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巨人族と狼獣人②

 赤いくせっ毛を揺らして、無邪気な笑顔で走ってくるゼルマ。

 久しぶりに会うけど、相変わらず可愛いなぁ。

 距離が離れている間は、ね。

 だんだん近づいてくるにつれて、逃げ出したくなる衝動に駆られる。

 耐えろ、俺っ!


「お兄ちゃ~ん! 久しぶりやでぇ! 元気にしとった!?」


「あ、ああ、元気だよ。ゼルマも元気だったか?」


「うん! ゼルは今日も元気やでぇ!」


 上から見下ろす形で俺の顔の覗き込むゼルマは相変わらず可愛くて……デカい。

 この顔と声の可愛らしさと身体と筋肉のデカさのアンバランスさは何度見ても慣れない。

 ゼルマはツヴァイ冒険者ギルドの解体職人をやっている巨人族の女の子だ。

 巨人と言っても戦隊ヒーローのロボみたいなデカさではなく、身長は2m(メートル)ちょいくらいだ。

 だが、身長175センチの俺からすれば頭ひとつ分以上は大きいし、しっかりと筋肉が付いてる身体は見た目以上に圧迫感を感じる。

 これで顔が怖かったらとっくに逃げてるところだ。

 

「それにしてもホンマに久しぶりやでぇ……会いたかったわ。もっと会いに来てくれんとゼルは寂しいんやで?」


 モジモジする姿は本当にめちゃくちゃ可愛いんだけど、自分の頭上でやられている思うと……なんか素直に受け取められない。

 この形容し難い気持ちはいつになったら晴れるんだろう。

 いや、晴れるものなのか?


「な、なかなか会いに来れなくてごめんな。ゼルマが親切に教えてくれたおかげで、最近は自分でも解体出来るようになったからさ。用事もないのに来るのは迷惑かと思って」


「そんな事ないで! ゼルはいつでもお兄ちゃんに会いたいんやから、いつでも来てくれてええんやでぇ!」


 ゼルマにそう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、俺としてはそういうわけにもいかない。

 ゼルマは屈強な強面(こわもて)職人達が揃う解体部門のアイドル的な存在だ。

 可愛らしさと力強さを兼ね備えたゼルマは、他の街の解体職人にもファンがいるくらい人気がある。

 そんなゼルマにちょっかいをかけようものならどんな目に合うか……

 昔、1人のアホが用も無いのにゼルマにしつこく会いに来て、ゼルマが純粋なのをいい事に、言葉巧みに連れ出そうとした事があった。

 当然だけど、職人達は大激怒。

 その男を城壁の外まで引きずり出して、完膚なきまでにボコボコしたらしい。

 俺もゼルマが付きっきりで解体技術を教えてくれていた時は、周りから相当な圧と視線を感じたもんだ。

 それだけ大事にされてるって事なんだろうけど、職人達は過保護で過剰防衛っぽいのは間違いないから、変な誤解を与えないようにするのが一番いいと思う。

 俺は死にたく無い!


「お兄ちゃん? どうかしたんか?」


「うん? ああ、悪い悪い。それより今日は久しぶりに解体をお願いしたくて来たんだ。頼めるか?」


「おおおっ! お兄ちゃんからの久しぶりの依頼やで! ゼルはめっちゃ頑張っちゃうでぇ!」


 ゼルマはいつでも喜んで解体を引き受けてくれるから助かるよ。

 ジャンプして喜ぶ姿も無邪気で可愛い。

 ただ、飛び跳ねている音が『ピョンピョン』じゃなくて『ズンズン』なのが、俺を複雑な気分にさせる。


「嬉しいなぁ! 素材は何やろ? 栗丸猪(くりまるいのしし)か、岩肌鳥(いわはだどり)あたりか? それとも三目大蛇(みつめおおへび)とか?」


「残念、全部はずれ~今日は少し大物でな。五本角熊(ごほんづのくま)なんだ」


 五本角熊と聞いたゼルマは一瞬固まったが、急に堰を切ったようにその顔に大輪の笑顔を咲かせた。

 めっちゃ可愛……っ!?


