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SaLt  作者: 蒼海 游
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第49話 変わりゆく日々

 慎太が大きくなるにつれ、亜里沙たちは家を離れた。そもそも亜里沙は定位置にいるタイプではない。どこなとをうろうろしているのだろう。


 そして春になると、咲良たちも家を離れた。保育園を見つけたので、本格的に生活に戻るらしい。たまに俺たちの家で面倒を見ないこともないが、子ども同士のコミュニケーションとしても保育園は必要不可欠だそうだ。

 あんなに騒がしかった家は、ついに二人になった。

 とは言っても、仁は大学受験が迫ってきていて、それどころではない。がしかし、二人の距離は妙なほどに近づいてきていた。


「仁ちゃん、おやつどうぞ」


 家にいる間、由利は俺たちによく構ってくるようになった。呼び方もまたあの時と同じようになる時もあったし、その距離はまるで、新婚夫婦のようだった……。


「仁ちゃんはどんな進路にするの?」


「仁ちゃんは何食べたい?」


「仁ちゃん……」


 嬉しいが、何か違う気もしたのは気のせいだろうか。


「ねぇ、母さん」


 とある日、仁は思い立ったように由利に話しかける。


「もし緋夏がこっちに来たら、ここに一緒に住んでいいかな」


 緋夏との同棲話についてだった。

 かなり唐突だな、と思っていたが、仁のスマホには直美から同棲の提案が送られてきていた。そういうわけかと俺は納得する。


「あら、いいじゃない!」


 いつも通り目を輝かせた由利が、本当は何を考えていたかはその時の俺たちは知る由もなかった。





 それから一年、勉強やバイトを重ね、大学受験の時期となった。理系に進学したいとしか決まらなかった仁は、どの学部に入るべきか迷っているようだ。


『……ねぇ、父さん。父さんが塩を舐めるのは、島で母さんと出会った時のことを思い出すため、だったよね?』


 仁は突然、そんなことを言い出した。


『あぁ、そうだな』


 今更だな、とは思わなくはなかった。最近舐めることがなかったからだ。


『一回、舐めてみていいかな』


『……いいんじゃないか?』


 俺は訳もわからず承諾する。仁が行動に承諾を取るなんて珍しいことだと思った。


『……しょっぱいね』


『……そうだな』


 しかし仁の感想は至ってシンプルで、なんでもない味見にしかならなくて……。

 ただ俺だけが、あの日の記憶を脳内に巡らせただけだった。


『……まぁいいや』


 その日はそれで終わった。

 しかし、これだけで留まるわけがなかった。




「仁くん」


 とある日、それは由利についに見つかってしまう。


「あ、いや、これは……」


 思わず塩を隠す。隠したってばれているだろう。


「これ、は……」


 どう言うのだろう、俺がしたことではないので、仁に答えを託す。


「島が、懐かしくて」


 仁はそう言った。その中にどういう気持ちがあるのか、俺にはわからなかった。


「そっか……」


 由利はそう答えたまま、しばらく固まってしまった。


「どうしたの、母さん」


 何があったかわからず、慌てて呼びかけると、由利は弱い笑みを浮かべた。


「ごめんごめん、ご飯作るね」


 そう言って俺たちとすれ違いにキッチンに入っていった由利のことが気になって仕方なかった。



「いたっ」


 気になってそばにいると、案の定そんな声が聞こえた。


「大丈夫? 母さん」


 駆けつけて声をかけると、また弱い笑みを浮かべた。


「ありがとう、大丈夫よ」


 その笑みが大丈夫なわけないだろ、ほんとうに大丈夫なのか?

 俺はそう問いかけたかった。だけど、今は……。


「……母さん、今日は疲れてるんだよね、今日は僕が夕食作るから休んでてよ」


 そう言って背中をしばらく撫でた後、由利の手を取って立ち上がり、布団まで連れて行った。


「……ありがとう」


 弱々しく笑う由利に、布団をかけて、笑いかけた。


「任せてよ」


 目を閉じたのを確認し、俺たちはキッチンに向かった。




 それから、悪戦苦闘しながらも料理は無事出来上がった。起きてから食べようかと思ったが、出来上がっても起きないので先に食べてしまった。

 しばらく待って夜になっても起きなかったので、俺たちは起こしに行くことにした。


「ご飯だよ、母さん、食べれる?」


 そう何度も呼びかけると、由利は目を覚ます。


「うん、ごめんね。ありがと」


 立ち上がろうとする由利。熱は大丈夫だろうか。

 お互いのでこをあてて、熱を確認する。


「うん、熱もなさそうだ」


 しかし、その顔は赤くなっていく。とそこで俺は気づく。俺は、なんてことを……。

 頬の火照りを感じる。


「ありがと」


 そう言った由利は、俺の頬にキスをして、軽い足取りで食卓へ向かって行った。


『ラッキーだね』


 仁の言葉に対し、俺は何も言えなかった。




 結局、学部選びで決められなかったらしく、ぎりぎりまで悩んだ仁は、緋夏にどの大学の学部に行くか聞いた。しかし、緋夏もやや迷っているらしく、そこで二人はまたうんうん悩んでいた。

 それを俺は微笑ましく見ながら、応援していた。

 そして結果として、二人が選んだのは農学部と心理学部だった。

 それから二人は電話などして話しながら苦難の時期をどうにかやり遂げた。

 そして無事二人は、志望する大学の学部からどうにか合格を頂いたのだった。



『緋夏と一緒の生活だ~』


 仁は明らかに浮かれていた。これからの大学生活、生活は仁が主になっていく。

 この高校の二年ほどはまあそれほど自分の時間に使うこともなかったので、これからは思う存分使うといいと思う。


『よかったな、楽しもうな』


 そこまではよかった。そこまでは……。

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