プロローグ2
「いやー良かった。やっぱいいわー! 超タイプ」
後輩のことは気にしないとして、俺と館山はファミレスに潜入を果たした。お互い金欠なので、ドリンクバーオンリーだが。
そして日課を終えた俺たちは、店を無事に出て大人しく帰ることにした。
「宗次のお気に入り女子って、どっちかというと綺麗系だよな」
「まーな。目に飛び込んできやすいだろ? 綺麗系は」
目の前に青い海があったとして、砂浜を歩く素敵すぎる光景(例えば素敵なお姉さんが見える)があったら、どうしても目が行くのは本能だ。
そしてそんな綺麗な女子には、頼まれなくても応援しちゃうという心が働く。これも仕方の無いことである。
「でも確かあの女子って――」
「その先は禁句だ! 俺も愚かじゃねえぜ? 段階を追うと言ったはずだ! そんで第一段階の彼氏有り無し情報はクリア済みだ」
俺は段階を踏む男。とある筋――恋に発展しない女子からのタレコミは抜かりない。こういう情報は自称情報屋の男よりも、女子の方が強いし信用出来る。
それを踏まえての行動だ。たとえダチが独自に入手した情報であろうと、ウワサ的な話は信じないことにしている。
「じゃなくて……まぁいいか。告ればその時に判明するし、おれが言うことじゃねえよな」
「それが正解だ! さすが俺のメインダチ!」
「変な奴め。そういや、おれが合流する前に話してた女子は誰なんだ?」
ぬぅ……見られてないと思っていたのに、ちゃっかり目撃していたのか。後輩に気を取られて館山の気配を感じなかったのは痛い。
しかし後輩ということに違いないし、隠すことでも無いから白状しとこう。
「年下の女子だ。1年だな」
「後輩かー。遠目からだったけど、結構可愛かったんじゃないか?」
なるほど。館山的には有りな部類か。
「可愛くねーけど可愛かったのは事実だ」
「どっちだよ! 可愛い後輩がお前に話しかけてたのか? それとも話しかけたのか?」
「声をかけただけで話しかけてない。何かを落としたっぽくて困ってたし、廊下を塞いでたから助けようとしただけだ」
「奥手で面倒な性格のお前が? で、脈はあったのか?」
変なことを言う奴だな。声をかけたからって何で脈ありとか聞くんだ。その理屈でいったら、困ってる人全員に好意を持つ危ない奴みたいじゃないか。
「そんなんじゃねーし。よく分からんけど、自己解決したとかでいなくなった」
「後輩の名前は?」
「……確か習木志野だったな」
名前を言った途端、館山はスマホを取り出し何かを検索し始めた。まさかこいつ、可愛い女子のデータベースでも持ってるんじゃないよな。
「宗次」
「何だよ? 何か出て来たのか?」
まさか本当に検索をかけてたのか……? そうだとしたら友達解除も検討するか。
「いや、おれあっちだからここでさらばだ。じゃあまたな!」
「誤解させる真似すんなよ! ったく、じゃあな」
何かを検索してたっぽかったが、後輩女子のことではなかったかもしれない。とにかく帰る方向が途中で変わるので、奴とは別れた。
俺の家は単純ルート。特に学校からの場合は坂を下りればいいだけの道だから楽だ。今日に限ってはファミレス帰りなので、交差点をいくつか渡る必要があったが。
もうすぐたどり着く手前の交差点。
そこで何やら手を振ってる奴がいることに気付いた。
信号が変わったらそいつがいる場所にたどり着くとはいえ、まるきり見覚えのない女子から手を振られても決して嬉しくない。
――のはずが、
「青堀せんぱーい! わたしですよー! 気付いてますかー?」
俺のことを先輩呼び……つまり相手は後輩。体育会系並に声がでかいし響くので、正直言って自己アピールしたくない。
しかし悲しいことに他に通行人もいないし、注目を浴びる可能性が皆無。仕方ないが、後輩の声に応えるしかなさそうだ。
横断歩道を渡り後輩の待つ歩道にたどり着くと、奴はすぐに駆け寄って来た。
「ずっと気付いてましたよね?」
「手を振ってても、対象が俺とは限らないからな。気付いてもどうにも出来なかった」
「青堀先輩って、ご自宅がこっちなんですか?」
「そうなんじゃないの? 知らんけど」
まさかこいつ――
深く考えるまでも無いが、友達がいないタイプか?
「わたしはこっちじゃないんですよ。残念なことです」
「あぁ、そう」
「青堀先輩に伝えたいことがあったんですけど、偶然にも遭遇したので声をかけたわけなんですよー」
偶然の遭遇か。怪しいがどうでもいいな。
「で、何?」
「好きな人っているんですか? もしいないなら――」
「答える義理は無いけど、好きな人はいる。後輩のあんたは?」
「習木です。習木って呼んでいいですから! もちろんいます! なので、これからよろしくお願いします!」
よく分からないお願いをされて思わず寒気が。
よろしくするつもりも無いので、習木が通り過ぎるのを待って、家に急いだ。
家に入るまでちょくちょく後ろを振り向いていたのは内緒だ。