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未だに馬車は速度が速いために揺れる。
その揺れから守るかのように、オスカーはジュリアを抱きしめていた。
ジュリアの押し殺した泣き声は馬車の音にかき消され、なのに二人には何も音が聞こえないかのようだった。
ブラックウッド伯爵邸につき、執事がいつも通りにジュリアを出迎える。
そのいつも通りであることがジュリアにはありがたいとともに、こうやって迎えてくれるのはこれで最後なのだろうと思いながら応接間に急いだ。
応接には既にジュリアの父と母が待っていて、ドアが開くと二人はソファーから立ち上がり、中に一歩だけ入ったジュリアを二人で抱きしめた。
「お父様、お母様、申し訳ございません」
「良いんだ。お前が謝ることじゃない。
むしろ苦しめてしまっていたことに気づかず、すまなかった」
ジュリアの父、ジェイミーはジュリアの頬を優しく包み、母のマイラは涙を流し、ジュリアを抱きしめている。
ジェイミーは身長は男性の平均身長ほど、くせっ毛の銀に近い色髪色で中肉中背ながらも垂れ目であるが故に若く見えた。
「夜分に突然申し訳ない。
ブラックウッド卿、時間が無いため話を進めたいのだが」
家族三人の様子の頃合いを見てオスカーが声をかけると、ハッとしたジェイミーが頭を下げ、マイラも礼をした。
そしてソファーに案内し、上座にオスカー、その横にはジュリアがオスカーにより座らされた。
「単刀直入に言う。
ジュリアを我が妻に迎えるための許可を頂きたい。
そして、その後について話をしておく必要がある。
彼女を守る為に」
オスカーの立場上、身分がしたの許可など必要は無い。
しいていえばエルザスの国王に形だけの結婚許可をもらわねば、結婚できないだけだ。
それでもオスカーはジュリアの為にとジェイミーに告げた。
ジェイミー達も今日娘に起きた、そして起こしたことに驚くとともに悔やんでいた。
そのことも告げなければならない。
「クラウゼン閣下、娘のためにここまでお力添えいただき、私どもこそお礼申し上げます」
「ジュリアと同じように勘違いしているかも知れないが、私は彼女の隠れ蓑となる為に婚約者の話を持ちかけたのではない。
そんなことは関係なく、私はジュリアを妻に迎えたいと思っている」
隣できっぱりと言い切ったオスカーに、ジュリアは恥ずかしさで俯く。
ジェイミー達は目を丸くしてお互いを見たが、ジュリアが耳まで真っ赤にしながら俯く様を見て、娘の気持ちは十分に推し量れた。
「私どもとしてはジュリアさえ良ければありがたいお話です。
なにせハリソン王子との婚約はジュリアによかれと思ってしたことでしたが、近頃は後悔するばかりでした」
「何か、ブラックウッド卿には思うことがあっての行動だったのだな」
オスカーが気づいたことにジェイミーの表情が曇った。
ジュリアの前で話して良い物だろうか。
だがこうやって直接話す機会をその後取れるのかもわからないのなら、また後悔する前に話しておいた方が良い。
ジェイミーは愛娘の目を見てから、オスカーに向き合った。