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そこから必死に小説の内容を思い出し、ジュリアは魔王に国を乗っ取られたリネーリアの貴族の家に生まれていること、その上第一王子の婚約者となってることに愕然とした。
なぜなら、小説では二、三行しか出なかった過去の重大な問題にジュリアは関わっていたのだ。
リネーリアが悪魔に乗っ取られてしまったのは、第一王子が婚約者がいるのに人間の少女になりすました悪魔に溺れ婚約を破棄したのが発端。
新たな婚約者となったその悪魔と時間をおかずに王子は結婚し、悪魔達は堂々と城に入り込んで国王を毒殺、王子が次の王に立ったときには既に悪魔である妻の傀儡となっていてた。
はれてリネーリア城は悪魔が支配し、魔王誕生という最悪の道を歩む。
悪魔は魔力を持っていて、人間を呪うことや攻撃などが出来る。
だが、ハリソンを溺れさせたことに魔力は使っていない。
悪魔にとって、人間がいかに人間だけで滅んでいくかを見ているのが楽しいのだ。
所詮人間など退屈しのぎのおもちゃ。
全てのおもちゃを消しはしなくても、退屈しない程度には生かしておくという考えだ。
悪魔の習性を知り、この後の惨事を止めることが可能な立場にいる。
ジュリアはこの国が悪魔に乗っ取られることを阻止するために転生したと確信した。
大切な家族、そして大切なオスカーの命を守ることが出来る。
悲しみの結末を変えることが出来るのだ。
ジュリアはその為に悪魔に一番効果があるという白魔法を必死に習得し、剣は無理でもせめて短剣を扱えるようにこっそりと訓練をした。
何度あの悪魔を葬るために策を弄しただろう、だがいつも失敗に終わってしまう。
ジュリアの立場では、自由に動けるには限りがあったのが大きかった。
一方悪魔であるイザベルは貴族でも地位の低い家に生まれたが、自分で呪った貴族を自分で治すということを繰り返し、貴族達から聖女などと呼ばれるようになったことで普通なら近づくことすら出来ないハリソンに出逢うことに成功した。
ジュリアは幼い頃から協会と関わりがあることで、慰問と称し城下に行っては民に分け隔て無く白魔術で病を癒やしたりすることで聖女と呼ばれていたのだが、イザベルの方が貴族世界では効果的だった。
貴族は民の話題になど興味が無い。
それよりも自分たちが苦しんだ時に助けてくれるイザベルに貴族の評価は傾いていき、ハリソンの寵愛を受けているというのもあって、ジュリアの肩身は狭くなっていった。
だとしても今日のような公式で重要な場なら婚約者である以上ジュリアは出席しなければならないし、ハリソンはそんな事を無視して本命はこちらなのだと見せつけるようにイザベルを呼ぶ。
イザベルはハリソンに甘えて金を浪費させ、自分だけを見るように仕向けることでハリソンは次第に職務をおろそかにし出した。
それでも許されていたのは、聖女イザベルの存在を周囲が無視できなかったからだ。
そんなツケをジュリアがカバーすることが日常となっていた。
イザベルを葬るチャンスを伺いつつ婚約者の仕事をしながら、やはり原作小説という運命には抗えないのだろうかと何度もめげそうになりながらも諦めなかった。
オスカーの死を回避するために。