気になった後輩
ここから本編開始です。
私立の高台丘高校はその名の通り高台に位置し、標高100m程度の丘陵地にある。
どこから向かっても必ず坂を上らないと行けない位置にたたずむ、薄い水色の校舎だ。
とにかく高い位置にあるせいで、無駄に体力がついてしまうおまけ付き。俺の自宅からは直線上に上がって行けばいいだけだが、勾配が半端ない。
それ以外の商店街ルートに関しても、いくつかの交差点を渡った上での坂道上がりなので、結局どこから向かっても体力がつく。
汗をかく生徒が多いことから、教室は冷暖房完備。私立をいいことに、6階建ての校舎がそびえ立つ。実際に歩けるのは限られるが、学年で階数が決まってるので分かりやすさはある。
学年が上がると階も上がって行く。それはいいとして、エレベーターを付けてくれなかったのは残念なところ。
「おほー! あの子も綺麗だな!」
しかしこの学校のいい所は、美少女率が高いところだ。特に同じ学年と上の学年には、とびきりの綺麗系女子が存在する。
「声デケーよ! 宗次。声を出すほど興奮すんなや!」
「そう言う館山はどうなんだ? 思わず告りたくなる女子くらいいるだろ?」
「そりゃあいるけど。宗次みたく発情するほどじゃない。それにお前、興奮しても声もかけられないチキン野郎じゃねえかよ!」
痛いところを突く奴だ。同じクラスの友達でもある館山は、俺の惚れやすい性格にいち早く気付き、すぐに仲良くなったダチの一人。
「奥手と言え! 告るにしても俺は段階を踏むんだよ。いくら好きになったからって、いきなり告ったらすぐに完結するだろーが!」
段階を踏む。気になる女子に告白をする為には、ある程度の情報を得ておく必要がある。そこは抜かりない。
その為のタレコミ……密かに情報を横流ししてくれる女子は確保済み。
それがこの、垂水友美だ。
「ヘタレの青堀。館山君の言うとおりだぞ? 盛ってもモテる保証なんてどこに無いんだからな?」
「持って来たか? 友美」
「ショートメッセージに送っといたから後で見れば?」
「サンクス!」
友達とは呼べないが、唯一意識しないで話すことが出来る女子と言っていい。腐れ縁とも言うべきか、中学が同じだったから俺のことを知ってるだけの関係だ。
しかし垂水のおかげで大体の女子の基本情報が手に入る。所謂第一段階の情報だけだが、名前とクラスとバイトの有無を把握可能だ。
男子だけで独自に調べるのは、よほどのイケメンでもない限り変態認定されるだけ。こういう時、恋愛に発展しない女子の味方がいるのはかなりありがたい。
「宗次。最近のお気に入りは?」
「バレーボール部のS中さんだ。同じ2年だし、声もかけやすいだろ?」
「何故伏字……すぐ分かるけどな。んで、告白する気か?」
垂水の情報もすでに把握して、後は俺の勇気だけ。放課後を待って、勢いで向かうだけだ。
「当然だ。体育会系は行動が全て! 体育館で告る!」
「体育館で……はは、草」
どこで告白しても同じことなはずなのに、まさか体育館とは思うまい。俺のイメージでいけば、運動系女子には思いきった行動が必要だ。
他の部員がいようとも、勢いで告れば問題など起きない。
そして放課後――
「……マジで行くのか?」
「まぁな」
「自分より背が高い女子に挑むのはハードルが高そうだけどなぁ……」
「大して変わらないだろ。遠目でしか見たこと無いけど」
垂水からのタレコミには、身長と体重は含まれていない。見た目に関しては当然だが、一度以上は自分で見たことがある。
一目惚れなのだから当然と言えば当然だが。
「んじゃ、途中までついてってやるよ。お前が心配だしな」
「おぉ! さすがダチ! ダッシュで階段下りるぞ!」
教室を同時に出て、勢いそのままに階段を下りる。後は体育館までの長い廊下を突っ切るだけ……のはずだったが。
急に腹が痛くなった館山はすぐに離脱。強い味方を失い途端に急ブレーキをかけたところで、進行方向に見知らぬ女子がしゃがみ込んでいるのが見えた。
小物やらノートが散らばっていて、そこから「どこ? どこにいるの? 何でかなー」などという声が聞こえて来る。
まさか小動物でも探しているのか? 急いでいるのに真ん中にしゃがみ込んでるのは想定外。一応声をかけておこう。
「えーと、どうやら困ってるらしいな」
「困ってないように見えてるんですか? 見たところお急ぎのようですけど、何か言うこと無いんですか?」
絶対わざとだろ。そうとしか言えない言い方じゃないか。
「て、手伝えばいいんだよな?」
「気まぐれな親切ですか? それとも同情で?」
「どう思われても構わないけど、さすがに気になるだろ。気にならなきゃ、無視して行くだろ」
「――つまり、わたしがしゃがみ込んでいることが気になるから声をかけたと。そういうことですよね?」
何なんだこいつ……。
まともに顔も上げないし、性格に難がありそうだし面倒なタイプか。
それに、この女子は1年だな。
「それでいいよ。気になるから声をかけた。これでいいか? 1年女子」
「わたし、習木志野です。すぐそこのF組です」
クラスを言われてもな。しかし名前を名乗られてしまったし俺も名乗るか。
「2年の青堀だ。そこに散らばってるのを拾って探すぞ? いいんだな?」
「あぁ、先輩でしたか。下の名前も教えてください」
「宗次」
「分かりました! じゃあ拾わなくていいです。もう見つかったので」
そう言うと1年女子は立ち上がり、俺に顔を見せることなくそそくさと自分の教室に戻って行った。
何だったんだ、あれは……。