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討伐隊の基地に着けば、黒騎士隊の他の者がオスカー達を出迎えた。
「状況は」
オスカーは部下に問いかけながら用意されたテントに入り、一番奥の椅子に座る。
他の者も真ん中にある地図を広げられたテーブルを囲むように椅子に座った。
「完全に押されています。なんとか死者は出ていませんが負傷者だらけです。
ここの基地に近づくのも時間の問題かと」
「魔物の情報は」
「アンキーロです。
そのはずなんですが、あのように大型で足の速いアンキーロを見たことはありません。
ボスに従うかのようにいた普通サイズのアンキーロも残り数体になりましたが、いかんせんボスのアンキーロに近づけず交戦に苦慮している状態です」
アンキーロはとかげのような体格で、うろこに覆われている。
尾は長く、尻尾の先がハンマーのような形になって振り回す事で威嚇する。
足も太く短く、スピードは出ないものの身体の硬さと尻尾で敵を追い払う魔物だ。
「アンキーロは飛行しないとはいえ、でかくて素早いんじゃ面倒ですね。
なんせヤツの弱点は喉ですし」
バルドリックが前のめりになって地図を見ながら独り言のように言う。
「まずは残っている隊を再結成して方法を考えないと。
満身創痍の討伐隊でどれだけ使える者達がいるのかな」
テントの外で聞こえる隊員達のうめき声にデニスは視線を向けていると、テントの中へ許可も得ずに討伐隊の一人が飛び込んできた。
すぐに片膝をついた兵士は体中傷を負い、かなり血が流れている。
「申し上げます!
魔物がすぐ側まで来ております!お逃げください!」
「よく耐えてくれた。
後はこちらが時間を稼ごう。
その間に基地全員の撤退を」
立ち上がったオスカーが、片膝をついたままの兵士の肩に手をかける。
兵士は呆然としたまま、オスカーを見上げていた。
外に出たオスカーは声を上げる。
「黒騎士隊以外は全員撤退!
隊の者は討伐に向かう!」
オスカーの周りには九名ほどの黒騎士隊が既にいて、討伐隊の兵士達はオスカーの登場に皆安堵したような顔になった。
「ほらほら、すぐに撤退」
デニスが両手を打つと、兵士達は我に返ったように負傷者を抱えながら基地から離れだした。
「作戦を立てる時間ももらえなかったねぇ」
「正面からぶつかりながら、情報を集めれば良い」
デニスは残念そうに言っているのは表面だけだとオスカーは知っている。
参謀であるデニスなら、戦ううちに作戦を練れる。
大きな地響きとともに、向こうで土煙が上がった。
そんな離れていないせいか、複数の悲鳴も聞こえる。
オスカーが周囲に指示を飛ばす。
「まだ逃げてない者がいたのか!
バルドリックが先行し、負傷者を救助しつつ交戦する!」
はい!とバルドリックが先に走りだした。