達が、不思議な空間で痛みが和らいだそうだね。

癒やしなんて出来るのだから、やはり聖女と思うのが自然だ。

一体彼女はどれだけの魔法を同時に行ったのだろう。

君だってとても気にならないかい?

それとも既に話を聞いた上で話さないことに決めたのかな」


下からのぞき込むようにフェルディナントが話す。

どうやら思った以上に詳細な情報が耳に入ってしまったらしい。


「俺はジュリアと結婚をする」

「で、君は彼女の能力をどう使うつもりなのかな」

「彼女にそういう面で頼るつもりは無い。妻でいて欲しいだけだ」

「初めて会ったときから、彼女は私では無くオスカーを気にしていたことに気づいてた?

最初はいつものようにモテているだけだろうと思ったけれど、彼女が君を見る表情に違和感があったんだ。

夜会で君を囲むご令嬢達の目とは明らかに違った。

何が違うのかと言葉にはしにくいんだけど。

不思議と君たちを見ていると、何か縁があるのではと思えてしまうんだよね」

「フェルディナント、お前のそれはシャレにならないやつだろう」


フェルディナントは国の中でもトップクラスの強い魔力を持っている。

人により特殊な能力を持つこともあり、フェルディナントは勘の鋭さや縁のようなものを感じ取ったりすることがある。

オスカーもその能力を知っているので、フェルディナントの方からそういう話題を振ってくるとは思わなかった。


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