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生き倒れ君③

 はっきり言って冒険者になるのは簡単だ。

 異世界人の俺がなれるくらいだから、出身や身分も関係ない。

 大きな街にある冒険者ギルドに行って、名前を書いて登録料を払えば、試験も無しに冒険者証は発行される。

 形的にはこれで冒険者だが、冒険者になる事と冒険者で生活していく事は別の問題だ。

 ギルドは最初に冒険者の心得や義務、ギルドの規則を教えてくれるけど、冒険者として生きていくために必要な知識や技術は教えてくれないんだ。

 だって、ギルドは学校じゃないからね。

 最初は街の中で出来る簡単な依頼を受けて、冒険者としての生き方を覚える必要がある。

 他にも先輩冒険者達にくっ付いて行って、様々な仕事を覚えるやり方もあるが、とにかくそれを繰り返して、実力を身につけてから昇給試験を受けて鉄級から銅級にまで上がってから、初めて冒険者として一人前に動けるようになるんだ。

 英雄に憧れて、目先の冒険ばかり追いかけてるから痺鼠なんかにやられるんだよ。

 俺だって最初はちゃんと下積みしたんだぞ?


「ヨハンだっけ? もっと慎重に生きた方がいいぞ。普通だったら森の中で倒れた時点で獣に食われてもおかしくないんだからな」


「はい……しかし、つい焦ってしまって……いつ親に連れ戻されるかわからないし……冒険者として大成していれば親も認めてくれるかなって……」


「……そんな考えじゃすぐに死んじまうぞ? これからどうする気だよ?」


「うぅ……とりあえずツヴァイに行きます。そこで仕事をしてフンフまでの旅費を稼ごうかと……」


 うーん、それは難しいだろうな。

 ツヴァイからフンフまでは乗合馬車で銀貨7枚は必要だ。

 でも、鉄級冒険者がソロで受けられる依頼なんて雑用ばかりで、報酬も小銀貨2、3枚程度だ。

 1日の生活費も考えると、銀貨7枚が貯まるのはいつになるかわからないぞ。


「誰かベテラン冒険者のチームに入る方が早いんじゃないか?」


「それが……フィアのギルドでも聞いてみたんですけど、『箱入り息子なんか足手まといにしかならない』って全部断られました……」


 だろうな。

 俺だって断る。

 経験のない冒険者を同じチームに入れるなんて、ベテラン側には何のメリットもない事だからな。

 有力なツテがあるか、何かメリットになる能力でもあれば……

 そういえば、さっきの鑑定でチラッとヨハンの能力が見えたよな。

 あれなら、もしかしたらいけるかも。


「なぁ、ヨハンはツヴァイで冒険者になるのは嫌なのか?」


「えっ? いや、別にそういうわけじゃないですけど……」


「ツヴァイでもいいのか? それなら1つだけアテがあるぞ。ついて来い」


「ほ、本当ですか!? 行きます!」


 俺とヨハンは弁当を片付けて歩き出した。

 ヨハンは方向音痴みたいだけど、一緒に歩いている分には問題なさそうだ。

 これならチームで活動する分には大丈夫だろう。

 ヨハンを先導しつつ、歩く事1時間。

 ツヴァイの城壁が見えて来た。


「あれがツヴァイだ」


「ああ……街だ。街が見える! 良かったぁ……もう街には帰れないのかと……」


 そんな大袈裟……とも言えないか。

 なんせ1人だと出発地点からいきなり反対方向に行くような男だからな。

 俺には理解できない苦労があるんだろう。


「おっと、早く行かないと夕刻になると出入りが多くなって入るのに時間がかかるぞ。急ごう」


「は、はいっ!」


 俺達はまだ人がまばらだった城門から入り、簡単なチェックを受けてツヴァイの街に入った。

 混んでると結構待たされるんだなぁ。


「おおおっ! こ、ここがツヴァイですか!? 海が近いだけあって潮の香りがしますね。うーん、これなら新鮮な魚介類や質の良い塩が期待できそうだ。販路を整備すれば利益を上げるのは……」


