プロローグ1
放課後。
ホームルームを終え、俺は好きな女子がバイトしている店に行く為、ダチの館山を誘って、教室を出た。
まだ告白する段階にないので、まずは売り上げ協力をしつつ顔を覚えてもらう作戦だ。
「んじゃ、行くかー! 館山、今日もよろ」
「……ったく、宗次。お前も懲りねえな。まぁ、奢ってくれるから文句は言わねえけどな」
「同じ学校に美少女がいたら好きになるだろーが! とにかく行くぞ」
「悪ぃ、トイレ。校門前で待っててくれ」
トイレに向かった館山を見送り、先に昇降口に向かおうと階段を下りると、何やらしゃがみ込む女子の姿があった。
しかもかなり焦っていて、廊下の床には色んな小物が散らばっている。
「ええぇ? 何で何で……どこにあるのー!」
確かこの階は1年の廊下だな。
――ということは、困ってるのは後輩か。
こういう時、声をかけるべきか迷う。何故なら俺には好きな女子が頑張っているバイト先の店に行くという使命があるからだ。しかしこの後輩は運がいい。
館山を置いて行くのも悪いので、後輩女子に声をかけることにした。
「あー……っと、何か困ってるのか?」
いくら後輩とはいえ、見知らぬ女子に声をかけるのは簡単なことじゃない。好きになった女子に対してもそうだが、話しかける為には段階を踏む。
それが俺のポリシー設定だ。
そんな親切な俺の問いかけに対し、
「どう見ても困ってますけど、困ってないように見えるんですか? もちろん、助ける気があって声をかけて来たんですよね?」
何だこいつ。
透き通るような高音ボイスはいいとして――
可愛くねえ……いや、正確には可愛い。俺のタイプと違うが、アイドル並に顔が小さくて、かけているメガネの方が大きいと錯覚するメガネ女子だ。
腰まで届きそうな長い黒髪をしていて、手入れが大変そうなどと勝手に心配してしまう。
それはいいとして、たっぷり日差しを浴びて焼けた健康的な褐色の肌、細い首筋と細い足首。こんな魅力的な後輩がいたのかってくらいの雰囲気を醸し出している。
しかし後輩に変わりないし、好きになる対象じゃない。
「もちろんだ。俺は困ってる子がいると気になってしまう性格なのでね。気にならない奴の方がおかしいって話だ」
主に好きな女子が困ってたら、何を差し置いても気になって仕方が無い。今回は想定外の出来事だが、廊下を塞いでて通れないし声をかけないと駄目だろ。
「気になる……わたしが気になるんですか?」
「明らか困ってるし気になるだろ。……で、何を探してるんだ? 大事な物でも落としたのか?」
俺の問いかけに対し、後輩女子は何故か散らばった小物をかき集め、いそいそとバッグの中にしまい込んだ。
そして俺に背を向けたまますくっと立ち上がり、
「お、おいっ? いきなりどうした? 何か探してたんじゃないのかよ?」
「いいえ、もう見つけました」
「見つけたって……?」
もしかしてヤバい後輩に声をかけてしまったのか。しかし何かを探していたのは間違いなかったし、俺の判断は正しかったはず。
「ところで、先輩ですよね?」
「え? あぁ、まぁ……そっちは後輩、1年だよな?」
「はい。1年F組の習木志野です。先輩は?」
やはり1年か。しかも何でか知らないけどフルネームで教えてくれたぞ。
「俺は2年C組の青掘宗次だけど。別に覚えなくていいよ。学年が違うと滅多に会わないだろうし」
確かに可愛いが、最優先事項は現時点で好きな女子に告ることだ。それに学年で行き交う廊下も違うし、普段から会うことも少ないはず。
ぶっちゃけ好かれなくても問題無い。
「そうですか。じゃあ、そうします。またです、青堀先輩」
何を納得したのか不明だが、そろそろ館山が来るはずだ。早いところあの子がいる店に行かなければ。