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「お帰りなさいませ」
屋敷に戻りロビーでメイド達からマントを脱がされ濡れたタオルで顔を拭くオスカーに、ジュリアが駆け寄った。
戦いを終え汚れたままのオスカーはジュリアに近づかないように言うが、ジュリアは微笑んで首を横に振った。
「オスカー様、お怪我は?」
「無い、大丈夫だ」
「安心致しました。皆様はご無事ですか?」
「命を落とす者が今回いなかったのは奇跡なほどだった」
「それは何よりでした」
「ジュリア」
「はい」
「腹が減ったんだ、もうそちらは終わっただろうが俺の食事に付き合ってもらえないか?」
もう深夜に近く、ジュリアはとっくに食事を終えているとオスカーは思っていたが、ジュリアはふふ、と微笑む。
「奇遇ですね、私もまだなんです」
オスカーは軽く身体を拭いてから普段着に着替え、ジュリアと遅い夕食を取ることにした。
聞かなければならないのはあの魔法のこと。
オスカーはメイン料理が運ばれる前に、耐えきれず聞いてしまった。
「ジュリア、君からもらった宝石は一体何なんだ?」
「防御魔法に浄化作用も追加したものですが、やはり効果はありませんでしたか?」
「逆だ。あまりに凄すぎた。
君のおかげで皆が助かったんだ、ありがとう」
ジュリアは少しはにかみながら良かったです、と胸をなで下ろす。
特に驚きも無く返すジュリアにオスカーの疑問は増していた。
「君があのように凄いことが出来るのは何故だろうか。どんな師から手ほどきを受けたんだ?それともリネーリアにだけ伝わる秘技なのだろうか」
「お待ちくださいオスカー様。私の魔法で何かあったのでしょうか」
質問攻めされたジュリアは困惑の色を浮かべオスカーに尋ねる。
つい前のめりで聞いてしまったオスカーは座り直し、すまないと謝罪した。
「今回の魔物はアンキーロだったのだが、一体のみは大きさも強さも異常だった。
弱点は変わらず喉だったのだが、近寄るのに苦戦した。
俺が襲われそうになったとき防御魔法が発動したんだ、それも周囲の者達も囲うほどの広さで」
そういうとハンカチで丁寧に包んでいたそのブローチを、パンツのポケットからオスカーは取りだしテーブルの上に置いた。
あれだけの魔法が発動したというのに、宝石は何事も無かったかのように不思議な美しさをまとっている。
「本来防御壁の外から人が中に入ることは出来ないのに、味方はすんなり入ることが出来た。
浄化作用があるとは聞いていたが、魔物に襲われた者達の怪我が良くなってきた上に、俺の剣に魔力がおそろしいほどに集まっていた。
内側から外に攻撃すれば防御壁は敗れてしまう。
だからそれを前提に戦ったんだが、何故か俺の剣でアンキーロを倒すことが出来て、その上防御壁はしばらく消えなかった。
ジュリア、これは俺が知っている防御魔法ではない。
どういうことは説明してくれないだろうか?」
なるべくオスカーは静かに話し、そして最後問いかけた。
ジュリアの魔法により自分も仲間も助かった。
感謝は当然だが自分も周囲も困惑していたし、妻にと望む相手が手の届かない場所に行ってしまいそうでオスカーは気がかりだ。
ジュリアは相づちをうちながら聞いていたが、そういうことでしたか、と何が知りたいのかを理解した。