16
「我が娘がまだ赤子の頃頃、司祭様から告げられたのです。
『この子は女神に愛されているが故に、大きな災いに巻き込まれるだろう』と。
聞かされたときには私達も動揺致しました。
女神に愛されているのに何故災いに巻き込まれるのだろうと。
司祭様はそれ以上はわからないとおっしゃるだけで、私達は娘を守る為にどうすべきかずっと考えておりました」
ジュリアにとって初耳だった。
権威にあまり執着しない父親が王子との結婚を乗り気なのは違和感があったもの、ジュリアとしては両親が喜んでくれるならそれで良かった。
「そんな折り、たまたまジュリアの出た茶会に出席されていた王妃様がジュリアをお気に召して、是非ハリソン王子の婚約者にとおっしゃったのです。
王妃様は王子が娘を守るから安心するように言われました。
お告げのことなど話してはいませんでしたが、この巡り合わせが娘を守る為のものだと思ったのです。
しかしイザベルという令嬢が現れ、王妃様が王子の態度を憂いていらっしゃった中、病でお隠れになりました。
王妃様は時間が無いと思われたのでしょう、娘に王子を頼むと言われたのです、他の娘に夢中である王子の前で。
そんな王妃様のお気持ちを理解し、王子も心を入れ替えるのではと期待していました。
ですから王子から婚約破棄を突きつけるなど、最初聞いたときには信じられなかったのです」
ジェイミーは視線を下げ膝の上で拳を強く握った。
娘のためと、受け入れた婚約話。
いずれ王子の気まぐれも収まると思っていたのに、多くの貴族がいる前で婚約破棄を言い渡され愛娘が恥を掻かされたかと思うと腸が煮えくりかえる。
その上、悪魔と見抜いて自分たちに隠れて戦っていたのかと思うと、そのことに気づけなかった自分の愚かさに腸が煮えくりかえっていた。
「すまない、ジュリア」
「いいえ。どうかそのようなお顔をしないで下さい。
お父様とお母様が私の幸せを願っていたことは、わかっております。
私こそ、もう一度ハリソン王子と一緒にと思うことが出来ず申し訳ありません。
今の状況を考えると、私がこの国にいるのはこの家にとって危うく思えるのです。
オスカー様の申し出はありがたい限りで、少しの間お言葉に甘えたいと思っております」
「ジュリア、婚約を申し込んだことをまだ俺の気まぐれなどと思っていないか?」
オスカーが傷ついた顔をしたので、ジュリアは焦ってしまう。
未だにオスカーが本気で自分を妻にしたいと思っているなど、ジュリアには考えられなかった。
何せ推しだ、求婚してくる相手は。
前世の自分の支えになるほどの。
あんな短い人生で終わらせるのではなく、もっと自分のために生きて欲しくて。
だからこそ、悪魔とわかっていても人にしか思えない相手を滅する機会を、何度駄目になっても諦めずに耐えることが出来た。
この世界に転生して、家族や大切な人々を守りたかった。
その人達が悪魔に、魔物に苦しめられないように。
目標を達せれば後はひっそり暮らす予定が、こんな事になるとは。
おそらくオスカーも気の迷いか、ただ可哀想に思って婚約者などと言ってくれているのだろうと、ジュリアはその方が納得できると思える。