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SaLt  作者: 蒼海 游
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第51話 方向転換

久しぶりに再開しました!前後読んでいただけると助かります!

 決断から何日か経った。決断をしてから、何度も一人悩んだ。考えた。

 今まで何がダメだったのか、そして、これからどうあるべきか。

 今までの生活は心地良すぎた。俺と仁が共存して、それぞれ望むタイミングで主導権を握って、それぞれの望む生活をしてきた。

 それは俺たちにとって極めて過ごしやすい生活だった。しかし同時に、油断をするとすぐに正体がバレ、危うくなる環境だったのも否めない。


 そんなこともあってか、俺から言い出したにもかかわらずそれから何事も進まなかった。未だに俺の中ではこのままでいいのか疑問が残っていた。きっと、どこかでこのままでいい理由を探していたのだ。

 でも、意地でも俺たちが進まなければ何も変わらない。

 とりあえず俺たちは今後について話し合うことにした。



『父さんの気配を消すということは、バレる前と同じような状況に戻すってことだよね』


 仁が確認するように言う。


『ああ……大体はな』


 やはり前と全く同じとは言えない。今となっては大体が知ってしまっており、知らないふりという形になるだろう。


『とはいっても、今までもだいぶ気にしてきたはずなんだが……』


 というのは、俺がこの身体で慎二として話したのは大体が由利がいないことを確認してからだった。

 たまに不意打ちに現れることはあるが、それでも上手く誤魔化してきたはずだった。

 知らないうちに何か漏れ出てるのだろうか。無意識な癖とか、色々が。

 何人ものの人間にバレるくらい。


『う~ん、どうだろうね』


 仁は嘲笑うようにそう言う。


『そんなに俺、バレる要素あったか?』


『大ありだと思うよ。だって、父さんは嘘をつけないタイプだから』


 そう言われると何と答えればいいかわからなくなる。自覚はないことはない。


『悪いことじゃないと思うよ。そこも含めて母さんは惚れたはずだから』


『うるせえな』


 こいつは昔から俺に対して舐めているというか、なんというか。


『僕はそんな父さんが大好きだよ』


 こんなことも軽く言ってしまう。俺がどう思っているかも知らずに。


『あ~、そうですか』


『照れてるね~』


 変に感づきはいいくせに、俺を困惑させる。


『でさ、これからは僕の人生ってことだよね』


 と思ったら話を戻してきた。こいつとの会話はすぐにコロコロ変わる。別にそれに対する問題はない。


『そうだ、元からもそうだったはずだがな』


 もともとそういうつもりだった。あの日、仁という存在を知ってから、ずっと、この身体の人生は仁のものであるべきだった。

 それがいつの間にか最近は俺中心になったりして、本来の仁を失わせていた。


『ってことは、これからどうするかは僕が決めていいんだよね』


『当たり前だ』


 当たり前のようなそれを、奪っていた本人が言うべきではない。


『じゃあまず、母さんに謝ろうかなあ』


『……それより先に他の人たちに説明した方がよくないか?』


『前言撤回するつもり?』


 突っ込まれたがスルーした。今はまだ由利に向き合う勇気がなかった。

 ずっとメールの返信もしていないし、会うのも避けてしまっている。

 分かっている。このままではよくないことも。早く謝るべきだということも。


『いい加減めそめそしすぎでしょ』


 仁の言うことも最もだ。


『だがなあ……』


『別に父さんが謝りたくないならただただ傍観してたらいいよ。僕はいち早く謝りたいだけだから。僕として、父さんが言ったことであっても』


 俺は何と言ったらいいのかわからなかった。

 仁は俺の意思にかかわらず立ち上がった。由利のところに向かうのだろう。


『みんなに伝えるのは後ででいいよ。事後報告でいいじゃない』


 進む足音、そして視界に俺は緊張してきていた。鼓動が激しくなってきているのは、どっちの鼓動だろう。

 三回ノックをして、どうぞという声を聞いてから部屋に入る。家族として、女性に対して最低限のマナーだ。


「母さん」


 部屋の床に座り込んでいた由利の視線に合わせ、仁が座る。

 由利の顔が見えると、とても憔悴しているのがわかった。髪も、何もかもいつもより乱れている。

 なぜ、ここまで俺はしてしまったのだろうか。


「前は、本当にごめんなさい」


