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戦闘している場所は既に周囲の木はなぎ倒され、討伐隊はじりじりと交代している状況だった。
「悪いが状況を端的に報告してくれ」
馬を手前で下り、オスカーは木に隠れていた兵士に声をかけると、兵士はオスカーが来たことに肩の力が抜けた。
「まだ気を抜くな。で、状況は」
兵士の報告は、大型のアンキーロで素早い、剣がきかないというものだった。
それでも他のアンキーロは倒したというのは、兵士達の意地だろう。
デニスが他の兵士から聞いたことを含め、オスカーに伝える。
「総合すると、知能は低いままではあるようだね。
ただ暴れているだけ、それも素早くてでかいのが。
となると弱点は喉だ。
いつもやるおとり作戦で、おとり側が持ちこたえられるか、そもそも正面から来るかどうかはやってみないとわからないね。
彼らは既に失敗したようだけど」
近くでは集められた兵士達が肩で息を切らしている。
上官が一番負傷しているのは立派なことだろう。
二十名ほどいる兵士達を負傷した上官がまとめることも無理に見える。
他に小さくてもアンキーロがいる可能性を考えると、負傷している彼らだけでここを離脱させるのは厳しい。
臨機応変に対応できて人をまとめる人材をつけなければ危ういだろう。
「デニスは数人連れて討伐隊と撤退してくれ。
他にアンキーロがいる可能性がある。
野営基地あたりで合流しよう」
「了解」
デニスは二人の黒騎士隊を連れ、他の負傷兵と共にこの場を離れる。
「バルドリック、可能なら一度正面から攻めてくれるか。
他の者は援護しながら弱点を攻めろ」
「はい」
ここにいるのはオスカー含め七名。
バルドリックは返事をすると、すぐに動く。
他の者達も流れるようにアンキーロに剣を向けた。
アンキーロは周囲の兵士が邪魔だとばかりに凶悪な尾を勢いよく左右に振り回す。
アンキーロがそこに気を取られている間にバルドリックが正面に回ると、一息で弱点の喉を狙えそうな気がした。
体制を低くしながら距離を詰めようとして、すぐ側の大きな石から兵士が怯えたまま動けないのが視界の端に入る。
一瞬、他に意識が向いたのをアンキーロは逃さず、爪のある前足でバルドリックを払いのけバルドリックの身体が飛ばされた。
「全員アンキーロを離せ!」
バルドリックに再度襲いかかろうとしたアンキーロを他の者達がおとりとなる。
一番近くにいたオスカーが、倒れたバルドリックの腕を肩に回してこの場から離れようとした。
「隊長、そこに兵士が」
バルドリックは額から血を流しながらも石を指さす。
そこで怯えたままの兵士を初めてオスカーは気づいた。
先ほどの位置ではわからなかったが、その兵士にオスカーが指を指して動かした。
後ろに逃げろ、という意味だが兵士は顔をこわばらせたまま首を横に振って動こうとしない。
負傷して動けないのかも知れないが、ここにはバルドリックが立てない状態のため動かすには時間がかかる。