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2話 ボコされる試算

「えー、誇り高き宮廷魔法使いの諸君。このままでは王国、ボコボコに潰されます」


 セリオン王国、王宮。

 その端の端に位置する宮廷魔法使い事務所にて、宮廷魔法使い筆頭殿の名の下、集まれるだけのネームドが緊急で呼び出された。


 集まったネームドは五名だ。


 一人は呼び出した本人である、宮廷魔法使い筆頭の〈金髭〉ことゴールド氏。

 金髪碧眼金髭の中年だ。

 いつも眠そうな目をしている。


 それから〈モヒカン〉のモヒィ氏、〈革ジャン〉のカワジャ氏、〈顔面龍〉のガンリュウ氏に加えて、〈黒子〉こと俺がここにいる。

 俺以外、全員いい年した中年だ。

 

 そんでもって呼び出された直後、ゴールド氏による突然の王国敗北宣言である。


「……と、言いますと?」


 モヒィ氏が恐る恐るといった様子で尋ねた。

 彼は見た目のパンクさからは想像できないほど柔和な性格をしているため、あまり人に対して強く出られないのだ。


「ああ、実は帝国の魔法技術が意味分からんくらい進化していてな。王国が攻められれば千パーセントボコされる。実際、つい先日に共和国が負けたらしい」


 ゴールド氏は深刻そうに項垂れた。


 王国の東に位置するマケール共和国は、王国と共に成長を遂げてきた盟友国だ。

 貿易を交わしたり技術者を交換したりと、我が国とは親交の深い国家である。


 しかし共和国を挟んでさらに東には、大国であるウルトラ帝国が位置していた。

 帝国は比較的近年に興された新興国であり、周辺の小さな国々を併合して領土を拡大していった歴史がある。


 その勝利を重ねた自信からか、帝国は自らを覇権国家と名乗りだした。

 噂によれば世界統一を目論んでるとかなんとか聞く。


 ゆえに、王国は共和国と連携して帝国を警戒していた。

 コイツ絶対攻めてくるだろ、って感じで。


 そして案の定、帝国は新たな領土を求め、一ヶ月前に共和国へと宣戦布告をしていた。


「共和国が負けたって……本当なのか? それどこ情報だ」


 カワジャ氏が不安げに目を揺らした。

 彼も革ジャンを着ているのに打たれ弱い一面がある。


「はっ! 戦争が始まってからまだ一ヶ月しか経ってねえぞ? あっ、あり得ねえだろ」


 ガンリュウ氏も吠える。

 彼もイカつい見た目で気が強そうに見えるが、その声は震えていた。


 お二方が不安に思うのも仕方ないだろう。

 共和国軍には王国も支援をしていたわけだからな。

 もしも本当に共和国が負けていたとすれば、それは実質王国が負けたようなものだ。


「帝国軍に潜ませていた間諜から報告があった。さて、詳しくはこれを見たまえ」


 ゴールド氏は報告書らしきものを我々に手渡してきた。


 どれどれ……帝国軍に関する報告書、っと。


 長ったらしいそれを読み進めていくと、そこには目を疑う内容が記されていた。


「共和国軍三万に対して、帝国軍は一万……? そ、それで帝国軍の死傷者はおよそ百名って……」


 モヒィ氏が慄く。


 そう、そこには帝国軍と共和国軍の戦争の顛末も記されていた。


 いわく、帝国軍は三倍の数的不利を覆し、ほぼ無傷で勝利した。


 普通、それほど兵の数に開きがあればまず確実に負ける。

 戦争なんて数がモノを言うのだ。

 三倍も差があるのに帝国軍が勝てるはずないだろ。常識的に考えて。


 それがほぼ無傷で勝利? 意味不明だ。


「……なるほど」


 俺はこれを冗談だと思い込むことにし、続きを読み進めていく。

 そこには帝国軍の戦法も書かれていた。


「ひ、飛行魔法を三十分ぶっ続け? その上で攻撃魔法を連打ってどういうことだ? 俺、飛行魔法なんて十分が限界なんだが……」


「こんな化け物が、三百人はいた……? あっ、あり得るかっ! 俺たちネームドでさえこんな真似できるヤツ……一人しかいねえぞッ!」


 カワジャ氏とガンリュウ氏も動揺している。

 チラッとこちらに視線を感じた気がしたが、まあいい。


 それよりこの内容だ。


 報告書によると、帝国軍は開戦直後に三百名の魔法使いを飛行魔法で先行させ、空から大量に魔法を投下して共和国兵を蹂躙したという。


 これは現在の常識では考えられないことだ。


 平均的な魔法使いならば、飛行魔法なんて五分もてば優秀だ。

 三十分も飛行魔法を使いながら攻撃魔法を連続投下なんて真似、できる者なんてほとんどいない。


 そんなのが三百人?


「……ほう」


 これは嘘だな。そういうことにしておこう。


「そ、それに……この聖女ってなんです?」


「あ、ああ。この、帝国軍の負傷者五千名を一瞬にして癒す回復魔法を使った女って……なんだ?」


「そのままだ。帝国のとある公爵令嬢で、聖女だなんだと国民から大人気らしい。なんとその歳は15歳。もうすぐ帝国魔法学園に入学するっていう、魔法使いの卵なんだとさ」


「そ、そんな馬鹿な!」


 モヒィ氏が絶叫する。


 五千名を同時に治す回復魔法なんて、どれほどの魔力量が必要になるか分からない。

 それを魔法学園にも通っていないお子様がやっただなんて信じられるか?


 まず人間には無理だな。絶対無理。


「……そうか」


 ドッキリってやつだろう。間違いない。


「驚くのも無理はない。しかしこれは事実だ。共和国の連中が次々王国に亡命してきたからな」


「……」


「敗戦は確実だそうだ。じきに帝国は共和国を併合することになるだろう」


「……」


 全員黙った。

 みんな信じたくない気持ちでいっぱいだったから。


 共和国が負け、帝国に併合されたとなれば、王国は帝国の隣国となる。

 帝国の考えは分からないが、次は王国を狙ってきてもおかしくはない。


 それに共和国を奪われたとなれば、王国も黙ってはいられない。

 じきに帝国と王国の間で戦争が起きるだろう。

 そうなれば王国は──。


「……ボコされる、か」


 モヒィ氏も、いや、この場の全員が同じ考えのようだ。


 重い空気がこの場を支配する。


 そんな中、ゴールド氏はごほんと咳払いした。


「そこで、だ。俺は、帝国には魔力を増幅させるなんらかの技術、教育法、あるいは道具があると考えている。帝国人も王国人も同じ人間だ。魔法の才能に違いがあるとは思えない。そう国王陛下に提言した」


「……まあ、そうとしか考えられませんね」


「……同意だ」


「……それしかねェわな」


「…………あ、俺もそう思います」


 それが一番矛盾が無いだろう。

 帝国だけ謎のパワーが働いて強い魔法使いが生まれやすい、なんてことはないはず。


 うんうんと頷いていると、ゴールド氏が深くため息をついた。


「はぁ……するとだな。国王陛下から直々の、超極秘任務を命令された」


 超極秘任務。

 なんだろう、嫌な予感がする。


「陛下いわく──帝国魔法学園に潜入し魔法技術を盗み、ついでに聖女を調査せよ」

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