ダークエルフ③
意外過ぎる情報に戸惑いを隠せない。
まさか、あの色気で経験無しとか、あり得ないだろ!
マジで魔性の女じゃないかっ!
あれはヤバい! 俺の経験上、あの手の輩には関わらない方がいい。
危ないからこれ以上、深く関わるのはやめとこう。
【鑑定】もさっさと止めて……ん?
っ! マ、マジかよ……これはヤバいやつやん!
「何もないなら良かった。じゃあ、僕はこれで失礼するね」
「ちょ、ちょっと待って!」
「うん? どうかしたの?」
あっ、思わず引き止めちゃった。
ど、どうしよう……でも、このまま行かせたら……くそっ! 目立たたくないってのに、知った以上は放っておけねぇよ!
「いや、その……白系丸苔が必要なんだろ? それなら俺の家にあるんだ。と、取りに来てくれるならすぐに渡せるんだけど……どうだ?」
「お、おいっ! リョウ! お前、まさか……」
オルテガが慌てて俺を止めようとするが、今はこいつに構っている場合じゃない。
それに【鑑定】で知ったことを誤魔化す言い訳も思いつかない。
だから、ここはゴリ押す!
「……本当に家にあるの? あるなら、すごく助かるけど」
「大神に誓って。どうするかは任せる」
カミさんに何か誓う日が来るとは思わなかったけど、これしか説得力のある言葉が思いつかないから仕方ない。
あとはシエンナがどうするかだ。
普通に考えたら、初対面の男に家に来いと言われても断るだろう。
その時は……諦めるしか……
「うん。わかった。行くね」
「っ!? さ、誘っといて何だけど……いいのか?」
「うん。僕が決めたことだから。後悔はしないよ」
「そ、そうか。わかった。オルテガ、そういう事だから見送りはいい。ただ、他の冒険者達に知られるのはマズい。人払いを頼めるか?」
オルテガは黙っていたけど、暫くして溜息を吐きながらも頷いてくれた。
その後、オルテガが手配して人気が無くなったのを確認してから、俺達はこっそりと家に向かった。
30分かけて家に着いたら、先ずはシエンナを椅子に座らせて休ませた。
顔には出していないが、結構辛かった筈だからな。
「大丈夫か?」
「うん。ありがとう。でも、君ってこんな山の中に住んでるんだね。不便じゃない?」
「不便だけど、それなりに良いところがあるんだよ。白糸丸苔を取ってくるから、ちょっと待っててくれ」
そう言ってから俺は、シエンナの目の届かないところで【収納】から白糸丸苔を取り出して、シエンナに渡した。
「うわぁ、ありがとう。それに今、採ってきたばかりくらい状態がいい。助かるよ」
そりゃ【収納】してあったからね。
まぁ白糸丸苔は山の清水に浸けておくだけでも、品質はそれなりに保てるんだけど、それは世間的には未発見情報だから黙っておこう。
それより、そろそろ本題に入るとするか。
「それはお近づきの印にあげるよ。それと、印ついでに食事して行かないか?」
「食事?」
「あ、ああ。ここに来るまで大変だったろ? わざわざこんな所まで呼んでおいて、これでおしまいという訳にはいかないよ。一緒にどうかな?」
ど、どうだ?
こんな怪しい申し出は断られても仕方ないけど、なんとかここまで来たんだから受けてくれ!
「……うん。じゃあ、ごちそうになるよ」
「そ、そうかっ! すぐに用意するからな!」
よし! 上手くいった!
あとはどう料理するかだけど、簡単に作れるアレにしよう。
わざわざ御飯に誘っておいて、これだけってのはおかしいかもしれないけど、今はスピード優先だ。
先ずはツヴァイ地鶏を細かく切って、更に包丁で叩いてミンチにする。
葱を刻んで、さっきのミンチと合わせてから塩とすりおろした縞根子と小麦粉、更に今日の本命とも言える刻んだコレを加えて、粘りが出るまでこねる!
粘りが出てきたら、これを手頃なサイズに丸めておく。
あとは揺刃草でとっただし汁を沸かして煮立たせたら、さっきのを入れ、アクを取りながら、また煮立たせる。
蓋をして弱火で暫く煮たら、エルムラサキの実を加えて、再び煮ると、俺特製の鳥つみれ汁の完成だ!
「待たせたな」
俺は器によそった鳥つみれ汁をシエンナの前に置いた。
シエンナはそれを不思議そうに見つめていた。
うっ……やっぱり、これだけっておかしかったか?
「初めての料理だ。とても良い匂いがする。君って、料理上手いんだね」
「そ、そうでもないよ。偉そうに言ってこんなのしか出せなくてごめんよ」
「ううん、僕のために作ってくれたんだから十分嬉しいよ。ありがとう、いただくね」
良かった! 食べてくれるみたいだ。
あとはちゃんと効いてくれるのを祈るのみ、だな。
「うん、美味しい。とっても美味しいよ。この、チキンボールに味がしっかり染み込んでて、パサパサしてなくてとっても美味しい」
シエンナは一口食べて満面の笑みを浮かべながらそう言った。
チキンボールって、鶏団子だから間違ってはないけど、まぁいいか。
さぁ、あとは効果がどう出るか。
「うわぁ、なんか身体がポカポカしてくるね。とっても……えっ?」
シエンナの身体を淡い光が包み込み、やがて吸収されるように消えていった。
良かった、無事に効いたみたいだ。