「ご、五本角熊っ!? うぉおおおお! 久しぶりの一級解体依頼きちゃぁあああ! ありがとぉおおお! お兄ちゃぁああん!」


「むぐあっ!」


 急に興奮したゼルマに鯖折(さばお)り……もとい、抱きつかれた!

 ヤバい! 理由はわからないがゼルマに思いっきり抱きしめられるのだけはヤバい!

 巨人族は見た目通り、他種族の何倍も筋肉がある種族だ。

 抱きつかれたら骨ごと粉砕される危険がある!

 それに何よりヤバいのは……この胸だ!

 ゼルマは顔に似合わず、身体に似合って胸もデカい!

 巨乳は嫌いでは無いが、これだけ身長差があると抱きしめられたら胸に顔が埋まる形になって……い、息ができん!

 いくらカミさんが身体機能を向上させてくれたって言っても窒息だけはどうにもならんぞ!


「お兄ちゃん! ありがとうやでぇええええ! ゼルはめっちゃ嬉しいわぁ!!」


「っ!? むぐぐ……っ!」


 な、なんて(パワー)だ!? 

 全然離れる気がしない!

 それに何か知らないがゼルマは完全に舞い上がってしまって、俺の状況に気づいてない!

 このままでは俺の第二の人生はここで終わってしまう!

 女性の胸で圧死……洒落にならんわ!

 なんとか抜け出さないといけないけど……ダメだ! ビクともしない!

 こうなったら……


「ゼルちゃん! 止めなさい!」


 最後の手段を使おうとした俺に天使の声が舞い降りてきた。

 この声は……ミューさん!?


「心配でついて来たらやっぱりこうなった! もう! ゼルちゃん! 早く離しなさい! リョウさんがグッタリしてるよ!」


「ほぇ? あぁあああっ! ご、ごめんやで!」


「ぷはっ! ハァハァハァ……た、助かった……」


 か、解放された……なんて恐ろしい力だ……

 ミューさんが側にいなかったら本当にヤバかったぞ。


「すいません、リョウさん。ゼルちゃんは一級解体と聞いたら嬉しさのあまり我を見失う悪癖があって……それに大好きなリョウさんの依頼ともなれば、もしかしたら大変な事になるんじゃないかと思ったんですが、本当について来て良かった」


「あぅぅ、ごめんやでぇ……お兄ちゃん。一級解体なんて久しぶりやったから、ついつい嬉しくて抱きしめてもうた……痛かったやろ?」


 痛かったというよりは気持ちよかった。

 ただ、それは胸の感触ではなく、あの世が近かったからかもしれないけどな。

 それにしても一級解体ってなんだ?


「俺は大丈夫だよ。それより一級解体って何なの?」


「それは解体依頼の等級の事です。解体には素材の価値や希少性、難易度に合わせて等級を設定しているんです。特殊な特級を除けば、一級は最高等級となります」


「ツヴァイは三級とか四級の依頼が多くて、二級でも月に一回あるかないかやから、一級解体なんてめちゃくちゃ久しぶりで……ごめんなさい」


 要はやり甲斐のある仕事が久しぶりに来たから興奮したわけだ。

 それならさっきの喜びようにも納得がいく。

 納得はいくが、次からは気をつけて欲しい。

 それだけだ。

 

「俺は気にしてないよ。でも、代わりに最高の解体を頼むよ」


「ありがとう! 任せるんやでぇ! こんな一級品を無駄にしたらゼルは解体職人廃業やで! よぉおおおし! やるでぇええええ!!」


 めっちゃ気合い入ってんなぁ。

 うん、これなら安心して任せられる……


「上手くいったらお兄ちゃんがめっちゃ美味しいお菓子をくれるんやで! ゼルは気合全開やでぇええええ!!」


 ……お菓子が目当てかい。

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