#09 ハイかイエスか、二択できっぱり答えて
「やっほー」
雄平の右に立つのは小林美紀。
雄平や葉月とクラスメートであり、葉月といつもつるんでいる友人の一人だ。
見た目、清純派とでも言おうか。葉月とは対照的に制服を着崩すようなことはせず、髪もさらさらと揺れる黒髪セミロングの女の子。
そして彼女の一番の特徴はやはり、泣きぼくろが妙に大人っぽい雰囲気を醸し出している癒し系お姉さんタイプなところだろう。
「どもー」
雄平の左には、長瀬愛華。
背は少し低めだが、猫を思わせるような愛嬌のある可愛らしさと、ピンクのカーディガンに隠されているが葉月に負けず劣らずの盛り上がりを思わせる胸元とを併せ持つ、茶髪ショートカットの女の子。
さらに言えば男女問わず誰とでも気安く接するコミュ力強者。
こちらも葉月のいつメンの一人である。
正面には葉月、背には廊下の壁。
クラスの中心グループの三人に囲まれた形となり、非常に居心地の悪さを感じてしまう雄平だが、それには気付かず、もしくは構わず、女性陣が口を開いた。
「なになに? どしたの葉月ー。盛り上がってんじゃん?」
「まだ全然盛り上がってないし。メアド交換にすらたどり着けてないし」
「ん? メアド交換? ラインじゃなくて?」
「雄平ってば、ラインやってないんだって」
「え? マジで?」
「マジマジ。驚いちゃった」
「うん、フツー驚くわそれ」
「むしろ逆に感心しちゃう? 一周回って凄いかも?」
「でもでも、やっぱそれじゃあいろいろ不便じゃね?」
「だよねー」
「みんなでチャットとか?」
「そそ、それそれ」
「イベント連絡とか、一斉通知とか。もうみんなフツーにやってるし」
「だよねー。メールって、ここしばらく使ってないわー」
「ウチもウチも。使い方忘れちゃったかも。あははは」
「というわけで、雄平も明日にはラインも交換もしよ。今日中にインストよろ~」
「えっと……」
まさに女三人寄れば姦しいというか。
その会話スピードが凄まじいというか。
口を挟む隙が全然無いというか。
話を振られてようやく自分にもしゃべる機会を得られたようだ。
とか思った雄平は、実はまだまだ甘かったりする。
「あ、もち拒否権ナシで」
にっこり微笑む葉月に言葉を失ってるほんのわずかな間に、再び女子たちのエンドレストークが始まっていたりするのだから。
「うっわ~。葉月ってばエグっ」
「全然エグくないし!」
「いやいやエグいっしょ」
「ねー。これ自覚無しだわー」
「やめてよ。どこがエグいってのよ!」
「そりゃあ、笑顔で圧かけちゃってるとこかなー?」
「そうそう。神楽カワイソ」
「全然カワイソくないし。ラインも、ID交換も、別に普通だし。クラスメートなんだし」
「へぇー、そっか。そだねー。じゃあウチとも交換だね、神楽。よろしくねー」
「「え……?」」
長瀬愛華の思わぬセリフに雄平と葉月の声が見事にハモっていた。
「じゃあ、もち私もだね。神楽よろ~」
小林美紀のほうもそれに追随してくる。
「ちょっ、ちょっと……?」
「なーに? どしたの葉月ってば慌てちゃって」
「な、なんでアンタたちまで……」
「えー、だってウチらだって神楽とクラスメートだし」
「そそ。ねぇー」
「それに神楽。ウチらと繋がっとくと、何かとお得かもよ?」
「そそ。こう見えて、葉月ってば暴走しがちなとこあるしねー」
「そっ! そんなことないし!」
「いや、あるでしょ」
「うん。あるある」
「そんとき止められるのウチらくらいだと思うよー」
「だよねー」
「なるほど」
「そこ! 納得しない!」
思わず頷いてしまった雄平だったが、すかさず葉月からツッコミが入ってた。
「なんならさ、葉月の弱みとか、いくつか教えとくし」
「――マジ?」
つい反応してしまう雄平だったりする。
いやいや、別に本気にしてるわけじゃない。
単なる冗談だと分かってる、うん。
陽キャたちの軽いノリというやつだと分かってる、うん。
でも、クラスメートとの繋がりは、やはり大事なんじゃないかと、うん。
「マジマジ」
にっこりサムズアップする愛華。
そして、その手をがっしり掴む葉月。
「おいこら愛華? アンタなに言ってくれてんの? ちょっとアタシと二人っきりでゆっくりじっくりたっぷりお話しちゃいましょうか? んん?」
「え? あ、いや……。や、やだな葉月ってば、目がちょっと怖いよ? あは……あははは……」
葉月と愛華が、これからキャットファイトでも始めるのかとばかりに互いの両手を掴み合い、額をこすり合う。
これマズくね? と思う雄平に対し、美紀は慌てるどころか全く気にする様子さえ見せずに雄平に話しかけてきた。