 仁が謝ってくれた。本当は俺の方が謝らなければならないのに。


「……仁くん」


 由利は弱々しい笑みを浮かべた。その笑みに、たまらなく胸が苦しくなる。


「こちらこそ、ごめんね。緋夏ちゃんとの時間を奪ったりして」


 ああ、なぜこんな表情をさせてしまったのだろう。抱きしめてやりたい。

 自分を殴ってやりたい。


 何度、あの日のことを悔やんだことだろう。あんなこと言わなければ、こうやって皆が苦しむことはなかった。

 もっとほかに、あったはずだった。

 由利が、ゆっくりと抱きしめた。


「あなたは、あなたの幸せを大切にしなきゃいけないのに、私は、」


 由利の言う言葉一つ一つが胸に刺さる。こうやって苦しめているのは、すべて俺だから。


「ねえ、ほんとに……」


 由利は何か言いかけて、そして、


「……やっぱりなんでもないや」


 隠した。


 何を言いかけたのだろう。俺は気になって仕方なかった。だが、今はもちろん聞けるはずもなかった。


「これからも、緋夏ちゃんと仲良くね」


 抱擁を解いた由利は、優しく笑った。


「うん」


 その顔は、間違いなく母のものだった。




『僕に感謝しなよ、僕がしたことじゃないけどちゃんと謝ったんだから』


 部屋を出るとすぐ、仁が誇らしげに言った。


『うん、ありがとうな……』


 俺の中にはまだ、先ほどの由利の笑みが残っていた。


『でも、僕もあながち父さんのしたことは間違いじゃないかもしれないって思ってるんだ』


 不意打ちに言われた言葉に、俺は驚く。


『……どうしたんだ、突然』


 喧嘩をするほどに反発していた仁が、そんなことを言うなんて思いもしなかった。


『だって、こうでもしなきゃみんな進めなかったから』


 みんな、とは誰のことだろう。


『さあ、次は何しようか』


 その疑問に答えないまま、仁は自室に戻った。


『さて、次は今後の行動指針を決めようか』


 自室に戻った仁はスマートフォンを取り出して、メモアプリを開いた。



【今後どういうことが重要なのか】


 そう打ち込まれたあと、俺は点滅するカーソルをしばらく見つめた。


『客観的に見ていて、仁はどこが甘いと思った?』


 俺は尋ね返す。仁はもしかすると何か知っているかもしれない。


『そうだな~、まずは会話でバレるリスクを減らしたいよね。結構気を付けてるつもりでも油断してるからさ』


 仁の手が動いて、先ほどのメモに文字が付け加えられる。


【会話に気を付ける】


『どう気を付けるかというと』


【父さんの会話は極力メールに抑えて、普段は僕が会話する】


『これがいいと思うんだよね』


『なるほど』


 確かにそれはいい考えだ。がしかし、颯太などが油断してこちらに今まで通り話しかけてこないだろうか。あいつは調子乗りなところがある。


『それを伝えるために今まとめてるんだよ』


 仁は心を読んだかのようにすかさずそう返す。


『なるほど』


 確かに、方針が決まっていなければ伝えると言っても何も話せない。冷静な判断をしてくれる仁には助かっている。


『いや、父さんが冷静じゃないだけだよ』


 そんなツッコミに俺は返す言葉がない。さっきの余韻が残っているなんて言えない。


『そして次は、そうだな……』


 しばらく黙り込んだ仁は、こう書き加えた。


【行動の主導権は基本僕が持つ】


【基本母さんの前で父さんの話をしないようにする】


『とかどうかな』


『まあ、悪くないと思うぞ』


 由利の前で俺の話をしないというのは寂しい気もするが、仕方ない。


『とまあ、色々考えたって結局母さん次第なんだろうけどさ』


 そう言ってしまえばこの会話なんてどうでもよくなってしまう気がするのだが。仁はメモアプリを閉じ、メッセージアプリを開いて置く。さらにその隣に俺のスマホを出してきて、同じくメッセージアプリを開いた。


『次は誰に連絡する?』


 選択肢としては由利以外、由利といったところだろう。仁としては由利を優先してほしいだろうが……。


『……とりあえず、由利以外でいいか?』


 俺はそこでも何となく由利を後回しにしてしまった。

 もうぎこちなさはないはずなのに。


『わかった、でもちゃんと今日中に連絡するんだよ』


 しかし今度は仁は反対することなく素直に俺のスマホを片付けた。


『じゃあ、とりあえず連絡するか』


 そう言ったところでご飯だよ~という由利の声がした。俺たちはそれらをすぐに中断して食卓に向かった。

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