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カミさん①

 夕食前に今日の収入を確認するのが俺の日課になっている。

 俺が持つ能力があれば、一日で金貨を稼ぐ事もできるが、目立たないように生活するためには過度な収入は厳禁だ。

 だから、俺は欲をかかないように戒めとして毎日、その日の収入を確認している。


「やっぱり、今日はちょっと多いな」


 一日の目標は銀貨2枚、日本円で約20000円までにしている。

 多いように感じるけど、冒険者ならこれぐらいは普通の稼ぎだ。

 だけど、テーブルの上に広げた今日の収入は全部で銀貨3枚以上はある。

 明らかに目標を超えてしまっているが、別に意図したわけじゃない。

 簡単な薬草採取の依頼を受けて、いつも通り森に向かったんだが、何故かいつもは無いはずの場所に依頼品の薬草が生えていた。

 品質もかなり良かったし、量も十分だったので依頼はすぐに終わってしまった。

 高品質な薬草の早期納入に依頼主が感激して、追加報酬くれたんだ。

 そのせいで目標を大幅に超えてしまったってわけだ。

 追加報酬なんて、がめつい商人からは考えられない話なんだけどなぁ。

 考えられない話と言えば、いつも俺の対応をしてくれるミューさんがいなかったのも珍しい。

 聞くところによるとギルドの会議に参加するため、ギルドマスターのオルテガと一緒に隣の大都市アインズに向かったそうだ。

 ギルドの受付嬢であるミューさんが参加するような会議なんて聞いた事がない。

 他にもガンテス達が貴族の護衛任務でツヴァイを離れているって話も聞いた。

 あの食いしん坊達が日帰り以外の任務、ましてや日数のかかる護衛任務を受けるなんて珍し過ぎる。

 他にも俺と多少なりとも関係のある冒険者達が全ていなかった。

 そして、帰りに寄ったリーディア商会ではリーディアさんが他の商会とのパーティーに参加するためにドライの街に行っているって話を聞いた。

 これに関しては怪しい点はないが、これだけ重なるのはおかしい……と言うより不自然過ぎる。

 これは多分、あの人の仕業だ。


「コンコン。夜分に失礼するよ。荻野遼君」


「うわっ!? きゅ、急に現れるのはやめてくださいと言いませんでしたか? カミさん」


 いつの間にかテーブルの対面に黒髪の青年が座っている。

 こいつは何回言っても、いきなりやって来やがるな!


「ちゃんと言われた通りにノックして来たよ?」


「口で『コンコン』言っても意味ないでしょ? しかも、もう家に入ってるし。ノックは家に入る前に扉を軽くコンコンって叩くんです」


「ふーん、意味のない事をしないといけないんだね。僕は見ようと思えば何でも見えるし、何処にでも行けるんだよ? これってノックは必要なのかな?」


 とぼけたような顔で首を傾げている。

 自分中心の考えしかできないのは仕方のない事なのか?


「来客を知るため、相手には必要でしょうね」


「なるほど! これが君が言ってた『相手の立場になって考える』だね! 勉強になったよ」


 絶対わかってないだろ。

 まぁ、無茶な話だよな。

 神に人の常識を理解しろって言ってもね。


「それにしても相変わらず狭い家だね。本当にここでいいの? 何だったら僕のお城と同じくらいの大きさにしてもいいんだよ?」


「あんな城か、山かわからない家はいりません」


「そうかい? 人間って権力の誇示には醜いほど必死だから良いと思ったんだけど」


 いちいち嫌味っぽい事を言うなよ! 

 悪気がないのはわかるけど、あんまり気分のいいもんじゃないぞ!


