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オスカーは仕事第一であまり女っ気が無く、一時周囲からフェルディナントとの間柄を怪しまれたほどだ。
フェルディナントもオスカーがいることによって国が成り立つと思うほどに、剣士の実力はわかっている。
だが皆が頼り切り、オスカーは責務だとプライベートな時間すらまともに取れていないことは気がかりだった。
そんなオスカーが一目で恋に落ちた相手。
それをフェルディナントはすぐに気づいた。
国にとって必要な存在の前に、弟のように大切な存在。
そんなオスカーの背中を後押ししてあげたいという気持ちが大きい。
しかしジュリアの価値を理解せずに捨てたこの王家も愚かだ。
エルザスなら優遇されるべき存在でもあり、彼女の存在を隠さない方がエルザスにとっては有利であると考えてしまう自分がいることをフェルディナントは否定出来ない。
「オスカー、事が事だ。
取り急ぎ国に戻る前に、ブラックウッド侯爵と会って話を合わせておいた方が良い。
既に伯爵家へ伺う旨の早馬を飛ばした。
ブラックウッド伯爵令嬢、ご家族と別れの時間はあまり作れそうにない。
この国の功労者だというのにすまないね」
フェルディナントの言葉に、オスカーも隣でジュリアに心配そうな表情を浮かべる。
戸惑うか悩むかと思えたジュリアは、即答した。
「ご配慮ありがとうございます。
最後に顔が見られるだけで十分です。
それとフェルディナント殿下、どうぞ私はジュリアとお呼び下さい」
「オスカー、君はなんて彼女を呼んでいるの?」
「ジュリアだ」
「では私はジュリア嬢と呼ぼう。
特別は、特別な相手の特権だからね」
ジュリアから見えないように、オスカーの肘がフェルディナントの脇に容赦なく入った。
痛みで前のめりになったフェルディナントに、ジュリアが駆け寄る。
「どうされましたか?!」
「ジュリアは気にしなくて良い。
メイドを呼ぼう。すぐに俺の馬車に乗る準備をしなくては」
「女性にとても優しいオスカー様の話しをしたら、皆驚くだろうなぁ」
フェルディナントの軽口に、オスカーが冷めた視線をよこせばフェルディナントは軽い声で笑った。