 冒険者らしからぬ事を口にしているけど、今はそれでいい。

 むしろ、そうでないと困る。


「リョウさん。これからギルドに向かうのですか?」


「いや、市に向かう。多分そっちの方が話が早い」


「市? それに話って……」


「行けばわかるさ」


 首を傾げるヨハンを余所に、俺はツヴァイで市が開かれている場所へ誘導した。

 あいつらに説明するにもしても、ギルドだと信用してもらえないかもしれないからな。

 おっ、やっぱりいたな。


「よぉ、ガンテス」


「あ? おおっ! リョウじゃねぇか! 珍しいな、こんな時間にこんな所にいるなんてよ!」


 回復薬などの魔法薬が並ぶ露店の前に全身鎧姿の毛むくじゃらドワーフ、ガンテスがいた。

 一日の終わりに魔法薬なんかの必需品を補充しておくのは冒険者の心得だからな。

 この辺りにいると思って正解だった。


「まぁな。回復薬を買いに来たのか?」


「そうだ。ちょいと手持ちが心もとなくなって来たからな。商店より露店の方が安いんでこっちに来たんだ。おい、親父。これとこれ、それとあっちのもくれ」


「へい! 下級回復薬が5つに、中級回復薬が2つ。それと下級解毒薬が1つで、銀貨4枚でやす!」


 瓶に詰められた回復薬と解毒薬を店主が確認して、値段を言った。

 確かに商店で買うよりは、かなり安い値段ではある。

 ただ、安い理由が問題だがね。


「おう! 商店なら銀貨5枚はとるからな。やっぱり露店の方が……」


「ちょっと待ってください!」


 銀貨を払おうとするガンテスに声をかけたのはもちろん俺じゃない。

 ムスッとした表情のヨハンだった。

 俺が誘導しようと思ったのに、その前に動くとはちょっとビックリ。


「店主。この回復薬はいつのものですか?」


「な、なんでい? おまえさんは……うちの商品にケチつける気かよ!?」


「回復薬は封をされてからの日数で効能が変わります。どんな等級の物でも古い物は効果が弱くなり、価値は低くなるのは知っていますよね? この回復薬の封は随分とくたびれているようですけど?」


「うっ……そ、それは……」


 店主は明らかに動揺しているな。

 粗悪品と見抜かれたらそりゃそうだろうな。

 魔法薬にも消費期限みたいなもんがちゃんとあって、古い物は効果が弱いか、もしくは全く無い。

 用心深い冒険者なら怪しげな店で魔法薬を買う事は避けるんだけど、ガンテスは人が良いから粗悪品が売ってるなんて疑わないんだろうな。

 

「それにこっちの解毒薬はもっと問題です! 瓶に傷があって中身が少し漏れているじゃないですか!? これでは十分な効果は得られませんよ! 貴方は商品を売る立場にありながら、こんな粗悪品を売って恥ずかしくないんですかっ!?」


 へぇ、よく見てるな。

 あの僅かな傷から漏れたところまでわかっていたのか?

 こいつは思ってたより使えそうだ。

 さぁ、店主はどうするかな?

 かなり追い詰められているみたいだけど。


「う、うるせぇ! ガキが横から出てきて余計な事をベラベラ喋りやがって! 痛い目に合わせて……」


「待て。先に俺に話があるんじゃないか?」


 威勢よくヨハンに掴みかかろうとした店主の腕をガンテスがガシッと止めた。

 さっきまでと違った雰囲気のガンテスの一睨みで店主は顔面蒼白になっている。

 金級冒険者に粗悪品を売りつけようなんて、馬鹿な奴だな。


「この店は珍しい店だな。喧嘩を売ってるのか?」


「お、お客さん……べ、別にあんたに文句があるわけじゃ……」


「そうかい……だが、こっちには文句があるんだよっ! こんな粗悪品を売りつけるなんて……覚悟は出来てんだろうなぁ!?」


「ひぃいいいいいいい!」


 やべぇ! 

 ガンテスのやつ、マジギレしてやがる!

 これは死人が出るぞ!

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