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SaLt  作者: 蒼海 游
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第48話 父親として

 産まれてしばらくして、智や両親たちが病院に着いた。皆変わるがわる赤ちゃんをみて、可愛いや、かっこいい子どもになると騒ぎ立てた。確かにその子どもは、咲良にも悠斗にも似ていて、いいとこ取りしているように見えた。容姿云々がどうであるにしろ、可愛い子には変わらないのだが。

 名前はどうするのだろうか、そう思って聞いてみると、


「ちゃんと教えますよ」


 そうニヤニヤしながら悠斗に言われた。なぜか決まるまでは内緒らしい。


「孫か……また家族が増えたな」


 新生児室の前で生まれた赤ん坊をガラス越しに見ながら、智は嬉しそうな顔をしている。


「よかったな」


 そう言うと、智はニヤニヤしながら俺を小突く。


「お前の孫、そして甥でもあるんだろうが」


「そうだな」


 淡白に答えるが、もちろん嬉しいに決まっている。先ほどから興奮が収まらない。

 まるで大希が産まれた時と似た感覚だ。


「しっかし、そんなに渋るとはどんな名前になるんだか」


 悠斗たちが発表を渋るせいで名前は皆の関心事となっていた。


「さあ、意外とちゃんとした名前になるんじゃないか?」


「どうだかな」


 正直変な名前にさえしなければ構わないのだが、少し嫌な予感もしなくはなかった。


 そして、ついに発表するとの知らせを受け、皆集まってみると、色紙にはこう書かれていた。



『小林 慎太』



 唖然とした。てっきり今らしい名前にすると思っていたが、まさか…。


「慎ちゃんって呼んであげてください」


 ……やられた。

 悠斗と咲良は、明らかに俺の方を見て、仲良くいたずらっ子のような笑みを浮かべた。




 産まれた子は、皆に愛されぐんぐん育っていった。俺たちはその他のプライベートが忙しくなり始めた咲良や悠斗を支えつつも、温かく二人と慎吾を見守っていた。

 落としそうで怖い悠斗の抱き方には何度かハラハラした。悠斗本人はあえて落とさないだろうが、ちょっと手を緩めると危ない。


「んー、可愛いねぇ」


 それに比べ咲良は安定している。大希も二度あったからか、まだ安定していた。


「慎ちゃん」


 そう呼びかけるたびに俺が反応しそうになるのは反射だから不可抗力だ。そう、まるで赤子が差し出された指をつかむようなそんな感じで。


「慎ちゃん」


 そう咲良たちがいうときはまだわかる。少しは反応してしまうが。それを面白おかしく見ている悠斗が不愉快だ。


「慎ちゃん」


 由利が言うと本当にわからなくなる。

 皆がそれを密かに笑うが、由利だけは本気でどうするか悩んでいたようだった。複雑な顔をしていた。


「ほら、おじいちゃんだよ」


 ぼんやりとこちらを見る慎太に、小声ではあるが悠斗がそう言ったのでそれはさすがにやめてくれと目で訴えた。最近色々な人に仁のことを忘れられている気がする。


「……叔父さんだよ」


 またいつか教えるかは置いといて、何も知らないままふとしたタイミングでそう呼ばれてしまっては困る。俺にとっても、仁にとっても。


『叔父さんかぁ』


 仁はそう心の中でぼやいた。ずっと前から分かっていたが、改めてといった感じだ。


『おじさんかもしれんぞ』


 そう冗談めかして言うと、意外と確かに、と言われたので驚く。


『父さんはいい歳したおじさんだもんね』


 妙だなと思っていたらそういうわけだったか。それはこの身体でしか通じないジョークだな、と俺は苦笑いする。


「もう一人のおじいちゃんはまた島に帰ってしまったからなぁ」


 悠斗がそうぼやく。智の話題が悠斗から出てくるとは思いもしなかった。


「そういえば、お前の父親には会わせたのか?」


 ふと気になって尋ねてみる。慎太が産まれた日、あまり悠斗の父親を見た覚えはなかった。確か父親は引きこもっていたと言う話で、挨拶の日も結婚式も健康上の理由で代理の席に祖父母が座っていたようだったが……。


「あぁ……見にきましたよ、皆がいない時間にこそっと」


 悠斗は少し顔を歪めながらもそう言った。


「いい加減あいつも、こうやって会話したりしたらいいのに、気が弱い」


 久々に悠斗から冷たい言葉を聞いた。ずっと思っていても、口には出さなかったのだろう。


「とまぁ、これ以上はあまり子どもの教育にも悪いのでここまでにさせてください。まだうちには祖父母もいるんで」


 しかし悠斗はすぐに表情を切り替え、笑顔を見せた。親としての自覚が芽生えていることはいいことだ。


「そういう点では、咲良はすごい素敵な親なんだろうなって思うんですよ」


 咲良は寝ている。母乳をあげるために何時間にもわたって起きているので、授業は暇な時に受けるように先生からもしてもらい、十分な睡眠を取るようにしていた。


「あんなにも子どものために一生懸命になって、命を削るような思いで育てている母親なんて俺は知りません」


 母親はいつから悠斗を見捨てたのだろう。まだ赤子の頃は可愛がっていたと信じたい。


「俺は、そんな咲良を絶対に見捨てたりなんかしません。支えていきたいっていつも思ってます」


 悠斗の腕の中で、慎太はすやすやと眠っている。最初不安定だったその腕は、いつの間にか安定していた。


「当たり前だ。見捨てたらどうなるか分かってんだろうな」


 俺はそう返す。親として当たり前すぎて偉いなんて言える内容ではない。それを当たり前のように与えられなかった彼には、当たり前ではないかもしれないが。


「考えたくもないですね」


 悠斗は苦笑いした。

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