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「ブラックウッド卿、今後のジュリアの事だが、彼女は悪魔を滅したときに体調を崩した事にしたい。
城でも悪魔を滅して座り込んだジュリアを私は介抱する為に運んで、それを見ている人間達がいる。
その後ブラックウッド家へ送ったが、呪いがかかった可能性があると急ぎエルザスに連れて行き、しばらく我が屋敷で療養とする。
その間に、私が求婚して婚約という流れだ」
すらすらとオスカーが説明し、ジュリアは目を丸くしている。
オスカーとしては、なるべく不自然に思えずエルザスに連れ出すこと、そしてジュリアと婚約する理由が必要になる。
事実を話すことが必ずしも良いわけではない。
周囲を納得させる、それもオスカーは庶民と気軽に接していることから、庶民が喜びそうな話となればなおのこと飛びついて広めるだろう。
貴族達は最初こそ口出しをするだろうが、フェルディナントがこちら側につけば表だって反対する者は早々いないはずだ。
フェルディナントがオスカー側の味方をする理由が、国のためになるという打算があるのはわかっていても、オスカーからすれば心強い。
ずっと黙ってたジュリアの母、マイラが口を開いた。
「ジュリアがハリソン王子の婚約者になったとき、正妻となることが王妃様より約束されていました。
王子がいずれ第二、第三の女性を迎えることになったとき、正妻であることは娘自身を守る最大の盾となるからです。
クラウゼン閣下は王位継承権がおありですね?
既に、正妻となられる婚約者がいらっしゃるのではないですか?」
金色に近い髪色で髪の毛を上の方で一つにまとめているマイラは、切れ長の目を細めた。
「ジュリアにも話したが、私は彼女以外を妻に迎えることはない。
それは心配しないで頂きたい。
王位継承権はあるといっても形ばかりだ。
そもそも家を継ぎ、国王を支えて民を守るのが我が勤め。
任務で心配をかけてしまうことがあるのは否定しないが、ご息女を大切に守るとこの剣に誓おう」
オスカーは脇にさしている剣のグリップを触る。
剣は長く重い。
この剣は国で最高位の騎士に代々伝わるもので、今は採ることの出来ない貴重な鉱物で作られた特殊な剣だ。
凝った装飾などは無いものの柄の部分にある最高位の騎士の証である竜の紋章は、王族ですら頭を垂れるほどの威力を持つ。
それに誓った意味が重いことをマイラもジェイミーも、そしてジュリアもわかっていた。
「お気持ちを疑うような発言、お許し下さい。
ジュリア、貴女はどこにいても私達の大切な娘。
どうか忘れないでね」
温かい声に、ジュリアの喉が締まるほどに涙がこみ上げてくる。
ここで泣いては駄目だと思いながら、涙でぼやける視界で必死に両親の顔を見た。
勝手に自分は両親にとって邪魔なのでは無いだろうかと思っていた。
そんなジュリアの寂しかった心は、この短い間で満たされた。
その分、別れが辛くなる。
だが、だからこそより大切な人達を守る為にここを離れる決意を、ジュリアはすることが出来た。
ジュリアは涙を堪え、笑顔を両親に向けた。