フラれ未遂?
「――ごめんなさい!」
ぬあっ……まだまともな告白もしてないのにフラれたのか?
いやいや、待て待て。落ち着け。
横に立っている習木も首を左右に振っているし、多分フラれの言葉じゃないはず。
「その、青堀さんのことはよく知らなくて。確か昨日、体育館に来てましたよね?」
本人に会えてないのにいつ見られていたんだ……。それとも俺が気付いてないだけで、すでに女子の間で不審者情報が出回っている?
「き、来てました。すみません……」
「なぁに、らしくない返事してるんですか? いつもの先輩はどこに消えたんです?」
「少し黙ってくれ、マジで」
「あ、そうですか。そういう態度に出るんですか……へー」
多少キツい態度になってしまったが、横であれこれ言われると蘇我中さんに向けてる集中力が一気に消え失せてしまう。
チュートリアルがどうとかほざいていたが、ここは俺だけの力で告らないと意味がない。
「えっと、ウチのことを探していたんですよね? 理由を聞かせてもらってもいいですか?」
助かるのは蘇我中さんの方が積極的姿勢ということだ。
しかしこれは、
「――理由……理由は、えー……っと」
告白に来たはずなのに、全く出て来ない。『好き』という言葉を言い放つだけの簡単な動きが何故に出来ないのか。
「あっ、無理しなくてもいいですよ。でも、その子……習木に連れて来られたわけですし、伝えたいことがあるのかなと」
やはり見知った仲か。習木は部活のことは否定していたが、実は期待のエースとか、助っ人枠で体育館にいたのでは。
「せんぱい、この男のことはどう思えます? わたしは見つけたかなって思ったんですけど、せんぱいはどうかなぁって」
「え、うーん……」
一体何を言うかと思えば、訳の分からんことを言って困らせてるじゃないか。
「お名前って、何でしたっけ?」
「あ、青堀ですよ。2年C組の! 部活は入ってないんですが……」
「青堀さんですね。部活はやらないんですか? それか、得意な運動があれば」
運動……特に無いし、そもそも帰宅部。なんてことを答えたら終了してしまいそうだ。そうかといって、蘇我中さんにああだこうだ言えそうに無いが。
「せんぱい、そろそろ時間じゃないですか?」
「――あっ、本当だね! 時間気にしてなかった。青堀さん、また機会があれば話をさせてください。すみません、戻りますね!」
何の時間だ? 何も言えずに終わってしまったが、フラれずに済んだな。習木に救われたというべきなのか……。
1度や2度だけ見て好きという感情を芽生えさせて告るのは、もしかしなくても効率が悪いのか?
本来なら第2段階の仲良し関係を築く。をしてからが確率が上がるわけだが……。
「……良かったじゃないですか!」
「何が?」
「あのまま『好きです』なんて言ってたら、間違いなくフラれてましたよ?」
「そんなの分からんだろ! 何でそんなことを決めつけるんだ?」
応援すると言ってたくせに、こいつはアレか?
悪魔のささやき的な存在を目指してんのか。告白を指導されてもいいことなんて無かったな。
「だって、蘇我中せんぱいは、帰宅部嫌いですもん。多少でも何か体を動かす男子じゃないと会話が成り立たないって言ってましたよ?」
おおぅ、マジか。間一髪じゃないか。
「そ、そうだったのか。それは何というか、助かったな……」
「な~んか言うことありません? ありますよね?」
こいつに言うことなんてあったか?
出て来る言葉というと――
「習木! 今回は助かった!」
「……それだけですか? フラれるのを未然に防いであげたのに、たったそれだけでいいんですかぁ?」
「フラれたかどうかなんて分からんだろ。蘇我中さんは何かの時間になったからいなくなったわけであって、俺が原因で立ち去ったわけじゃないぞ」
「はぁ……。まぁいいです。ところで青堀先輩」
呆れるような態度を堂々と出して、こいつは何て態度だ。
「何だよ?」
「もう昼休み終わってますよ。教室に行かなくていいんですか?」
――なぬっ? 本鈴チャイムなんて聞こえなかったぞ。
まさか蘇我中さんが慌てていた時間って……。
いや、それを言うなら習木だって同じなのでは。
「お前も同じだろ! 急がないと怒られちまう」
「わたしは平気です。だって早退してますもん。帰るだけなので、教室に行く必要は無くてですね……」
「嘘だろ!? 何だよ早退って! あぁ、くそっ!!」
もはやこいつに構ってる余裕は無い。急いで中庭から出なければ。
「あっ、先輩。今度から女子に告る時は、ある程度仲良くなってからの方がおすすめですよー! それだけは間違いないです。わたしのようにするべきで――あっ」
何か言っていたがそれどころじゃない。
息を切らせてしまうがこの際気にしちゃ駄目だ。急いで階段を下りまくった。
そして俺は、見事に課題を追加されてしまうのだった――