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カミさん③

「うわぁ、これだよ、これ! いつ見ても綺麗だね!」


 綺麗? いや、確かによく出来たとは思うけど、綺麗とまで言えるか?

 ただのオムライスだよ?


「山のように盛られた赤く染まった(ライス)、その上に鎮座する焼かれた黄色い卵! この赤と黄のコントラストが実に美しい!」


 オムライスで色彩を楽しんでいる!?

 チキンライスとオムレツのコントラストが美しいって……プロならともかく、素人の俺が作った物でそこまで感動するもんかな?


「しかも、この卵がぷよぷよしてるのが面白いんだよ! どうやったらこうなるのか神である僕にもわからない! 正にこれは神の如き御業だ!」


 半熟オムレツが神の御業にっ!?

 そんなに大袈裟な技術ではございません。

 まぁ、異世界(こっち)では卵はしっかり焼いて食べるのが当たり前だから、生や半熟なんて考えもしないんだろう。

 俺も【鑑定】で安全な卵しか半熟にしないしね。


「ねぇねぇ! 早くアレをやってくれよ!」


「わかりました。では、失礼してナイフで」


 チキンライスの上にある楕円形のオムレツの真ん中にナイフでスッと切れ目を入れる。

 自重でゆっくりと切れ目が左右に開いていき、とろりと半熟の卵が広がっていくこの瞬間は俺も好きだ。


「あああっ……素晴らしい! なんと幻想的で美しいんだ! この一瞬の儚くも眩い光景が僕の心を掴んで離さない!」


 神の心を鷲掴み!?

 ふわとろ半熟オムライス、恐るべし!

 カミさんは本当に大袈裟なんだよなぁ。

 そういえば前に食べた時も似たような事言ってたっけ。

 

「あぁ、この完成された美を崩すのは偲びないが、これも定め。いただくとしよう。リョウ君の世界では食事の前に何て言うんだっけ?」


「世界というか、俺の国は『いただきます』です」


「そうか。では、このオムライスに敬意を表し、その文化に倣うとしよう。いただきます」


 神に敬意を表されるって、普通に凄い事では?

 まぁ、粗末にしないなら言葉なんて何でもいいんだけどね。

 大事なのは気持ちなんだから。


「ぁあああ。美味しいよ! このトロッとした卵のまろやかさと、しっかり味の付いた赤い米の組み合わせが最高だ! 旨味のある鶏肉の弾力と野菜の歯ごたえもよく合っている! オムライス、本当になんて素晴らしい料理なんだ! 神界一美味い物と言ってもいい!」


 世界一(せかいいち)じゃなくて神界一(しんかいいち)!?

 もう規模が大きすぎてよくわからないけど、喜んでくれてるのだけは伝わってる。

 それにしても神界ってのがあるんだ。

 さっきも他神がどうとか言ってたから、色んな神様が住んでるのかな?

 

「いやぁ、本当に美味しいよ! 他神にも自慢したくなるくらいだ」


「自慢したくなるって事は他の神様には内緒にしてるんですか?」


「まぁね。神が下界に関わるのを嫌う神もいるからね。特に知識神(ちしきしん)なんかは煩いんだよ」


 へぇ、知識神ってのがいるんだ。

 この世界の神は役割を分担していて1人じゃないんだな。

 カミさんは何の神だろ?

 遊びの神とかだったりして。


戦神(せんしん)は意外と話がわかるんだけどね。他の神達は変わり者が揃ってるからさ」


 自分は違うと言いたげだけど、カミさんもしっかり変わり者だよ。

 気になるから聞いてみようかな。


「カミさんは何の神なんですか?」


「僕? 僕は創造神(そうぞうしん)だよ。六神の長でもあるから大神(たいしん)とか言われる事もあるけどね」


 一番偉かった……

 一番偉い神様やった……

 すんごい失礼な事してた気がする。

 大丈夫か? 俺。


「ああっ! 美味しかった! 本当にオムライスは何度食べても飽きないよ!」


「お、お褒めに預かり光栄の至りでございますです」


「急にどうしたの? 変な喋り方して」


「いや、一応その……大神様でしたから……数々の御無礼があったかと思いまして」


「あははははっ! そんな事は気にしなくていいんだよ! 神だから敬えなんておかしな事だと思わないかい? 敬われない神なら、その神はその程度の神ってだけの話だよ」


 良い神さんやったぁあああ!

 なんて心の広いお優しい神様なんでしょう! 

 薄っぺらくて軽い神とか思っててごめんなさい!


「ただ、敬ってほしいとは思わないけど、たまに来た時に、またオムライスを食べさせてもらえたら嬉しいかな」


「それぐらいなら全然大丈夫ですよ、カミ様」


「カミさんでいいよ。なんか君に『様』って言われるとむず痒くなる」


 なんで? せっかく器の広さに惚れてカミさんからカミ様にしたのに。

 でも、本人が嫌と言うならカミさんのままにしておく方がいいか。


「さて、今日はこれで帰るけど、何か欲しい能力はあるかい?」


 うーん、欲しい能力か。

 でも、大抵は今のままで十分なんだよなぁ。

 時間の流れを止められる【保存】

 無限に物が入れられる【収納】

 行った事がある場所に移動する【跳躍】

 物の位置や価値がわかる【鑑定】

 特別な事がない限り、だいたいはこの4つで全てが解決できる。

 他にも色々と能力を貰ってるし、今は特にいらないかな?

 

「今は特にありません」


「そう。なら、また何かあったら言ってくれ。君の頼みなら大抵の事は叶えてあげるよ」


「ありがとうございます」


 色々思う事もあったけど、カミさんはやっぱり良い神だな。

 今度からはもう少し歓迎した方がいいのかもしれない。


「ああ、そうだ。僕の姿が見られるとマズいと思って遠ざけてた人達」


「えっ? ああ、ガンテスとヴァイオレットですか? やっぱり、カミさんの仕業だったんですね」


「まぁね。ちょっと思考を逸らしただけなんだけど、今解いておいたから全員、明日には帰ってくると思うよ」


「そうですか……えっ? 全員?」


「うん。ドワーフやエルフだけじゃなくて、他にも獣人とか色々ね。さっきも言ったけど、あんまり下界に手を出すのを良しとしない神もいるからね。一度に解いておかないと勘づかれたから困るからさ」


「そ、そうですか……それはまた賑やかになりそうだなぁ」


「賑やかな方がいいのかい? だったらちょうど良いね。彼等の君への意識を逸らすために抑圧していた欲求も一気に解放されると思うから、一斉にここにやって来ると思うよ! 楽しみにしててね。じゃあ、また今度ね」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って! 全員が一斉に来られても、それが一番困る…………行っちゃった……」


 シュンと姿を消したカミさん。

 残されたのは空のお皿と絶望的な言葉だけ。

 明日、全員が一斉に来る……?

 全員が一斉に……


「うわぁああああ! カミさんの馬鹿ぁあああああ!!」


 俺の虚しい叫び声は、今はまだ誰もいない森の中を彷徨っていった。

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