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4話 入学した。退学したい。

 敵国のど真ん中、帝国魔法学園にスパイとして入学することになった。最悪だ。


 憎むべきはうんこ上司だろうか。あるいは王国の国家体制だろうか。

 そのどちらもだな。俺を不幸にするものはどっちもうんこだ。

 帰ったら一年は休暇もらわないと本当に許さん。


 ……まあ、仕方ない。

 いくら嘆いたところで、この任務は誰かがやらなければならないのだ。


 このまま何もせずに過ごしているだけでは、俺の母国が帝国に攻め込まれてしまうだろう。

 帝国に対抗するには、その最新の魔法技術を調査する必要がある。

 言ってしまえば、王国の命運はこの任務にかかっているってことだ。


 俺は王国が嫌いではない。生まれ育った国だ、守りたい気持ちはある。


 それに王国には孤児院の連中が暮らしているんだ。

 彼らには幸せでいてほしい。

 逃げ出すわけにはいかない。


「……ついに来ちゃったか」


 というわけで、やってきました帝国魔法学園。


 帝都の端にそびえ立つ、レンガ造りのバカでかい建物こそが帝国魔法学園だ。

 百万人都市とも呼ばれる帝都の中、その広大な敷地面積は王宮に次ぐほどだといわれている。


「でっか」


 あまりのどでかさに身がすくむ。王国の魔法学園とは規模が段違いだ。


 それも当然だろう。

 王国とは違って、ここでは魔法教育だけでなく最新の魔法研究も行われている。

 研究所やらなにやらがこの敷地内に集まってるってことだ。


 あ、それと帝国へは飛行魔法で飛んできた。

 密入国ってやつだ。


 あとどのように入学に漕ぎ着けたかといえば、ゴールド氏が色々と手を回してくれた。

 共和国と貿易をして稼いでいた帝国の貴族に協力してもらって、学園に推薦してもらったんだとか。

 うんこ上司だが、仕事はできる人みたいだ。


 それから今の俺は王国宮廷魔法使いのボイル・スパイクではなく、帝国の辺境にある農村出身平民ボイル・スパイスだ。

 敵国でのカバーは適当に用意させてもらった。


 名前はあまり変えていない。

 俺ってぜんぜん他国に本名が広まってないらしいから、その辺は適当でいいだろう。

 あんまり凝ってレボルディゴレイアント・バルクラビアサラマンカとかにして分からなくなっても嫌だしさ。


 さて、それはともかく今日からこの学園の学生になる。

 魔法学園は全寮制で、しばらくはここで寝食を過ごさなければならない。

 正体バレにビクビク怯えながら。


「……帰りたい」


 だって怖いもの。


 正体を隠しながら学園に通い、その片手間に魔法技術を盗み出し、今年入学するという聖女とやらの調査をしなければならないのだ。


 俺は今正門の前にいるのだが、ここから確認できただけでも警備員は十名以上いる。

 いずれも腕の立ちそうなマッチョだ。

 ヒョロヒョロな俺なんて小指だけで殺せそうな武闘派しかいない。


 他にも、至る所に魔法陣が張り巡らされている。

 おそらく遠隔で監視できる魔法が仕込まれたものだろう。

 その監視用の魔法陣が、死角を潰すように隙間なく敷き詰められているのだ。


「要塞かなんかか?」


 不審者対策はばっちりって感じだ。終わってる。


「……はぁ、とにかくほどほどに頑張ろう」


 ため息交じりにつぶやくと、同じく正門から入る入学生らが目に入った。


 彼らはピカピカの白い制服に身を包み、自信と期待に満ちた表情で先を歩く。


 それも当然だろう。

 魔法使いの需要はマックス。就職しようにも引く手数多の夢ジョブだ。

 魔法学園卒ってだけでみんな目の色変えるレベルだもの。

 期待に満ち溢れているのも分かる。


 一方、俺には希望も何も無い。

 これから待ってるのは胃痛と帝国との戦いだけだ。


 ため息がしばらく止まらなかった。


「……うぅ、帰りたいぃ…………」

 

 一人だけ俺と同じオーラを放つ女子生徒がいたけど。




 ☆☆☆




「新入生の諸君、入学おめでとう。私は学園長のガクチ・ヨーだ。我々帝国魔法学園は諸君を歓迎する」


 学園に入ると、新入生は大講堂に通されて入学式が執り行われる運びとなった。

 今は白髭がたくましい学園長がお話し中だ。


 周りを見れば、新入生はおよそ三百名だろうか。結構な数が新入生席に座っている。


 新入生の年齢は大体十五から十八歳ほどだろう。

 魔法に目覚める時期には個人差があるため年齢にはバラツキが見られるが、基本的にはその辺の年齢が多い。

 俺はなぜか十二歳で目覚めたが、これも個人差の範疇なはず。他にそんなやつ見たことないけど。


「諸君らは魔法使いの卵だ。ほとんどの者はこれから本格的に学ぶことになるだろう」


 新入生の大半は魔法のマの字も分からない初心者だ。

 一部の貴族は事前に魔法の訓練をしているようだが、多くは何も分からない状態で入学する。


 つまり、新入生は魔法を上手く使える方が不自然だ。

 潜入するためには下手っぴであるように演技しなければならない。


「また、この学園では貴族平民の差は無いものとなっている。魔法使いならば魔法で自らを誇るものだ。生まれもった地位で誇るものではない。これは皇帝陛下の御意向であるため、文句は言わせない」


 とかいってるけど、席順は貴族が前、平民が後ろになってるっぽい。

 前の方の新入生だけ明らかに身なりや所作が違う。みんな高貴ってる。

 一方で俺の座る後方の平民席には高貴そうな人間なんて一人もいないし。


「……すー……すー……ぅん……ぁぅ……」


 ほら、俺の隣に座ってる女子生徒なんて涎垂らして寝てるもの。超平民っぽい。


 髪型は中途半端な長さの白い髪を雑に後ろでまとめただけの平民スタイルだし、制服のリボンも傾いてるし、化粧もしていないように見える。


 ただ、若干目は腐っているが顔は可愛らしくてパーツパーツのバランスが良いし、肌は白く透き通っているため、総合的には美少女と言わざるを得ないだろう。


 ズボラさを顔面力で補う、スーパー平民ちゃんである。


 ……というか、さっき「帰りたい」って言ってた子だな。

 魔法学園の入学式に寝るとは、なかなか肝が据わっているらしい。


 と、こんな感じでぼーっと学園長のお話を聞いていると。


「……以上、私の話は終わりだ。それでは次に、新入生代表に挨拶してもらおう。ピクシア・アルガード。壇上へ上がりなさい」


「はい」


 柔らかい声が大講堂に響く。

 その声の主を探すと、黄金色の髪をたなびかせる少女がそこにいた。


「聖女様……!」


「あれが本物の……!」


「今年入学するってほんとだったんだ……!」


 ピクシア・アルガード──通称、聖女。


 調査対象は意外にも早く見つかった。

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