「まぁ、君がいいならいいんだけどね。それと僕のあげた能力は役に立ってるかい?」


「それについては重宝させてもらってます。ありがとうございます」


 これは本心だ。


『ごめんね。他の神達の流行りに乗っちゃって、なんとなく君を異世界に飛ばしちゃったんだよ』


 って、聞いた時には本当にどうしてやろうかと思ったけど、他の神様に倣って色んな能力をくれたのはありがたかった。

 あのクソッタレな現実から逃げたかったのも事実だし、今は本当に感謝している。

 ただ、この軽さだけは受け入れられない。

 紙のようにペラッペラな感じがどうしても無理だ!

 だから俺は色んな意味を込めて、この神を『カミさん』と呼んでいる。


「でも、荻野遼君は……」


「すいません。この世界ではリョウで過ごしてますから」


「ああ、ごめんよ。でも、リョウ君は本当に変わってるよね」


「何がですか?」


「他の神様に聞いたら、転生なり転移した人間は絶大な魔力で活躍するとか、『ざまぁ』って言うのかい? 苛める相手を見返す能力を欲しがるのが多いんだって。それに、のんびり生きたいと言いながら、結局は大事(おおごと)に関わるんだってさ」


 まぁ、そんな人もいるでしょう。

 それに小説だとしたら、そうでないと盛り上がりに欠けるから仕方ないんだろうし。


「それなのに君が選んだのは本当に生活するのに必要な能力ばかりなんだもん。ビックリしちゃったよ。リョウ君には欲がないのかい?」


 他の人達は知らないけど、俺は静かに穏やかに過ごしたいだけだ。

 それにそうやって生活できるって事は、現代社会ではかなりの欲だと思う。

 活躍しなくてもいい。

 見返す必要もない。

 ただ、のんびりと美味しい物を食べながら生きていく。

 俺にとっての最高の贅沢だ。

 

「まぁ、僕は君が気に入っているからね。欲しい能力は何でもあげるよ。それで世界を滅ぼすのなら、それでもいいしね」


「……いいんですか? そんな事言って」


「うん。確かに、このタウゼンダートはいい世界だよ。でも、だからっていつまでも繁栄するとは限らないでしょ? 異世界からやって来た魔王に滅ぼされるってのも有りじゃない?」


 その力を与えたのがこの世界の神なんて聞いたら、この世界の人は何を思うんだろうね。

 まぁ俺にそんな気はないし、カミさんも本当にやるとは思ってないんだろう。

 ただ、どう転がっても良いってだけ。

 人間と神の価値観の差は思ったよりも大きいようだ。


「それよりさぁ! せっかく遠路はるばる僕が来たんだよ!? 何か忘れている事はないかい?」


 はぁ……急に何を言い出すかと思えば、やっぱりそれか。

 そんなに目をキラキラさせて、身を乗り出してまで言う事か?


「カミさんなら、何でも手に入るんじゃないんですか?」


「供物として出された物はね。でも、だいたいは果物とか穀物とかの食糧、お酒、後は獣や魔物の素材なんだよ。一番困るのがお金だね。あんな人間の作った物を押し付けられても困るんだよねぇ。僕達には使い道ない物だしさ。あっ、何ならいるかい? 白金貨とかいうのが10万枚以上はあるんだよ」

 

「は、白金貨10万枚っ!? い、いりません! 絶対にいりません!」


 白金貨10万枚って……白金貨1枚が日本円で約1000万円くらいだから……一兆円っ!?

 そんな大金、絶対にいらんわ!


「そうかい? だったら今度、世界のどこかにバラして捨てておくよ。使い道がなくて邪魔だしね」


 お金を粗末にするとは、なんて罰当たりな……いや、人間の作った物を神が蔑ろにしたからって罰当たりにはならないのか?

 そもそも勝手に押しつけたわけだし……それに誰が神に罰を与えるんだ?

 仏様か? うーん……わからん!


「それで話を戻すけど、供物には料理って物はないんだよ。だから、アレをお願い!」


「またアレですか?」


「うん、アレがいいんだ!」


 満面の笑みを浮かべた神からのお願いか。

 これは断るわけにもいかないよなぁ。

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