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「この後始末をどうすれば良いというのか!」
リネーリア王城、国王の部屋では豪奢な椅子に座った国王であるホレス・スペリオル・ハミルトンが声を荒らげた。
向かい側に座る皇太子ハミルトンは縮こまって俯いている。
ジュリアが聖女イザベルを殺害したという噂は瞬く間に国中へ広まった。
同時にジュリアが悪魔を倒したという噂も広まり、民は一体どちらが真実なのか、それとも他に何かあるのではと話題は持ちきりだ。
ジュリアが消えたということも広まって、悪魔に殺された、国外に逃げた、イザベルを殺されたことに逆上したハミルトンがジュリアに手をかけたなど、下手をすれば王家に反発を招きかねない状況になっていた。
市民にはジュリアの方が聖女として扱われていた分、日頃評判が芳しくなかった王子に不審の目は向けられている。
逆にイザベルを聖女と信じている貴族達は、ジュリアをエルザスから連れ戻しブラックウッド家共々処罰すべきだと騒ぎ立てていた。
悪魔だった偽聖女イザベル。
それをジュリアが倒したという真実は、一部の者達にしかわかっていない。
だが、悪魔に骨抜きにされ婚約破棄まで公開の場でしてしまったハミルトンを多くの貴族は見ていたため、その非礼には貴族から次期国王への疑問がより強まってしまっていた。
どうすれば民を落ち着かせ、貴族を納得させられるのか。
馬鹿なことをしでかしたハミルトンもなんとかしなければならない。
ホレスはここ数日の混乱した状況に頭を抱えていた。
「フィンレー枢機卿が起こしになりました」
ドアがノックされ許可を得て入ってきたのはホレスの臣下。
頭を下げて教会のナンバーツー、フィンレー枢機卿が来たことを知らせる。
リネーリア国民は信仰心が厚く、信仰対象である聖母を敬う教会の力は民にも貴族にも強い。
ナンバーワンであるザリエル教皇はここしばらく病気のため執務が出来ず、フィンレー枢機卿が代行として執務を行っていた。
入ってきたのは白い法衣に身を包んだ中性的な美しさの男。
すらりとした背、真っ直ぐな白い髪は肩当たりで綺麗に切りそろえられている。
白の髪は聖職者でも尊いとされ、フィンレーはまだ二十代半ばで非常に優秀かつ教皇に信頼されているという人物だ。
国王を前に臆すること無く、礼をすると細い目で微笑を浮かべている。
教皇の代わりとして前に出てきたのは最近だというのに、神の使いとも言われる美しさもあってかあっという間に貴族平民問わずに人気を得ていた。
ホレスもこの若き枢機卿に魅入られている一人だ。
王家が混乱している最中、教会から聖女について尋ねたいと連絡があった。
ホレスとしては真の聖女かもしれないジュリアとの婚約を破棄し、その上みすみす国外に出してしまったなどとは言いにくい。
時間を稼ごうとしたがフィンレーから、聖女のことは全てわかっていますという手紙を見てホレスは観念し、むしろ打開策を提示してもらえないかと謁見を許可した。
そもそも国王といえど信者、教会をないがしろになど出来なかった。