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「どこまで話は進んだんだい?」
「彼女に求婚したところだ」
オスカーは立ち上がり、立ったまま楽しそうな顔のフェルディナントの側に行く。
小声でも話ながらも嫌そうな顔のオスカーと楽しげなフェルディナントは、立っているだけで見目麗しいだけで無く人を惹きつける。
親同士が兄弟、小さい頃からフェルディナントが兄、オスカーが弟のように育ってきた。
フェルディナントの兄弟は全て母親が違う。
母親達の思惑を幼いながら感じ取っていたフェルディナントには、継承権に無頓着なオスカーの方が一緒にいて楽だった。
お互い優秀ながらも切磋琢磨し今は二人とも有名であり人の上に立つ存在となった。
だからこそか、プライベートでは気を許した関係だ。
「早いねぇ。
ブラックウッド伯爵令嬢を守る為だろう?」
「そうだ。だがそれだけじゃない。
で、そっちはリネーリア国王と話をつけたのか?」
「先に。明日出立予定だったのを今すぐに変更した。
既に皆には荷造りに取りかからせている。
リネーリア国王達はそりゃ大騒ぎさ。
詳しく、丁寧に、この私が事の顛末を話したせいか余計にね。
それはそうだろう、息子が外交の場というのに勝手に婚約破棄なんてやって、あげく溺れていた聖女は悪魔だったんだから」
フェルディナントは言い終えて両肩を軽くあげた。
「でさ、ブラックウッド伯爵令嬢を守る為なら、もっと良い方法があるよ」
「なんだ?」
オスカーの眉間に皺が寄る。
「私の婚約者になればいいよ」
後ろに花を背負いそうなほどの笑顔を見せたが、次の瞬間フェルディナントは壁に背を押しつけられ顔の横にドン、と手が壁についた。
その手の主、オスカーがフェルディナントに数㎝まで顔を寄せる。
「・・・・・・何だって?」
「冗談!冗談だって」
地鳴りのような低い声に、魔獣の大群を一振りで殺しそうな表情でオスカーがフェルディナントに詰め寄る。
フェルディナントはあははと笑って、どこから出してきたか謎な小さな白旗を振る。
そんな二人を離れた場所からジュリアは見ていたのだが、二人が話す声は聞こえない。
オスカーの大きな背中は見えるが、見ているだけなら仲よさそうに戯れている。
その光景に、あ、小説でもこの二人は良く戯れていたなぁとジュリアは思い出し、三次元で行われているその歴史的瞬間に立ち会っているようで感無量だ。
「冗談はここまでにして」
「本当に冗談か?」
未だにオスカーは睨んでいる。
「冗談に決まってるだろう?
外交に力を入れようとしている時に、リネーリア第一王子の元婚約者がエルザス第一王子の婚約者になれば方々から反対の声が上がるさ。
だがお前なら障害は遙かに少ない。
彼女はお前からの求婚を受け入れたんだろう?」
「いや、彼女を守る為にとりあえず形だけということで伝えた。
彼女もこんなことが起きたばかりですぐに返事は無理だろう」
「ゆっくり攻めると?」
「まさか」
オスカーの口角が上がり、フェルディナントはジュリアの今後が可哀想に思えた。