「ところで神楽さ。先日は大活躍だったそうじゃん。葉月から話は聞いてるよ。私たちからもお礼言わせて。ってか、そのために私たちも今絡ませて貰ったんだ。葉月のこと、守ってくれてありがとね」
「あ、いや……オレはそんな大したことは」
葉月にヘッドロックをキメられてる愛華も「ありがとねー」と手をひらひら振ってくる。痛くはないのだろうか? 少なくとも見た目より余裕はありそうだ。
「後から詳細聞かされてさ、もうガクブルものだったよ。神楽に会えて、ホントラッキーだったよね葉月ってば」
葉月は美紀たちのことを親友だと言っていた。
ならば情報が伝わるのは当然ありえるわけで。
そうなると問題は、どこまで伝わっているのか……。
「えっと、その……、詳細って、どこまで……?」
「うん? ああ、詳細というか、一通り全部聞いてるよ~。もち、最後はどうやって先輩を納得させちゃったのかも、ね」
そう言って、美紀はにんまり笑うと、親指を自分の唇に近付け、「チュッ」としてみせた。
どうやらホントに全部知ってるっぽい。
思わず視線を葉月に向ける雄平。
当の葉月は、頬を少し染めながら雄平から視線を外している。
その際に力が抜けたのか、愛華がヘッドロックから抜け出していた。
「は、半分は雄平のせいなんだからね」
「え? なんでそこでオレのせい?」
雄平にしてみれば意味わからない話である。
「だ、だって、日曜日ずっと待ってたのに、全然連絡くれなくって、だから二人とトークしてたら、いろいろと根掘り葉掘り聞かれちゃって、ついついアタシもいろいろ話すことになっちゃって……。ゆ、雄平がさっさとアタシを誘い出してくれれば、そんな事にならなかった……ハズなんだもん!」
「ええ……」
言いがかりじゃねそれ、という言葉はなんとか呑み込んだ雄平であった。
「まあまあ、いいじゃん別に。減るもんじゃなし」
という美紀のセリフに、メンタル的にHPがガシガシ削られているんですが、という言葉もなんとか呑み込んだ。
そして息を整えた愛華も、再び会話に参加してきた。
「そそ。ガールズトークはそういうもんそういうもん。赤裸々にいってこそよ!」
「だよねー、まあいいじゃん。どうせすぐにバレる話なんだし」
すぐにバレるんだ。
ガールズトーク恐るべし。
「そそ。ウチらはちゃんと応援してるから。二人のこと」
「しばらくは周りのやっかみも多いかもだけど、そんなの一時的だからさ。大丈夫大丈夫。むしろサクッと公表しちゃったほうがよくね?」
なんか、話がよくわからなくなってきた。
二人は何の話をしているんだろう?
と、雄平は首を傾げながら口を開く。
「……えっと、公表って、何を?」
「何ってそりゃあ、彼氏彼女ってことをさ」
「……へ?」
「「……え?」」
思わず上がった雄平の変な声と、それに対して美紀と愛華も見事にハモって首を傾げた。
そして、三つの視線がゆっくりと葉月に集まる。
口を開いたのは、美紀だった。
「葉月……?」
「あ、えっと。美紀と愛華は、そのちょっと誤解があるみたいで……」
「誤解? ウチらが?」
「えっと、アタシまだ、雄平から返事貰ってないんだよね……」
「「え?」」
再び見事なハモリを見せる二人。
「あれ? アレって先週土曜日の話だよね? で、今は……。もう五日じゃん」
「だよね! だからアタシも、今まさにその話を雄平にしてたところなんだよ!」
今度は三人の視線が雄平に集まった。
「……信じらんない。そこまで焦らしプレイかますとは。見かけによらず神楽っては重度のドSだったんだ。ホント人は見かけに……」
「――おい!」
美紀のあまりと言えばあまりのセリフに、雄平が声を上げれば。
「――だよね!」
と大きく頷きながら同意を示す葉月。
「神楽ー。優柔不断も、度が過ぎれば一周回って鬼畜ドS認定だかんね? 気を付けたほうがいいよー」
と、雄平にさらなる追撃かける愛華。
「そうだよ雄平。もうここは男らしく、ハイかイエスか、二択できっぱり答えて」
ってか、その二択はぜってぇーおかしいだろうっ!
「さあ!」
葉月が雄平に一歩近付く。
何故か美紀と愛華までも雄平に一歩近寄ってくる。
三人の美少女に詰め寄られ、見上げられ、思考がまとまらないまま、それでもなんとか口を開こうとしたとき――
「あ、こんなところにいた。お話中ごめんなさい。神楽くん、今日日直だったよね? ちょっといいかな?」
葉月の後ろから声をかけてきたのは、藤代美海だった。
会話文がめちゃ多い回になってしまったかも?
読んでいただきありがとうございます!
引き続きどうぞよろしくです~