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ジュリアはおもむろに膝に置いてある白のテーブルナプキンを取り上げ、もう一つの手には使っていないメイン料理用の銀のナイフを持った。
「このテーブルナプキンを防御壁とします。このナイフが剣です」
テーブルナプキンを二つに折り、その間にナイフを挟む。
そして白のテーブルナプキンに包まれたナイフを、ジュリアは自分の手の甲に当てた。
「本来の防御魔法による防御壁はこのように厚く、私の手がナイフで切れないのと同じように剣が本来持つ切るという力は外に働きません。
だから防御魔法は剣を使う以上防御は無理なのだと自分の頭で考えてしまい、その結果で解けてしまうんです。
魔法の発動はあくまで本人の精神によるものですので。
では防御壁が厚い状態でも剣に強い力があるならどうでしょう。
ハンマーのようなものならきっと相手を潰すことが出来る、そういう考え方を私は魔法でしています」
「知らない魔法の話は非常に興味深い。
是非後で教えてもらうとして、ここの疑問だ。
強い武器なら防御壁があってもなんとなかるという意味はわかる。
確かに物量で押せば可能なのかも知れない。
だが今回は俺の剣だ。
魔物の首を落とすほどに切れ味が良かった。
物量で押しつぶしたわけでは無いのはどういう理由からだろうか?」
「それは防御壁の厚さの問題です。
防御壁が厚ければ厚いほど身は守られる。だけど攻撃もしたい。
なら、まずは武器自体に魔力を込めて通常より底上げします。
その上で防御壁を動かない壁ではなく、伸びるものだと考えるんです。
剣を使うのならこんな厚いテーブルナプキンではなくもっともっと薄いものに。
その上それが伸びるなら、剣の所だけ薄く、他は厚い防御壁のままでいられる。
単純なことを組み合わせて出来ただけのことです」
ジュリアは胸を張ることも無く、ごく当然のように話した。
オスカーからすれば全てが自分の知る魔法の考え方と異なる。
防御魔法は防御しか出来ない、そういう魔法だと皆が思っている。
概念を変更することなど考えつかないし、そもそも魔法を長く学ぶ者からすればこのような考え方や行為を侮辱だととらえて怒りを買いかねない。
古く長く続く魔法が正しい、それに疑問を持つ者の方が異端だ。
だから普通はそんなことを思いつくことも実践する者もいなかった。
「あの魔法は君が造り出したものか?」
「勘違いされているようですが、私はたいそうな能力がある者ではありません。
あれは宝石があることでなしえているんです。
人間だけで行う魔法には限界があります。
それを宝石の種類や込めた魔法との相性により増幅させるんです。
あの宝石は水のような不思議なものだったでしょう?
清らかさ、柔軟さに特化しているのはあの宝石だからです。
あれだけ大きな、それでいて美しいものは早々見つからないんですよ。
宝石職人から縁あって私の元にきて、私が長年魔法を込めました。
私は単にそれをしただけです」
あの宝石はジュリアが元生きていた世界では『ウォーターオパール』と呼ばれる最高級品だ。
水のような、シャボン玉が膜を張ったような、それでいて虹色を秘めた宝石。
柔軟に防御壁が出来る上に、浄化能力も高い。
転生したこの世界でも早々こんな素晴らしい宝石はないし、何よりオスカーのためにと必死に魔法を込めてきたスペシャルアイテム。
オタクが推しに生きていて欲しい一心で作り上げたものの力は計り知れないと、ジュリアはしみじみ実感した。
オスカーの力を最大限生かし、そして生きてもらうための宝石。
自分が推しの役に立つなど光栄だ。
なんてことを素直に話すことは出来ないので、必要な箇所だけジュリアは話した。