告白チュートリアル
後ろを振り向くにも目に見えない引力が背中に……。
そうかと思ってたら、急に体が軽くなった。もしや解放された?
こんな真似をした1年女子にはきつく注意しておくか。
「――こらっ!? むっ? な、何だ、この何とも言えないスマイルは!」
この笑顔……某チェーンのメニューに存在したといわれるスマイル0円のような神々しさがあるな。妙に心が落ち着くし安心感も。
あれは都市伝説じゃなかったのか?
「どうしました?」
「くっ、1年女子……その笑顔に特別なスキルでも備わってるんじゃないよな?」
「あるわけないじゃないですかぁ~。愉快なことを言うんですね、青堀先輩って」
何だ、その下から覗き込むような仕草は……。
俺よりやや身長が低くて高低差があるとはいえ、随分と柔軟な真似が出来るじゃないか。
しかし笑顔に騙されて怒るのを忘れてはいけないな。
「えーと、習木! どうしてこんな真似をした?」
「何のことですか?」
「俺の背中を強引に引っ張ったことだ。まだ大して知り合いでも無いのに、ふざけるのはどうなん――」
「えっ? 全然力なんて入れて無いですよ」
「……え?」
単純に引っ張られたってレベルじゃないぞ、あれは。
まさか見えない壁が後ろにも? そんなわけないか。見えない壁は前方だけだな。
「そんなことより、いいんですか?」
「ん? 何が?」
1年女子は俺ではなく、体を左右に揺らして向こう側を気にしている。
向こうに何かあったっけ?
「向こうにいる女子に何かしようとしてませんでした?」
向こうにいる……そうだ、告白だ。蘇我中さんがせっかくぼっち状態になってるのに、この機会を逃したら次はいつになるか分からないじゃないか。
俺を後ろに引っ張っていた原因も分かったし、行くだけだ。
キーンコーン……。
「……くっ、予鈴のチャイムが」
「まだ大丈夫ですよ。向こうの女子も全然焦ってませんし。チャンスはモノにすべきですよ!」
「お、そうか? じゃあ頑張るか」
やはりこの1年女子は、俺を応援するために来てくれたようだな。
「良かったらわたしがついててあげますよ! 告白するつもりなんですよね?」
「――な、何のことやら」
「青堀先輩の顔が昨日の顔と違って、間が抜けてませんもん。気合い入れて何か言おうとしてる顔です」
昨日は確かに間抜けだった。だが今は違う。それをこいつに見せてやる。
「こ、告白する。あそこにいる子が俺の好きな人だからな……」
「それなら、なおさらわたしがおそばでチュートリアルしますって! 蘇我中先輩なら顔見知りですし! その方が話しやすくていいじゃないですか」
そういや習木はバレーボール部じゃなかったが、体育館に出入りしてる女子か。そうなると2年や3年の女子に覚えられても不思議じゃないな。
蘇我中さんとは少しだけ話したことがあるだけで、向こうは俺のことをよく知らない。ここは後輩に任せてみるか。
「じゃあ頼む」
「頼まれました! それじゃ、進んでください~」
俺の背中に手をつけたと思ったら、習木にぐいぐいと後ろから押されている。もはや告白に向かうのは確定のようだ。
そしてストレッチ中の蘇我中さん前に到着。
「蘇我中せんぱーい!」
――って思ってたら、習木がすぐに声をかけてた。
マジかよ。心の準備も整って無いのに、そんな最速な声かけは聞いて無いぞ。
「――あれ? 志野? 今日は来れるの?」
「そうじゃなくてですね~、ここにいる男の子がせんぱいにお話があるみたいなので連れて来ました! いいですか?」
「えっ……」
くっ、ここまでアシストしてくれんでもいいのに。しかも何気に後輩の習木に男の子呼ばわりされるとは。
しかも顔見知りどころか、かなり知った仲っぽいじゃないか。
「こんにちは。あの、ウチにお話って……?」
「えー……あー、えーと」
やばい、何も言葉が出て来ない。心の準備を通り越して、いきなり目の前に連れて来られたのはまずかった。
今すぐ頭を下げて引き返したい――などと思っていたら、俺の横に習木の姿が。
しかも密着した状態で、耳元に何か呪文のようなものを囁いて来る。
誤解されたくないんだが……。
「――自己紹介とかどうでもいいので、「好きです」って言えばいいんじゃないですか?」
「……そんなこと言えるはずないだろ」
「え、でも、告白しに来たんですよね? しちゃいましょうよ!」
くそぅ……告白したいのは確かなのに、何でこいつは邪魔して来るんだ。
どうすれば――